はじめに光ありき

はじめに光があった。言葉はその次だった。
闇に包まれ、姿もなくし、ぼろ布のようだったわたしを、彼がつくりかえた。
まともな言葉を持たぬわたしに、彼がまずかたちを与えた。
彼は魔法の手で、傷ついたわたしを癒した。
少しずつ言葉を話すようになったわたしに、「笑っていますね。よかった」と彼が言った。
わたしが光を放つと、彼はそのたび微笑み、わたしの手を握って、「もう大丈夫」と言った。
彼はわたしにものを教えた。すこしずつ、わたしは知り始めた。
優しいあなたに、私は果実を贈った。
「いい香りだ」とあなたはそれを受け取って、微笑んだ。
「こんなにいい香りなら、きっと素晴らしいものに違いないね。ありがとう」
あなたが喜ぶのがうれしかった。
次第に、わたしに自我があらわれた。
わたしは知識をつけたことで、わたしを恥じるようになった。
わたしはあなたに相応しくない。わたしの苦しみをあなたばかりが取り除いて、あなたの苦しみを誰が癒すのか。
あなたはわたしの苦しみばかりを癒して、自分は辛くはならないのか。
わたしはわたしを恥じ、そのあたたかな肌を惜しみながら、彼のもとから逃げるように身を隠した。
闇が訪れる。
わたしの苦しみは、癒やされることのないまま、時間ばかりが経った。
どれほど経ったかわからない頃、わたしは、わたしを救ってくれたあなたのようになりたいと思った。
わたしも、かつてわたしが救われたように、苦しむ人を癒す人になりたいと。
わたしは学びはじめた。そして、道具を手に入れた。
人を傷つける武器ではなく、人を助ける道具だ。
わたしはようやく、わたしはこの世界に存在してもいい者なのだと思えた。
わたしは彼にもう一度再見えたいと思った。
あなたに会えるうちに、あなたに感謝をして、賛辞を送るべきだった。
あなたは素晴らしい人だと。
あなたが私を助けたから、わたしは善い人間になれたのだと。
あなたがわたしを闇から救いあげ、形を与えてくれたのだと。
あなたがわたしに向き合ってくれたことで、わたしは優しい心を持つことができたのだと伝えたかった。
わたしは震える足を引きずり、彼の元を訪ねた。
彼は変わらずそこにいて、「来たんですね」と微笑んだ。
「久しぶりですね」と暖かくわたしをもてなした。
「好きなだけまた休んで、力を蓄えてくださいね」とわたしの手を握り、わたしをまた魔法の手で癒した。
闇の中でもがいているようだったわたしの心は、浄化され、まっさらになった。
苦しみにあったことは、わたしにとってしあわせだった。わたしはそれであなたのおきてを学んだ。
「わたしはいつでもここにいます」と彼は言った。
「ここにいつもいて、あなたを待っています」と、まっすぐにわたしを見すえた。
「あなたは善の人だ」と彼が言った。
「あなたの手ははじめから、人に触れ、人を助けるための手だった。そうなるためにあなたの手は優しくあった。あなたが姿を持ったのはそのためだ」
あなたは、いつもわたしの求めている言葉を与えてくれた。
あなたはわたしに愛を与えた。
わたしはあなたの前では軽やかで、のびやかでいられた。
あなたがわたしに愛を教えてくれた。
「いつでも話に来てください。わたしはあなたの話を聞くのを楽しみにしているんですよ」
わたしがそんなふうに話すことを、わたしはずっと知らなかった。
あなたの言葉はわたしの足の灯火になり、わたしの道の光となった。
あなたがわたしに光を与えた。
はじまりはすべてあなただった。
すべてのものは、一つとしてこれによらないものはなかった。
あなたは言った。
「あなたはこの世界にあるべきだ」
そうして、わたしがあった。

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