アイ・フィール・プリティ!  人生最高のハプニング

自信に根拠などいらない

 主人公の女は決して美人とはいえない。自信が持てず鬱々と日々を過ごしている。けど向上心は旺盛で、美しくなろうとジムに通う。そして、あの一か所でこぎ続ける自転車マシーンに乗っている時に転倒し、何のはずみか、自分がものすごい美人になったと思えるようになる。

周りの人には何も変わって見えないが、当人だけは自分が美人に見えている。それからこの女は憧れの仕事に応募して、見事採用される。彼氏もできる。仕事で社長に認められる。全て、自分に自信があるところから生まれた成功だった。

 人は若い時、根拠のない自信を持てる。根拠のない自信を持てなくなったら、その時から大人なのかもしれない。大人になったら、人生つまらない。失敗は減るかもしれないけど、はたから見て無謀なことに挑戦してこそ人生はおもしろい。うまくいくことが分かっているものや、失敗した時のために保険をかけたりしては、おもしろいわけがない。

はたから見て無謀なことに一歩を踏み出せるのは、根拠のない自信があってこそだ。主人公の女は、その大人にはありえない宝を手に入れた。そして最強になった。

 This is the only place to me. 就職面接で女はこう言い放つ。視野の狭い奴の発言だ。もっと広い世界を見てこい、と言いたくなるが、このくらいの猪突猛進が世界を開くのだろう。根拠のない自信にあふれた女は、世界のあらゆるものをポジティブに受け止める。それこそが最強の要因だ。

彼氏ができたのも、男が自分に声を掛けてきたと勘違いしたから。就職できたのも、自分の美しさが会社に見合っていると勘違いしたから。かつての女なら社長に意見を求められても、もじもじして思うことを言ったりできなかったろう。自信は周りの人の見方まで変えてしまう。日本の子どもは自尊心が低いとよく言われるが、まさにその通りで、自信がないからチャンスを逃してしまう。

 以前タイに行った時、自分は英語があまりうまくないが、あなたは英語がしゃべれるかと、つたない英語で聞いたことがある。そのタイ人は自信たっぷりに、自分は英語が得意だと答えた。そしてものの数分もしないうちに、その英語は中1の落ちこぼれレベルにも達していないと、気づかされた。日本人の下手な英語は、タイ人の上手な英語よりよほどうまい。でも根拠のない自信を持ち合わせているそのタイ人は、英語の多少できる日本人よりよほど幸せそうに生きていた。自信に根拠などいらない。自信があればなんでもできる、と言ったのはアントニオ猪木だったか。違った、元気があればだった。

 主人公の女の際立った才能は、周りの人が誰も自分を美人だと思っていないことに、微塵も気づかないところだ。どんな自信も、人の反応によって揺らいだりするものだが、この人は気づかない。だから根拠のない自信を保っていける。一瞬の自信なら誰でも抱くことがあるが、それが持続しないから何事かをなしきれない。この女は、たまたま得た根拠のない自信を、生まれ持ってのものか、自信ゆえに生じた力か分からないが、鈍感力を合わせ持つことで大きな結果につなげることができた。タイトルが示す通り、自分がカワイイと感じてればいいのであって、周りの思いなどに振り回される必要はない。

 この映画では、主人公があこがれる女社長も、自分の声に劣等感を抱いている。社会的地位も財産も、持たざる者はもし持つことができたなら悩みが解消すると思ってるけど、実際はどこまでいったって不満や劣等感が解消するなんてことはありえない。むしろ得たものが大きければ大きいほど、欲もそれだけ膨らんでますます不満や劣等感が増すのだろう。

 主人公が通うジムで、インストラクターは変わろうと声を掛ける。通っている人たちもみんな、自分を変えようとして移動しない自転車のペダルをこぎまくる。体型を変えようと必死だけど、外見が変わったところで新たな不平不満が増えるだけのことだ。

この女のように、見かけは何ひとつ変わってないけど、気持ちが変わる、というのが最善の方法なのかもしれない。けど、それが一番難しい。だからこんなプチSFみたいな映画が作られるのかもしれない。頑張れ俺。


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