いまだはてみぬ

あなたの目から、世界はどのように見えているだろう。

美しい? 汚い?
光に溢れている? 闇ばかり?

感じることをやめ、傷付くことを恐れ、身体を縮こめこわごわ見る世界は、なんとつまらないものだろう。
麻痺した感覚と鈍い目と耳と手が、ようやく周囲を把握する。

私はあなたの目がほしい。
あなたの目から見える世界に目をこらしたい。

私はあなたの耳がほしい。
あなたの耳から聴こえる世界の音に耳をすましたい。

私はあなたの手がほしい。
あなたのふれる世界は、どんな手ざわりに満ちているだろう。

私はあなたの足がほしい。
あなたの歩く世界は、どこまで伸びてゆくだろう。

私はあなたの鼻がほしい。
あなたのかぎ分ける香りは、どんな気分をもたらすだろう。

私はあなたになりたくない。
あなたが日々すこしずつ佳いものにしている世界は、あなたがいなくてはなり立たないから。

私はあなたがほしい。
あなたの光と闇で満ちた世界をともに見たい。

私はあなたがほしい。
あなたの指が唇が髪が瞳が、あなたがほしい。

見果てぬ世界の縁を目に焼き付けることができないように、あなたの思いは見透かせない。

私にふれて、あたたかさが、やわらかさが、私が生きてよろこんでいることを、あなたはわかる?

私はあなたがほしい。
あなたがもたらす安らぎに、私が感じるいとおしさをあげたい。

私はあなたがほしい。
あなたが手渡す言葉に、私が紡ぐ糸を織り、美しさを返したい。

私はあなたがほしい。
私を生き返らせ、今こんなにも感じてよろこびを受ける身体を、あなたにあげたい。

私はあなたがほしい。
私を取り戻して、呼んだ名で、私をまた探してほしい。

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