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人類には早すぎた3Dタッチを想う

iPhoneから3Dタッチが消えて久しいですが、ついにApple Watchからも感圧タッチが消えてしまうようです。


今日は改めて3Dタッチ(と感圧タッチ)のデザインを考えてみたいと思います。

名称の問題

まず言葉の問題です。ここでは日本語の表現に限定して話しますね。
3Dタッチの操作は、画面を「押し込む」と表現されたります。しかし、この表現はわかりやすいとは言えない表現です。3Dタッチがやっていることは物理的なボタンと同じなので、本当は画面を「押す」と言うべきなのです。実際にもプレスリリースで「軽く押す」と言う表現が使われていました。

しかし、私たちはディスプレイ上に表示されたボタンをタップする場合もボタンを「押す」と表現します。実際には触れているだけですし、物理ボタンの場合は、それでは動作しません。でもこれで定着してしまった。

タッチディスプレイは感圧式から静電容量方式に進化して、画面は触れるだけでよくなったわけです。そこに、画面を押し込むという操作をもう一度付け加えるわけですから、簡単な話ではないのです。

ですから、ディスプレイを押し込むという動作自体が、一般的なユーザーには理解しにく買ったわけです。3Dタッチが登場してすぐは、私の周囲にも3Dタッチの概念をなかなか理解できない人がいたのを覚えています。

「押し込む」としか言いようのない操作ですが、カジュアルユーザーに使ってもらうには、もっと適切な表現が必要だったのかもしれません。


ボタンではないものを押すとメニューが出るという概念の難しさ

次に、操作に紐づけられた反応の問題を話します。
具体的にいうと、ホーム画面でアイコンを押すと、そのアプリケーションが起動するといった、操作と反応のパターンのことです。これは現実世界で起きることとかなり似ています。アプリケーションのアイコンを押すとそれが起動するのは、背表紙が見えている本を本棚から取り出して本文を読むようなものです。

今やUIからはスキューモーフィズムが取り除かれたと思われていますが、それは見た目の話で、タッチ操作そのものはまだまだ現実世界の法則を真似していると言えますね。

ところが、3Dタッチや感圧タッチは、タッチ操作とはルールが違いました。

アプリケーションのアイコンに対して3Dタッチ操作をすると、中身が見えるのではなくて、そこから別のメニューが出たりするわけです。

Apple Watchに関しては、感圧タッチで画面を押し込むとメニューが出ますが、多くの場合、押し込んでいるのはボタンというよりも空間あるいはディスプレイそのものです。ディスプレイを押し込むことで、現在のレイヤーを画面の奥に押し込んで、別のレイヤー(メニュー)を呼び出すような仕組みです。

3Dタッチと感圧タッチは設計思想が少し違いますが、どちらも、これまでのタッチ操作のルールからは外れた反応をする操作であると言えます。メニューが存在するかどうかわからない状態でメニューを呼び出すわけですからね。

とはいっても、3Dタッチや感圧タッチで操作できる要素には、商品購入ボタンや通話ボタンのように、1回タップしてしまうと、後戻りできないタイプの操作は含まれていないので、とりあえず押すというスタンスでも問題ないように作られていました。出てくるメニューもある程度類型化されているので、慣れれば、操作は難しくありませんでした。
mac OSにも、いわゆる右クリックメニューがあったりするので、見えないメニューを呼び出す操作というのは別におかしな操作でもないでしょう。

ただ、タッチ操作で統一された世界に次元の違う操作を持ち込んだことで、タッチ操作の法則で考えているユーザーには操作が理解しにくかったと言えるでしょう。


3Dタッチは人類には早すぎた?

3Dタッチは今でも長押し操作として残っています。3Dタッチのインターフェースが間違っているなら、長押しとしても残らないでしょう。ですから、タッチでできること以上の操作をするというコンセプト自体は間違っていないはずです。まあApple Watchに関しては長押し操作すら残さない方針のようですが。残るとしてもウォッチフェイスを変更する操作で残る程度でしょう。

現実の問題として、タッチ操作と同列で3Dタッチを考えようとすると理解しにくく普及しなかった上、できることがそれほど多くなかったわけです。ユーザーが少なく、使用できる場面も少ない操作のために、専用の装置を搭載するのはコスパが悪い。現在のAppleがそう考えたとしても不思議ではありません。

個人的には、操作が2次元的な世界に固定されてしまうのは、デバイスとユーザーの結びつきの強さという観点からは問題があると思うのですが、人類には早過ぎた操作方法だったのかもしれませんね。

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