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印度林檎之介 ショートショート

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印度林檎之介作 珠玉のショートショート集
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#SF

ショートショート「追想」

ショートショート「追想」

 古い家を取り壊す際、何やら模様の書かれた紙を子供達が発見した。
「これ、なんだ?」
「『文字』ってものらしい。大昔の意思疎通プロトコルだ」
大脳神経に通信端末を埋め込んでいる最近の子供達には直接、検索情報が音声付の映像として脳に伝わってくる。実は今の会話も子供達は一言も発していない。脳内の端末同士の無線通信で瞬時に意思が相手に伝わるのだ。
「これ、どんな情報が記録され

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ショートショート『能力』

特別な人間になりたい。
俺は霊山にこもり、厳しい修行のすえついに神様に会えた。

「お願いです! 超能力をくださいっ!!」(必死)
「え~? 気がすすまないなあ」
「なんでもいいのでどうか一つお願いします!!」
……そして得られた能力は、
『人が食べているラーメンをうどんに変化させる能力』だった。

俺が飲み屋でヤケを起こしてあばれていると、
薄汚れた前掛けをした小太りの男に話しかけられた。

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ショートショート「苦手」

キールは北の大地に住むシベリア虎、森の帝王だ。

ずば抜けて大きな体を持ち、無敵の強さを誇る。
羆や他の虎、人間までもが彼を恐れ敬うのだ。
そんな彼にも苦手なものがあった。

満月だ。

思い起こせば一年ほど前になる。
山中で出会った人間を襲ったところ、逆に噛まれてしまったのだ。
以来、満月の晩になると彼はこそこそと誰もしらない洞窟に隠れ、じっとしている。

なぜなら、満月が昇ると、彼は狼に変身し

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ショートショート『機密情報』

ショートショート『機密情報』

ある国で革命が起こり、独裁政権が倒された。

革命軍が広大な宮殿になだれ込むと、そこにはぽつんと巨大な金庫が残されていた。ウワサによると、なんでも重要な機密情報がしまってあるらしい。

機密情報とは何か?
独裁者の逃亡先か? あるいは世界を揺るがす新兵器か?

革命新政府は色めきたち、早速金庫を開けようとした。
だが金庫は特殊合金でできており、ドリルにも高温のバーナ

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ショートショート「伝統の技」

ショートショート「伝統の技」

人類が宇宙に進出してから千年近くが過ぎていた。
有力な植民地はそれぞれ独立し、地球を盟主とした宇宙連邦を形成し
ていた。

そんな惑星の一つ、地球から数千光年離れた辺境の星、惑星ダイタロ
スも比較的歴史が古い植民星で連邦のメンバーであった。

さて、ある日の事……ダイタロス宇宙天文台は未開の宇宙空間から、
微弱な通信をキャッチした。

「こちら、第12次宇宙植民船団

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ショートショート「古(いにしえ)の賢者」

近々、世界大戦が起きるという噂を聞いた私はシェルターをつくりコールドスリープマシンで眠りについた。
ところが、マシンの故障で私は数十年の眠りのつもりが二千年後の世界に目覚めてしまった。
どうも世界大戦の影響で世界人口は激減、文明もかなり後退しているようだ。
私はこの世界の見聞を広めるため、旅に出た。

巨大な廃墟のある村に来たときである。
その村の巫女だという美しい女性に呼び止められた。
「もしや

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ショートショート「バランス・オブ・パワー」​

ショートショート「バランス・オブ・パワー」

……何?、わしの話が聞きたいって??
ほう、学校の宿題なのか……年寄りに話しを聞いて来いっていうことじゃな。小学生じゃ知らないのも無理はない。じゃあ、じいちゃんが話してやろう……。

・・・・・・・

ことの発端は、火星が地球に宣戦布告して、火星人が攻めてきたことなんじゃ。そのころの人間はもちろん、おったまげたさ!!
だって、宇宙に地球人しか知的生物

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