【創作】ダンス教室で【スナップショット】
少し休みますか
ありがとう、そうね
少し座って一息つくわ
こうして二人でいると気詰まりね
答えを出さなければいけないかなと
僕は待っていますよ
そういわれるのがとても怖い
私はもう待たせる時間は
それ程残っていないし
僕に対して魅力を感じていないと？
いいえ、そうじゃない
ただ
疲れてきているというのはある
また新しい恋愛や
新しい生活を始めることに
僕は生涯あなたを大事にすると
断言している
でも、あなたは僕をただ浮かれていると
やがて心変わりするかもしれないと
言うかもしれない
何を誓っても嘘に聞こえるかも
でも、僕は何度でも
あなたに僕の気持ちを伝えます
いいえ、あなたのことを
信じていないわけではない
あなたは今本気で喋っていることは
分かっている
何があなたをためらわせているのですか
何を恐れているのですか
また新しい生活に失敗することですか
繰り返すことよ
若い頃はやることなすことが新鮮で
失敗しても次は何が起こるのだろうと
前を向いていられた
この年になると失敗はもう怖くない
もう自分が歩ける範囲も
分かってくるから
あなたが心変わりして
私の生活が失敗しても
全然怖くはないの
ただ、何度も何度も自分が
同じことを繰り返していることに
時折気付いてうんざりする
僕は前の旦那さんと同じだと
違う人間だと分かっている
きっともっと善良な人なのだと思う
でも、ある瞬間ふと、
あなたが笑う癖はあの人と同じだ
あなたはまるであの時のあの人のように
ロマンチックなことを言っていると
昔のことを思い出す
そんな風に思えるのですか
怒らないでね
いいえ、怒っていません
ただ、そんなこと自分は
感じたことがないから
戸惑っている
あなたはまだ若いからね
私がそんな風に思い出すのは
あなただけじゃない
例えばダンスの若い先生
あの背の高くてつんとした顔は
私が高校生の頃のクラスの友達にいた
あるいは、この前踊った男の人
眼鏡をかけたちょっと小太りのあの人は
私が大学の時に会った教授と同じ雰囲気
私はそんなことを思いながら
毎回踊っている
私の人生が折り返したのか
どんどん若い頃に会った人たちに遡って
再会している気すらする
違う人間と会っているのに
前に会った気がするということですか
そう
何の関連もないのは分かっていても
自分の中では同じなの
どういえばいいかな
私たちはずっと
人生のダンスを踊っている
それは、メリーゴーランドに乗って
回り続けたまま降りられないようなもの
前とは違った光景が見えても
本当は、単に一周回って
そこにいる人が少しだけ動いていただけで
本当は前と同じ人と出会っている
そんな風に感じている
それが疲れることだと
でも、何度も楽しいことを繰り返すのは
喜びではありませんか
それはそう
でも、その喜びに至るまでに
もう今は足が止まってしまう
メリーゴーランドが何度も回って
酔ってしまって
あなたの言葉に答えるのも
二の足を踏んでしまう
このダンスを続けるのは
あまりにも大変
でも、僕たちが一緒に手を取って
踊り続けるのは
周りの景色を見続けるためだけではない
こう考えませんか
僕たちは踊り合ったまま目を瞑る
周りの光景は見えずに
ただお互いの身体がそこにあることを
頼りにして回り続ける
時折あなたは目を開ける
それはいつか見た光景かも知れない
それでも、すぐに目を閉じて
僕たち二人は、共に手をとって踊る
あなたが私の目を閉ざしてくれるの？
そう
それは外側に背を向けることじゃない
目を閉じて踊ることは
目以外の全ての感覚で
相手や周りの場所を感じること
僕はあなたが人生を繰り返していることを
疲れると思わないよう
あなたの傍にいる
あなたが全てに目を閉じて
踊りたくなった時に
僕はあなたの手を取る
どうですか？
不思議ね
人間はどれほど繰り返しても
やっぱり何かを求めるのだと思う
あなたの言葉に
ずっと惹かれ続けている自分が
いるのも分かる
きっとどれほど躓いても
やっぱり私は生きること、踊ることが
好きなのだと思う
では答えてくれますか
そうね、最後のダンスは
あなたと踊るかもしれない
手をとってくれる？
勿論です
（終）
※【スナップショット】では
ワンシチュエーションでの
短いダイアローグや詩を
不定期に載せていきます。
※過去の「スナップショット」置き場
今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイや作品で
またお会いしましょう。
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