アリシネマ

アリシネマ

最近の記事

人生劇場 飛車角

3 筋を通すと、敵を利することになる  主人公のやくざ者は、将来を誓った女がいたが、刑務所に入っている間に案の定、別の男と一緒になってしまう。その男が、やくざ者の弟分だったから、複雑な心と状況になってしまう。  ほとんど音楽がなく、映像だけで最後まで見せてしまう。特に年寄りの親分の、月形龍之介の目が凄い。凄いという語の本義はこういう怖さだと感じさせる。  主人公のやくざ者が、何かというと、男になる、とか、男として、とか言う。そして損な役回りをする。 かっこいいけど、

    • 風と共に去りぬ

      3 自分ファーストこそ生きる力  主人公のスカーレットがすごくわがままだ。冒頭から、男2人におべっかを使われていい気になってて、パーティでも男たちに囲まれて女王様気取りに振る舞う。とにかく嫌な女だけど、力強く生きている。もしこんな女が今の日本にいたら、つまはじきにされるだろうけど、適当に周囲と調子を合わせて無難に生きるより、ずっといい生き方ができるかもしれない。  1937年、戦前、ざっくり百年近くも前に作られたと思うと、不思議な気がする。古臭くない。昔の映画という感じ

      • アナライズ・ミー

        5 人として付き合えるかは、対等かどうかだ  主人公は精神科医。車をぶつけたことから、マフィアの親分のセラピーをすることになる。マフィアは医者の都合に少しも気をつかわず、結婚式の最中でもなんでも、気ままに呼びつける。気に食わないと暴力を振るうマフィアに、恐れをなして精神科医は言いなりになるが、この精神科医は回を重ねるうちにだんだんマフィアに口答えする。そこから二人に友情のようなものが芽生えていく。  なんか見ていて気持ちがいい。ロバートデニーロはマフィア映画のままのマフ

        • 髪結いの亭主

          3 何も成し遂げなくても幸せだ  主人公は、子供の時に散髪屋さんの女の人に行為を抱き、将来の夢は髪結いの亭主だと言って、父親にはたかれる。髪結いの亭主、という言葉に日本語と同じ意味合いがあるのか知らないが、この映画のタイトルを直訳すれば床屋の夫で、映画の主人公は、まさに日本語の髪結いの亭主のイメージ通り、何もせず日々を送っている。  髪結いの亭主とかヒモとかいうと、何もせず女に稼がせて無為に過ごしている人で、そんな人生は最悪だと思う。が、この映画を見て、もしかしたら、そ

        人生劇場 飛車角

          その男、凶暴につき

          3 凶暴なのは、その男だけじゃない  冒頭が何より衝撃的だ。確かあの頃、子どもがホームレスのおじさんを襲ったというニュースがあった。無抵抗だと分かってるから暴力を振るうという卑怯さに、無性に腹が立つ。ムカムカが募ったところに、たけしが子どもの自宅に行って制裁を加える。  たけしが暴力を振るう時、無表情で殴ったり蹴ったりする。それが狂気を感じさせる。見た目が怖くて暴力を振るうより、よほど怖い。怖いのは、暴力そのものより、この暴力がどこから湧いてきているのか分からない不可解

          その男、凶暴につき

          オリエント急行殺人事件

          3 人を殺していいわけはない  高級夜行列車内で殺人が起きる。列車は雪で立ち往生し、犯人が車外に逃げられる状況ではない。被害者には以前から脅迫状が届いており、刺し傷は12あった。ポアロが乗客たちに話を聞き、それぞれにアリバイがあったが、12人の乗客全員が、5年前の誘拐事件の被害者と関係があり、全員が共謀して誘拐犯への復讐をしたと推理した。そうなぞ解きをしたポアロは、もう一つの可能性として、マフィア同志の諍いで殺され、犯人は逃亡したと考えられるとして、そう警察に報告すること

          オリエント急行殺人事件

          博徒

          3  縄張りがある、何にでも手を出したら血の雨が降る、と鶴田浩二が言う。鶴田は昔ながらのやくざで、敵の組長は市会議員選挙に出馬したりして、新しい時代のやくざとして勢力拡大を図る。  鶴田のセリフにもあるが、敵の組長のやり方を見ていると、むかむかしてくる。とはいえ、不法なことをしているわけではない。途中で法律が変わり、博打が規制されるから、それからは違法になるが、鶴田にしたって賭場を開いて金を稼ぐ点では一緒だ。 同じ穴のむじなでありながら、なんで敵の組長に腹が立つのか、考

          コンペティション

          2 人間って突き詰めたら、いい加減としちめんどくさい、の2種類になるのかもしれない  金持ちが、死後に残るものをと、映画製作を思い立つ。映画をよく知らないから、著名な監督、出演者を、金にあかして集める。主役の2人に呼ばれたのが、演技にうるさい役者とギョーカイでうまく立ち回るタレントだった。二人は当然、なにかとぶつかり合う。  はじめのうち、作品作りに真摯に向き合う役者に感情移入した。それが見てるうち、だんだんこの人の真面目さ、時に融通の利かなさが、うっとうしく感じだした

          コンペティション

          マルタイの女

          3 信じれば人殺しも証言もできる  大御所女優が殺人を見てしまう。犯人はカルト信者で、女優は裁判で証言することになる。そして警官が、犯人から防護するため、一日中つきまとう。マルタイというのは警察の隠語で、対象者の意味らしい。そういえば、暴力団をマルボウ、警察庁をサッチョウ、警視庁をシチョウとか、警察関係は略語がいっぱいあった。今では絶対に使われることがないだろうが、キジルシってのもあって、キチガイのことだった。  信者もキチガイも、人を殺せるくらいの人は、何かしらを妄信

          マルタイの女

          ひまわり

          3  これも古典中の古典で、中学生の頃に見て、陰鬱な記憶しかなかったが、今あらためて見て、やはり悲しみしかない。恋愛ものという評判も聞くが、むろん恋愛ではあるのだが、今のロシア・ウクライナの紛争下で見ると、反戦ものと見える。  イタリア女は、結婚した男が戦争から戻って来ず、ソ連まで探しに行く。そしたら、夫はロシア女と結婚し、可愛い子どもまでいた。女は戦時中からずっと男のことを思い続けていたのに、男はほかの女と一緒にいたと知って、とても平常ではいられない。 男も、戦争で記

          日本暴力団 組長

          3 ずるいことを臆面もなくできる奴が強い  大阪の組が全国に勢力を伸ばそうと、各地の組と手を結んでいく。各地区では、大阪の組の進出に対抗するため、地元の組の連合会ができる。大阪の組はその中の一つにうまいこと言って手下にする。そして、手下と地元の組が抗争を起こし、両組とも体力を失う。そこに大阪の組が出てきて、勢力下に置くという戦術だ。 汚い。けど、人を戦わせて漁夫の利を得るというのは、昔からの戦術だ。誰もがそうしたい。そうしたいけど、現実にはなかなかできない。できないのは

          日本暴力団 組長

          アイ・フィール・プリティ!  人生最高のハプニング

          4 自信に根拠などいらない  主人公の女は決して美人とはいえない。自信が持てず鬱々と日々を過ごしている。けど向上心は旺盛で、美しくなろうとジムに通う。そして、あの一か所でこぎ続ける自転車マシーンに乗っている時に転倒し、何のはずみか、自分がものすごい美人になったと思えるようになる。 周りの人には何も変わって見えないが、当人だけは自分が美人に見えている。それからこの女は憧れの仕事に応募して、見事採用される。彼氏もできる。仕事で社長に認められる。全て、自分に自信があるところか

          アイ・フィール・プリティ!  人生最高のハプニング

          ビリギャル

          3 がんばった奴に結果が出るとうれしい  好きなことだけしてればいいという親のもとに育った娘が、大学までの一貫私立校に入り、好き放題してたら停学処分になり、ほかの大学を受験することにする。塾に入り、どうせやるならと、慶応を目指す。  他人事ではない。この娘は高2の夏休みに塾に入ったから、受験まで1年半。自分は高3の夏から勉強を始めて、浪人して東大に入ったから、やはり1年半。さすがに小4レベルの学力ではなかったが、地方の公立校で、成績は下位。最下位とは言わないまでも、下の

          RRR

          5  おもしろかった。インド映画は「踊るマハラジャ」以来だ。異例の大ヒットと聞いていたが、劇場で見逃した。テレビで見ても迫力があった。植民地での非道さが、いつだったか王室の人がインドに行ったのがニュースになってて、それほど禍根を残すほどのものだったことも想像できた。 主人公の2人が、両方ともひげを生やしてて、はじめのうちどっちがどっちだか分からなくなった。それでもアクションシーンの緊迫感で見飽きることがなくて、人が重力を超えて飛んだり飛ばされたりするし、野獣もCGなのが分

          バビロン

          3 時は移る、人は過去の自分に固執する  ハリウッド。一旗揚げようとやってきた女が、演技力が認められて女優になり、そしてスターになる。撮影所では監督が威張り散らし、大御所俳優は飲んだくれている。エキストラが怪我したり死ぬくらいなんでもない。槍が飛んでくると、危ないではなく、槍が新しいと文句を言う。いい映像を撮ることが最優先され、ほかのことはすべて犠牲にしてもいい。そこにいるみんながその価値基準で生きている。  そして無声映画からトーキーへ。映画の作りが変わり、かつてスタ

          スウィングガールズ

          3 関係に振り回されてる  高校で夏休みに補習を課せられている女子高生たちが、ジャズバンドを組むことになる。補修を受けている女たちの様子が目に入るだけでイライラしてくるようなクソ女たちだ。補習をさぼるために吹奏楽部の弁当を届ける役を買って出る。列車内でみんなが寝て乗り過ごし、歩いて弁当を持って行くが、そんなやつらだから途中でこぼしたおかずをもどしたりする。 案の定、弁当を食べた吹奏楽部員たちは全滅。代わりに野球部の応援をする楽団を、このダメ補習チームが組むことになる。当

          スウィングガールズ