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つくりごと、ほんとうのこと、そのあわい

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支援していただいた方々に、月一で手紙をお送りします。 その時、ご相手に合わせてレターセットや切手を変え、オーダーメイドで手紙を書きます。 お返事は自由です。返してもいいし、返さなくてもいいです。 綴られた文字を目で追う、その穏やかな時間を、手紙を交わしている2人の間で共有することができることが幸せで、文通が好きです。 もしお返事をいただけるのならとても嬉しいです。 私の知らないあなたの、日々を過ごす中で考えたこと、感じていること、見ているものを、お手紙を通して聞かせてください。 好きなこと、思ったこと、発見したことやそのとき心を動かされたものなど…自由に心のままに書いてくださるとうれしいです。 手紙を書く時には、面映いような素直な心のうちも、明かすことができるような気がします。 手書きの文字も、相手のことが垣間見えたり、気持ちがより伝わるようで素敵です。 旅先から手紙を送ることが好きです。思い立った時にペンを執り、手紙を送るのが慣わしです。 未だ見ぬあなたと文を交わすのを心待ちに。

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少しのあいだ、さようなら

恋人と住んでいた北にある家を出て、また生まれ育った家に戻って二年ほどいた。家に家人といる間はひとときも気が休まらず、誰にも告げずに飛行機のチケットを取り二ヶ月の間ヨーロッパを放浪し、また南の果てにある島に移ってきたのが半年ほど前だ。あまりに時間が経つのは速い。 私はその間にも男と出会い、あらゆる偶然が重なり、小さな家に二人で居付くことになった。 私は既にここを出たい衝動でそわそわとし始めていて、またあらゆるままならなさに時々物憂げな気分になったりする。 人と暮らすということ

    • あなたに手紙を書くということ

      手紙屋を始めました。 手紙屋ってなんだ?という話から始めてみます。 手紙を貰うのって、いつもとっても嬉しいのです。 ポストを開けた時に、予想もしていないタイミングで手紙が目に飛び込んできた時の喜び。それを味わってほしくて、手紙屋を始めようと思ったまであります。 手紙を書くのも大好きです。 そこにはいないその人のことを考えて、一文一文綴っていく時間。 どんなことを話そうと思って忘れていたんだっけ。今度何を一緒にしようと思っていたんだっけ。前は何を話したっけ。何が好きなんだ

      • 愛と自由(短歌)

        黄昏時 夜明けとともに覚める目 厳かに告ぐ 世界の始まり 自由の身 逃げるオリーブ追う親指 静かに祝えパンと葡萄酒

        • 遠くからの便り

          私はひとところに留まるのが苦手で、高校から現在まで様々な場所を漂ってきた。 どこかに居着くという感覚が苦手なのだと思う。小さい頃から抱えてきた自分自身への居心地の悪さが、その場で根を張るということへの居心地の悪さに転換して、どこにも所属しようとせず、友達もほとんど作らず、逃げるようにして各地を転々としてきた。そうして守るべきものを極力作らないようにしてきたのだと思う。 孤独は身軽であるということで、身軽ということはつまり孤独だということだ。できるだけ荷物を増やさないように、い

        少しのあいだ、さようなら

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          遠くからの便り

        記事

          血潮

          やっと自分の身体に知覚が戻ってきて、世界に焦点があった時、右眼と左眼のぼやける像が合致して一つの像を結んだ時、一番はじめに動かせたのは手だった。 まず指がぴくりと動いて、そろそろと手を持ち上げて、腕をゆっくりと宙に伸ばす。長い眠りから醒めたような頭と、身体が同期されてゆく。 窓から差し込む光に目を細め、手のひらを翳す。真っ赤に流れる私の血潮。生きている、生き延ばされてしまった私は生かされている。 あかあかと流れる血は、私の身体をさかんに巡り、いま、命が私の身体を激しく流れてい

          孤独な暗闇で叫び続けろ

          どうやらこの風邪はずいぶん拗れてしまったらしく、まだ治らない。熱でやはりハイになっているのか目は冴え続け、頭はひたすらドライブし続けているので、こうして文章を書いている。 社会から逃げ隠れしているうちに誰かに認めてほしいと思う気持ちはもうなくなったけれど、自分の言葉が誰かに伝わっている手応えは全くなく、虚しい。いや、本当に伝えたいことはけして誰にも伝わることがないのだと、私は知る必要があるのかもしれない。 私はいつも言葉に誠実でいなくてはいけないと思っている。それは私が人

          孤独な暗闇で叫び続けろ

          狂わないために狂うこと

          つまり、まともにこの世界に取り合っていたらあなたは最早まともではいられないのだ。 (到底受け入れることのできない事象がのさばっているこの世界で、私の周囲を流れてゆく人々はこの世界の前提条件とされているルールを当たり前のように受け入れ、順応してゆく。 私はこの、ままならない世界で今日一日を生き延びるために思考する。疑問ばかりだからだ。 何もわからない霧の立ち込めるこの未開の土地を、自分の足で彷徨いながら開拓してゆくしかない。それはひどく孤独で恐ろしい作業である。 私にはあなた

          狂わないために狂うこと

          朦朧

          痛飲して煙草を一晩で三箱も吸い免疫が弱っていたのか、三月なのに雪が降って、ついはしゃいで雪の中で遊んでしまったせいか、久しぶりに風邪を引いたので、家で休んでいる。布団の上にいるのは退屈で、何度も起きてしまう。解熱剤を飲んでも熱が下がらないものだから、暑さで息苦しくなり、目はどんどん冴えていってしまう。咳が出て喉が痛いのに、煙草を吸いたくなってしまう。何本も吸った。冷たいお茶で喉を冷やしては、また煙草を吸う。額の上の吸熱シートはすぐぬるくなる。今私が自分の身体を痛めつけ、苦しみ

          私の頭の中の川

          日々絶えず思考が頭の中を巡る中、外側からはまた絶えず外部刺激がある。私が見たり聞いたり読んだり体感したりしたことを受けて、思考は一本の流れではなく、横や上から流入してくるものを受けてぐるぐると渦を巻いていく。できるだけ記録しておきたいと思うのだが外の流れは私の中の川の流れより早く、また記録を取ろうとする手に思考が追いつくことはなく、しようとするとうまく書き起こせす、考えたそばから霧散していく。外の流れはその間も止まることなく、他から流入してくる急流を受け入れることだけで精一杯

          私の頭の中の川

          Existo porque resisto

          誕生日がくると真新しい私になる。 今年はひとりで船に乗り、遠い島に旅に出た。そうすることができるからだ。 まっさらな自分で、誰も私を知らない場所に身を置くことは、私にとって大きすぎる「自分」を透明にすることができる唯一の行いだ。誰も私のことを気にしない。何をしても構わない。 砂浜に身を投げ出してぼんやりと空を眺めて、大きく息を吸って吐く。身体の隅々にまで血が通い、空気の冷たさにじんじんとする感覚がわかる。自分の身体の感覚を今まさに感じていることを知覚する。身体や髪に砂がついて

          Existo porque resisto

          愛さない

          愛する人と愛さない人は明確に違う 私が愛する人から生きる意味を得るように 私の愛さない人も生きる意味を何かから得ている 私は明確にその愛さない人に愛されたことがない と確信を持つが その人は愛を受けたことがあり 人を愛したことがあり 私が持つ憎しみは 私の憎しみは依然そこにあり その人はただ何もなかったように笑っていて 私が愛を受けることはない 私も愛することはない、それだけが変わらず 壁に投げている 壁に憎しみを投げている 何も生まないから 誰も排除されるべきではない 憎し

          愛さない

          はじめに光ありき

          はじめに光があった。言葉はその次だった。 闇に包まれ、姿もなくし、ぼろ布のようだったわたしを、彼がつくりかえた。 まともな言葉を持たぬわたしに、彼がまずかたちを与えた。 彼は魔法の手で、傷ついたわたしを癒した。 少しずつ言葉を話すようになったわたしに、「笑っていますね。よかった」と彼が言った。 わたしが光を放つと、彼はそのたび微笑み、わたしの手を握って、「もう大丈夫」と言った。 彼はわたしにものを教えた。すこしずつ、わたしは知り始めた。 優しいあなたに、私は果実を贈った。 「

          はじめに光ありき

          聴いてほしい歌があるんだ

          「あなたの歌、作ってん」と中川が言った。 「……私の歌?」私は中川が適当に淹れたインスタントコーヒーを啜る合間に返す。 中川はまったく売れていないシンガーソングライターで、子どもがそのまま背丈だけ伸びたような男だ。面白い人間だが、絶望的に自分とその世界のことにしか興味がなく、それ以外何も見えていない。私の存在は『像としては』見えているが、そこからは完全にはみ出している。 そもそも中川と出会ったのも事故みたいなもので、私が地獄みたいな人 (『欠陥』と書いてあるスウェットで現

          聴いてほしい歌があるんだ

          いまだはてみぬ

          あなたの目から、世界はどのように見えているだろう。 美しい? 汚い? 光に溢れている? 闇ばかり? 感じることをやめ、傷付くことを恐れ、身体を縮こめこわごわ見る世界は、なんとつまらないものだろう。 麻痺した感覚と鈍い目と耳と手が、ようやく周囲を把握する。 私はあなたの目がほしい。 あなたの目から見える世界に目をこらしたい。 私はあなたの耳がほしい。 あなたの耳から聴こえる世界の音に耳をすましたい。 私はあなたの手がほしい。 あなたのふれる世界は、どんな手ざわりに満ち

          いまだはてみぬ

          石本さんのこと

          ヘルシンキ郊外のイッタラアラビアデザインセンターへ。 アトリエツアーは本来グループでの参加なのだけど、メールで問い合わせたところ、運良くマンツーマンで受けられることに。ガイドのクリスティーナさんは日本語がとてもお上手で、ここぞとばかりに質問攻めにしてしまった。 この時はアトリエが秋休みだったのだけど、偶然(!)このデザインセンター唯一の日本人アーティストで、元マリメッコのテキスタイルデザイナーの石本藤雄さんがいらして、たくさん

          石本さんのこと

          小指で踊るワルツ

          異国の地でのその集まりの中で、次第にその二人と共にいるようになったのはどうしてだったか、もう覚えていない。人びとが入り乱れ、さまざまな人がさまざま場を変え話を変え、何杯も何杯もビールを酌み交わして、次第に隣り合って最後まで一緒にいたのが彼らだった。 Yは、薄い色の金の髪が長くゆらめいていて、その国のひとよろしく、メタルが好きで、古びた革のジャケットとブーツを身につけていた。この会の主催で、言葉数は少ないながらも包容力があり、ひとりひとりの話にじっと耳を傾けて、話していると

          小指で踊るワルツ