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印度林檎之介 ショートショート

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印度林檎之介作 珠玉のショートショート集
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2016年1月の記事一覧

ショートショート「王」

ショートショート「王」

日曜日。
目覚めると彼は王だった。
ゆっくりと城の庭を散策する。

月曜日。
目覚めると彼は衛士だった。
一日中、油断なく城門を見張る。

火曜日。
目覚めると彼は掃除夫だった。
広い城内、とても一人で掃除できるものではない。
今週は東の回廊を中心に清掃する事とした。

水曜日。
目覚めると彼は料理人だった。
一週間分のパンを焼く。肉や野菜も少し調理する。

その夜、彼は夢を見た。

彼がまだ幼い

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ショートショート「僕とかぞく」

僕は長男なので「太郎」という名だ。
お父さんとお母さんといっしょにくらしている。

僕が三歳になったころ妹ができた。
妹は「さくら」、春に生まれたからだ。
赤ん坊のころはよく泣く子で、僕もよくおもりをしたものだ。
お昼寝の時は僕が横で一緒に寝てやると、安心したのか不思議と寝つきがよかった。
よく赤ん坊はミルクの臭いがする、というが何かほんわりしたやさしい臭いがしたことをおぼえている。

もう一匹、

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ショートショート「季節の妖精」

三月近いというのに、大雪、氷点下。
せっかく都会から田舎へ移住してきたのにこれはきつい。
今年は春が遅いようだな、などと思いながら庭いじりをしていると、スコップの先に変な感触が。

掘り出してみると、赤ん坊くらいの大きさの人形のようだ。
頭に花だのつくしだのをかたどった、妙な冠をしている……と思ったとたん目を開けてしゃべりだした。
「こんにちは、ボクは『春の妖精』さ! ちょっと寝坊しちゃった。起こ

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ショートショート「鬼」

俺はある日、吸血鬼になった。

人々は俺を厭い、迫害し、遠ざける。
決して、俺を近づけさせまいと常に万全の警戒体制をしいている。
俺は孤独のまま一人、闇に隠れるしかなかった。

だが、人目を避け人里離れた山中に隠れること数年、ついに格好の獲物が舞い込んで来た。ハイキングに来て仲間にはぐれた少女だ。

「みんな! ……どこにいったの?」

仲間を捜すのに夢中で警戒心のかけらもない。
今だ!
俺は彼女

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ショートショート「連」

 家に帰ってきてTVをつけると、もう十二月だという事に気がついた。
 慌ただしい一年だった。俺は京都に引っ越したし、ましてや生きる為に畑を耕すようになるとは今年の始めには考えもしていなかった。いまや、あの日本を襲った悲劇(いや、むしろ喜劇か?)の為に日本のGDPは十分の一にまで落ち込み、もはや台湾以下だ。しかも俺は正にその瞬間の現場に居合わせたのだ。忘れようとしても忘れられるものではない。……俺は

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