山のひと
少し時間を空けてしまった。
祖父母と隣り合わせになりながら、薪ストーブを囲んでいたのは10月半ば頃だった。
火入れをしたばかりの昔ながらのストーブがぱちぱちと音をたてる。
襖や引戸を開け放しにしながら、時々気まぐれに暖をとりにいくような秋の日だった。
私たちは祖父に教えてもらいながら、からむしの皮剥ぎをしていた。
本来ならば長く細く、使い勝手のいい繊維になるはずなのだがうまくいかない。
枝の節々が邪魔をするし、剥がれた皮も厚くない。
二度刈り取ったあとの若い茎だからだと教えられる。刈りとる時機も遅かった。
祖父はこどもの服を脱がせるようにいとも容易くからむしの樹皮をするすると剥ぎ、ひとつながりの美しい繊維にしてみせる。
私のからむしはいつもぶつりと断たれてしまう。
祖母は、皮を剥いだあとの丸裸のからむしを割り箸などと一緒にしながらストーブの中へくべていた。
暫くすると、客があった。
いわゆる公務員服というのだろうか、薄いカーキ色のジャケットを着ている。
首からは社員証をぶら下げていた。
工事車両の往来による保証手当の話であった。
祖父母の家の前の道路はこの数年、ダンプカーがよく通っていた。
沿岸部に続く新しい道路やトンネル建設のためである。
この集落には不似合いなばかでかい車両は、山草木に見慣れた目には異様な脅威でしかなかった。
客人の内容説明は丁寧でとてもわかりやすく、三人で耳を傾けながらほうほうと何度も頷いた。
耳ざわりのいい訛りから、彼も岩手の人なのだとわかる。
それじゃまた、と客人は去った。
いただいた名刺を皆で見る。
沿岸部の支社におり、名字に「波」がつく人だった。
荒ぶる波という名字。
このへんでは見ないネ初めて聞いたネと話しながら改めて、私もやっぱり山の人間なのだなあと思った。
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