マガジンのカバー画像

『骨ん中の繭』

34
このフィクションが、どうか、どこかの現実で出現しますように。  令和6年5月12日 吉田昂平。
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事

1.『7月16日』

 2011年 7月16日  ジャングルジムの中から志乃ちゃん達を見ていた。  あれは鬼ごっ…

吉田昂平
2か月前

2.『7月18日 〈1〉』

 7月18日  画面に映るふたりのリズムを聴くとフワり緊張が解け、体のどこかが開いた感じ…

吉田昂平
2か月前
1

3.『7月18日 〈2〉』

「服、選んでほしい」わたしは志乃ちゃんに尋ねた。 「あたしでいいの?」志乃ちゃんはわたし…

吉田昂平
2か月前
1

4.『7月18日 〈3〉』

 『不憫不便』のボケ担当、野々子邦彦がバライティ番組に出るたび、美談の様相で「ブスマンの…

吉田昂平
2か月前
1

5.『7月19日』

 7月19日  痛い。  口内が痛い。  口の中で昨日が疼き回ってる。  みんなが間髪入れ…

吉田昂平
2か月前
2

6.『7月24日 〈1〉』

 7月24日 「親戚の集まりで下ネタ言う感じ」 「え?」 「うんうん、そう。親戚の集まりで…

吉田昂平
2か月前

7.『7月24日 〈2〉』

「ハルちゃんは漫才かコントどっち?」  佐伯が歩くたびチャラチャラと音がする。鍵が擦れる音だろうか。 「どっちとも」 「両刀!?」 「いやそうじゃなく」 「ピン!? ピ、ピン? あ、フリップ!? 漫談? わかった落語家だ!」 「いや、あの、別に芸人目指そうとはしてない」 「へ?」佐伯はそのままの表情で固まってしまった。 「あれはね、なんというか、笑わせるためやなくて」 「ええええ!? それマジに言っとる? 笑わせる以外でマイク食べる理由って存在するん!?」 「するかも」 「え

8.『7月30日』

 7月30日  後ろにいる。なにかいる。消えてくれない。  考え過ぎだろうか。  おんぼろ…

吉田昂平
1か月前
1

9.『同日 加藤瑛眞』

 同日 加藤瑛眞  あの話は私の話でもあるから私だってなにか力になりたい。  できれば一…

吉田昂平
1か月前
1

10.『7月31日』

 谷田遥香  インターホンの音で目が覚めた。首をもたげた扇風機の羽は静止していた。  着…

吉田昂平
1か月前
1

11.『同日 加藤瑛眞』

 同日 加藤瑛眞  歩道橋に全身黒い服の男がいた。  男の両目は前髪で隠れているが歯をむ…

吉田昂平
1か月前
1

12.『同日 谷田遥香』

 同日 谷田遥香 「ごめんね」 「なんで? なんで謝る?」 「巻き込んだ」 「仰向けの蝉は…

吉田昂平
1か月前

13.『同日 谷田遥香②』

 寂しい横顔に突き刺さるジョークの一つでも。わたしが今できることは笑わせること。佐伯がわ…

吉田昂平
1か月前
1

14.『同日 加藤瑛眞②』

 電灯がカカカと音を立てている。空は相変わらずの色で、雲にオレンジが急速に、着実にじんわり流れ込んで行く。  枯れ葉は地面を這い、回転する風が葉を宙に浮かせ、浮いた葉は橋に吸い寄せられて行く。木々がざわめき悶える。  どこか遠くでヘリコプターが飛んでいる、と、思ったがそうじゃない。風が強過ぎるのだろうか。  風は突然止む。また吹く。そしてまた止む。私たちを欺くようにそれを繰り返している。前髪が何度も目に入りそうになる。  橋には既に誰かいて、その誰かはなぜ、こんなにも”予想通