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【創作】岬にて【スナップショット】

すごい、きれいな場所
 
本当だ
 
良く晴れてよかったね
 
ああ、今日は良く晴れて
波が高い
昨日はあんなに雨が降っていたのにね
 
ずっと遠くまで見渡せそう
空ってあんなに青いんだね
海と色が違う
空と海の境界線って、本当にあるんだね

あるように見えているだけだけどね
遠くから見れば
海と空が接しているように思えるけど
本当は全く違う場所
境界線なんて幻だ

もう、何でそんなこと言うの?

分からない
もしかしたら幸福過ぎるからかも
今とても戸惑っている
暗闇から急に日のあたるところに来て
目が眩んでいる、きっとね

私と一緒で幸せ?

たぶんね

よかった
ねえ、こうやって水平線を見ていると
色々な考えが浮かばない?
ほら、無限ってあるんだよ
たしかに幻かもしれないけど
私たちがここから見ている分には
綺麗な水平線が確かにある
だから私たちは
清々しい気持ちで
何か頑張ってみようって気持ちになる
きっと無限になんでもできる
綺麗な景色ってそんな力がある
って思う

僕が思うことは別のことだ

なあに?
 
ここから落ちたら簡単に死ねると
 
そんなことを簡単に考えたらだめ
 
そう思わなかったことはない?
 
何のために?
 
わからない
何か僕はこういう場所に
ずっと立っていたのかもしれないと思う
遠くを見れば
無限が広がっているはずなのに
足元を踏み外したら
真っ逆さまに堕ちていくんだ
そう囁く声があって
僕はそれを聞かないように逃げてきた

君の家族のこと?

きっとそうだ
これから卒業しても
ずっと一生付きまとうんだと思うと
いっそ全てを断ち切ったら楽だと
考えることもある

それも幻だよ

何が?

ずっとこれからも
悪いことが続くように思えること
君が否定した水平線と同じ
きっとそれは錯覚
遠くにあるからそう見えているだけ
同じ幻だったら、
もっと綺麗なものを見ない?
あの水平線みたいにさ

なるほど

水平線があるって信じれば
それはあるよ
無限があるって信じれば
それもある
不幸な日々が向こうにあると思うなら
やっぱりそれもでてくるよ
こうやって風を感じて
空と海がどこまでも続くことを
信じていよう

ありがとう
そうだね
僕たちはそんなに遠くまで
行けるわけじゃない
だから本当に水平線を
信じるべきなんだ
どうしても僕は
不安で居続けることに安心してしまう
きっと、そんな悪い習慣は
もう終わりにする時だ
君と一緒にいることで

昨日の夜、私たちは
幸せだった
そんな幸せも幻?

いや、確かにある
見えなくても
確かに感じられる
曇った日や
霧の深い雨の日で見えなくても
本当はそこにある水平線のように
幸せが確かにあると思う
そして、そんな見えない時でも
君を信じ続けたいと
僕は今思っている

私も
だから幸せでしょう?

そう、きっとね










(終)


※【スナップショット】では
ワンシチュエーションでの
短いダイアローグや詩を
不定期に載せていきます。


今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイや作品で
またお会いしましょう。


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