画面の下にコントローラーを置くということ〜iPodのホイール配置の普遍性〜
iPodのデザインについてよく挙げられるのはディーター・ラムスのデザインしたラジオ(T3 transistor radio)との類似性です。
ディーター・ラムスとジョナサン・アイブのデザインは同じ系譜に属するものですから、似ているのはある意味で当然のことです。
https://ja.bellroy.com/journal/heroes-of-design-dieter-rams
ただ、私自身は、それほど似ていないのではないかと思っていたりします。
この記事では、ディーター・ラムスのラジオとiPodの差異を考えながら、デザイン論としてディスプレイとコントローラーの位置関係について考えてみたいと思います。
使用形態の違い
ディーター・ラムスのT3ラジオは卓上に置いて使うことが想定されていると思いますが、縦に置くユーザーは少なく、実際は横向きで置いて使うユーザーが大半のはずです。
一方のiPodは縦向きで手に持って使うことが想定されています。
使用する形態の違いは、物の形状の認識にも影響します。
要素の役割の違い
T3ラジオの正面は、スピーカーと、ラジオのチューニングに用いる円形のコントローラーからなります。
iPod(ここでは初代のiPodに限定します)の正面は、ディスプレイと円形のコントローラー(ホイール)からなります。
Apple
T3ラジオのスピーカーは出力のための装置という意味ではiPodのディスプレイと同じです。
しかしながら、iPodはディスプレイを見ながらコントローラーを操作しますが、T3ラジオではその必要がありません。
ここが大きな違いです。
ディスプレイとコントローラーの位置関係
T3ラジオとiPodの使い方の違いは、より根源的な問題とつながっています。
一見すると、iPodも横長のデバイスとしてデザインすることもができたように見えます。ディスプレイとホイールが横並びのデザインです。
しかしながら、横方向の配置は操作性に問題があります。
片側にしかコントローラーがない場合、両手で操作する場合にディスプレイを手が覆ってしまうという問題があります。それだけでなく、片手で操作するとしても、利き手の違いによって操作のしやすさに問題が生じます。もし横にコントローラーを配置する場合は、左右に分離して配置する必要がありますね。
ここで少し話を広げて、コントローラーが上、ディスプレイが下の配置を考えてみましょう。
コントローラーによる操作とディスプレイの表示がさほど同期していない場合にはそれほど問題は生じませんが、大部分において同期している場合には、かなり操作しにくく感じます。右利きの人が左手でお箸を使おうとするときの感覚というと大袈裟かもしれませんが、それに近い違和感が生じます。
こうした事情を踏まえてか、ディスプレイを備えたデバイスは、ディスプレイの左右にコントローラーがあるものは別として、それ以外は基本的にディスプレイが上で、コントローラーが下です。
視点をさらに広げれば、iPodのディスプレイとホイールの位置関係は、船の操舵室における窓と舵輪の位置関係や、車のウィンドウとハンドルの位置関係と共通しています。
船も車も初めからこのスタイルであったわけではないのですが、最終的にこのスタイルに落ち着きました。
これらの配置が反映しているのは、まさしく人間の姿に他なりません。
人間は頭が上で、手が下にあります。
別に胡散臭い話がしたいわけではありません。
これは、頭についている目がディスプレイから情報を受け取り、手がコントローラーを操作するというつながりの自然さの問題です。
コントローラーが上でディスプレイが下の場合、このつながりを形成するラインが交差してしまう点に問題があるのだと考えられます。
そういう意味で、iPodのデザインはやはり人間中心のデザインということですね。
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