【創作】公園で【スナップショット】
ああ、いい天気！
風も気持ちいい
来週もこんな天気だったらいいな
きっと晴れる
いいえ、晴れなくても
いい日になる
あなたの結婚式なんだから
母さんは幸せ？
ええ、とても
あの子はとてもいい子だし
不安はない
よかった
あなたがよかったって
言ってくれるだけで
私もよかったという気持ちになれる
多分、式の時には
ありがとうしか言えなくなるから
今聞いてもいい？
ええ、何でも
母さんは人と距離を
適切に保てる人だと感じている
僕は母さんを疎ましいと
感じたことが今まで一度もない
他の人の話を聞いて色々な本を読んで
ずっと不思議に思っていた
どうして母さんはそういう人になれた？
私だって人との距離感を上手く測れない
でも、あなたを育てていた時に
思った時に覚えていることがある
それは？
それを話すには
私がまだ小さい頃の時から
話さないといけない
あなたの死んだおばあちゃんは
人との距離を測れない人だった
人が触れられたくないところに平気で触れて
人を小馬鹿にして
それで相手が怒りだしたら
なぜ怒っているのかを
理解できないような人だった
それでいて、いい教育といい習い事を
受けさせることが
娘の私を幸福にすることだと
頑なに信じていた
きっと、自分が小さい頃
そういったものを手に出来なかったから
そう
あと、今になって思うと
本当は愛されたかったのだと思う
はっきり、私は言われたことがある
自分にとって、子育ては
自分の理想のユートピアをつくることだって
ユートピア？
そう、多分、お母さんは
自分が本当に愛される理想郷を
子育てに夢見ていたのだと思う
人との距離感がとれずに
愛されている実感が掴めないから
血が繋がっている親子なら
自分は無条件に愛されると
でも、当然、そんなことはない
ええ、そう
そう言われた時どう感じた？
何て言っていいか分からなかった
ただ嫌悪感で
逃げたい、遠くに行きたいと
強く思っていた
行かなかったけど？
行かなかったけどね
それから年月が経って
あなたのお父さんと会って
結婚した時も
心のどこかで母を夫に会わせたくなかった
私は母を恥じていた
私は母のようになりたくないと
ずっと漠然とした恐怖を感じていた
それはあなたが生まれた時も変わらなかった
それが変わったのは？
いつだったか分からないけど
あなたがまだ赤ん坊の時
そう、こんな空がまぶしい
晴れた日だったと思う
私は家で洗濯物を畳んでいた
暖かい陽射しが差し込んで
あなたが横で笑って
私を見ていた
その時不意に
あのお母さんの言葉を思い出したの
そして、強く思った
ユートピアを私の手で終わらせよう、って
私はユートピアなんて欲しくない
ただあなたがこんな風に
笑って泣いている姿を見ていたい
そう思った時
初めてあなたを心から愛せるように感じた
そこから変わった？
そう、ドラマチックなことは
何もないけど
私の頭の中にあった願いが
その時初めて言葉になって
形になった気がした
川の水をせき止めていた石が
外れて流れていくように感じた
そしたら
本当になりたい母親になれる気がした
自分の母親とは違う人間になる
あなたがいることをただ尊重して
あなたが困っている時に
そっと手を差し伸べて
あなたの夢をつぶさずに
あなたが自分の足で
立てるような人生を祈って
あなたが心地よい程よい距離を保つこと
そう、分かったの
それからずっと母さんは
その思いに忠実だった
何度も忘れたけどね
それでも何度も思い出して
僕と適切な距離を
保とうとしていたのが分かるよ
それは本当に母さんが心から
思っていたからだ
ええ、きっとそう
ありがとう、僕も子供ができた時に
その子との距離を保って
幸せを願える人間になるよ
それがきっと自分がもらった幸せを
増やすことだと
心から思っているから
ありがとう
あなたがそう言ってくれることで
ようやく私も
一つの呪いを解くことができたように感じる
そう、だから
結婚式が晴れでも雨でも
私や父さんやあなたたちにとって
とても幸福な日になるわ
今日みたいに？
今日みたいに！
（終）
※【スナップショット】では
ワンシチュエーションでの
短いダイアローグや詩を
不定期に載せていきます。
今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイや作品で
またお会いしましょう。
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