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ジャンル:文学

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小説や詩についてのエッセイや批評をまとめました。
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記事一覧

幸福の比喩 -小説『春は馬車に乗って』について

【水曜日は文学の日】 比喩は詩の根幹であり、小説にとってもまた重要な要素の一つで…

素直な心のうた -小説『車輪の下』の美しさ

【水曜日は文学の日】 以前『三四郎』について、ある種の途上で移行期だからこそ小説として…

心の中を辿る旅 -小説『失われた足跡』の魅力

【水曜日は文学の日】 旅をすることは、自分の内面を探検すること。それは、ロードム…

言葉をきらめかせる -ボブ・ディランの詩と音楽

私たちは文学と音楽を切り離して考えています。しかし、本来はこの二つは結構混ざっていたもの…

軽やかな青春の一ページ -夏目漱石『三四郎』についての随想

【水曜日は文学の日】 あらゆる芸術家には最盛期というものがあります。どれほど平板な創…

少年たちは学ぶ -小説『最後の授業』、ヘッセ、安岡章太郎

【水曜日は文学の日】 名作は様々な年齢で受け取り方が変わると言われます。それだけでな…

霧の中で過去をつかむ -須賀敦子のエッセイについて

【水曜日は文学の日】 私がエッセイを書いていて、誰の文体や作品が理想かと言うと、須賀敦子だという気がします。 彼女のような題材は持っていないし、書き方が違うのは自分で分かっている。でも、真似は出来ない理想としての規範みたいなものがあって、私にとって、ことエッセイに関しては、須賀敦子の一連のイタリアでの回想を書いた作品が、それにあたります。 須賀敦子は1929年生まれ。イタリアに渡り、イタリア人と結婚して、翻訳者として活動します。夫と死別し、1971年に帰国すると、

コラージュ小説は楽しい -小説『これは小説ではない』の魅力

私が普段毎日読んでいるnoteのフォロワーの方で、コラージュを掲載されている方がいらっしゃい…

破天荒にもほどがある -岩野泡鳴の「自伝的小説」

以前、自然主義作家の徳田秋声について書きましたが、日本の近代文学において、「自然主義文学…

歴史の蝶がまどろむ -ゼーバルトの傑作小説『移民たち』について

歴史を感じるには、ノンフィクションを読むだけではありません。フィクションでも、歴史の大き…

温もりのある小咄 -ヴォネガットの小説『デッドアイ・ディック』の魅力

アイロニーを突き詰めて、ヒューマンな温もりをもたらす作品。こうした作品の中でも、カート=…

軽やかでたくましいヒロイン -徳田秋声『あらくれ』の魅力

古典と呼ばれるものは、レッテルに囚われずに鑑賞すると、思いもがけず楽しめたりします。レッ…

時の迷宮で夢を見る -エリクソンの小説『彷徨う日々』の魅力【エッセイ#60】

長篇小説の大きな魅力の一つに、様々な時代のドラマや、幻想的なドラマを組み合わせることがで…

芳醇に香る「自由」 -シラー『ドン・カルロス』の面白さ【エッセイ#57】

長くて複雑な演劇や映画、小説の素晴らしさとは何か。沢山ありますが、その一つに、この世界の複雑さを見せてくれる、というのがあります。 世の中は、決して単純にできていない。多くの思惑が組み合わさって、善いことも悪いことも出来上がっている。そうした世の複雑さを私たちに体感させてくれます。 まあ、勿論、時にはそんな複雑さを忘れて、シンプルな世界だけを見ていたいと思うこともあります。ですが、やはり、複雑なものには、単純なものにはない良さもある。 フリードリヒ=シラーの戯曲『