青空野光

アマチュア小説家。青春恋愛小説やヒューマンドラマを多く執筆しています。

青空野光

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海の青より、空の青 第1話

あらすじ 一人暮らしの祖母が体調を崩した。 高校二年の夏休みを翌日に控えていた夏生は祖母の身辺の手伝いをするため、遠方にある母方の故郷の町へと足を運んだ。 幸いにも祖母は軽い夏風邪だったようで、夏生が訪れたその日には既に庭仕事に精を出すほどであったが、夏生は様子見を兼ね数日間の滞在を決める。 翌日になり気まぐれで近くの海岸へとやってきた夏生は、長い黒髪を潮風になびかせ純白のワンピースを着た少女――志帆と出会う。 運命に導かれ出会った少年と少女の、たったひと夏だけの恋の物語。

    • 死んだ恋人に会いにいく 第27話

      欲求  水守家へと続く山道は相変わらず細く険しかったが、なんとか車を擦るようなこともなく無事に到達することができた。 「じゃあ僕はまた車で待ってるから」 「あの、もしよかったら一緒にきてもらえますか?」 「うん? それは別に構わないけど」  茹だるような熱気を覚悟しながら車のドアを開ける。 「あれ? ここって案外涼しいんだね」 「はい。木が生い茂っているから地面の温度があんまり上がらないんだと思います」  確かに足元からの輻射熱をまったく感じない。  冬場がどうなのかは知ら

      • 死んだ恋人に会いにいく 第26話

        虫唾  昨夜のいつごろ眠りに落ちたのかは覚えていないが、目が覚めたのは早朝と言っていいような時間だった。  厚手のカーテンによって八割方遮断されているにもかかわらず、プリーツの隙間から漏れ入った陽の光が、今日という日が曇りでも雨でもないことを存分に知らせていた。  視線を少しだけ横にスライドさせる。  そこにはすうすうと寝息を立て寝入る少女の姿があり、繋いだ手は未だ以て握られたままであった。  彼女が自然に目を開けるまでこのままそっとしておきたいのは山々だが、私には朝のうち

        • 死んだ恋人に会いにいく 第25話

          願い 「おかえりなさい。麦茶いりますか?」 「もらうよ。ありがとう」  出会ってからの短時間で行われた応酬があまりに濃かったせいか、たった半日の付き合いにして随分とこなれたやり取りをできるまでになっていた。 「明日のお昼前にでも着替えを取りに行こっか」 「あ、はい。私もそれをお願いしようと思ってたんです」 「うん。それじゃあそろそろ寝よう。さっき僕が寝ていた部屋に布団を出しておいたから。おやすみ」  そう言って踵を返したのと同時に、さっそく背後から彼女に呼び止められる。

        • 固定された記事

        海の青より、空の青 第1話

          死んだ恋人に会いにいく 第24話

          災難  隣町のハンバーガー屋で遅い夕食を済ませた私たちは、相変わらず交通量の乏しい県道を一路帰宅の途に就いていた。 「レバニラバーガー、すごくおいしかったです」  期間限定と銘打たれたその異形をノータイムで注文するのを目撃した私は、若さゆえの怖いもの知らずっぷりに度肝を抜かれたのと同時に、先ほどとは逆に今夜は私が彼女の看病をすることになるのではないかと、そんな予感すらしていた。  だが、バンズから巨大なレバーがはみ出したブツに一口かぶりつくなり彼女が見せたあどけない笑顔に

          死んだ恋人に会いにいく 第24話

          死んだ恋人に会いにいく 第23話

          矛盾 「ごめんなさい。私……嘘をついてました」  座卓の向かいに座る少女はそう切り出した。 「うちに電話をしたって言ったの、嘘です。私の家、今は誰もいないんです」 「誰もいないって? ご家族は?」 「うちはもともと、私とおねえちゃんとお母さんの三人家族だったんです」  そういえば水守さんの出棺に立ち会った時、姉妹の母親が喪主を務めていたことを思い出した。 「お母さん、お葬式が終わってからもしばらくのあいだは色々な手続きとかで大変だったみたいで。でもそれも四十九日の法要が終わ

          死んだ恋人に会いにいく 第23話

          死んだ恋人に会いにいく 第22話

          快復  常闇の只中で目が覚めた。  日などはとうに暮れてしまったのだろう。  入眠前には感じていた、発熱由来の悪寒がなくなっている。  それだけではなく、体中の関節の痛みもなければ頭痛もしない。  意識を失う直前に感じたのは、顔に掛けられた濡れタオルの気持ちよさだった。  あれが私の体から熱と苦痛を奪い取ってくれたのだろうか。  だとすれば彼女に、茉千華ちゃんには感謝しなければならない。  そう思った途端、口から自然と言葉が漏れて出た。 「……茉千華ちゃん、ありがとう」 「

          死んだ恋人に会いにいく 第22話

          死んだ恋人に会いにいく 第21話

          重篤  水守さんがもし本当に、私に好意を寄せてくれていたとしても。  たとえそうだとしても、やはり彼女が遺した『死んだ恋人に会いにいく』という言葉とは繋がらない。  それとも最初に感じたように、やはりあれはメッセージではなく一行詩のようなものだったのだろうか?  風邪のせいで普段にも増して頭の回転が鈍っている今の私に、こんな難題が解けるはずもない。  少女はおもむろに顔を上げると、その小さく形の良い唇を開いた。 「私はただ、知りたいだけなんです」  八月という季節から切り離

          死んだ恋人に会いにいく 第21話

          死んだ恋人に会いにいく 第20話

          覚悟  今がいくら真夏だとはいえ、広縁でパンツ一丁で寝るのは馬鹿のすることだ。  そして私こそがその馬鹿である。  目覚めと同時に激しい頭痛と関節痛に襲われ、『ああこれは』と直感した。  古の記憶を頼りに居間のテレビボードの下から薬箱を発掘し、台所で手のひらに掬った水で粉薬を服用する。  朝餉を探して飛び回るスズメたちの鳴き声を遠くに聞きながら、脇から取り出した体温計の液晶画面に目を落とすと、3のあとに8が二つ隊列を組んでいた。 「またガッツリと」  嫌っている相手が自ら

          死んだ恋人に会いにいく 第20話

          死んだ恋人に会いにいく 第19話

          呪詛  少し奥にいけば木陰があるにも関わらず、寺院の入口に近いからという理由で炎天下に駐車していた車は、ドアを開けた途端にその開口部から中東の砂漠を思わせる高温の空気を吐き出した。  仕方なくドアというドア、窓という窓をすべて開け放ち空気を入れ替えを行っていると、白色のミニバンがハイブリッド車特有の不気味な接近音を伴いながら進入してくるのが見えた。  邪魔になってはまずいと思い慌てて自車のドアを閉めたのだが、件のミニバンは二台分離れた場所にバックで駐車した。  何気なしにそ

          死んだ恋人に会いにいく 第19話

          死んだ恋人に会いにいく 第18話

          親友  目覚めとともに嫌な予感がした。  布団に横たわったまま窓の外に目を向ける。  案の定、灰色をした空から落ちてくる大量の鉛色の粒が、家の屋根や壁を強かに打ち付けていた。  幸いにも我が家は軒の長く張り出した日本家屋だったおかげで、家の中までは濡らさずに済んだのだが、午前中に予定していた墓参りは延期することが決定した。  高畑の法事がある昼過ぎまでに止んでくれるといいのだが。  よく田舎は時間の流れが遅いといわれるが、今の私のように何の予定もなくただ家の中に閉じ込めら

          死んだ恋人に会いにいく 第18話

          死んだ恋人に会いにいく 第17回

          第三章 水守茉千華何故  車のステアリングを握るのは去年の夏以来なので、およそ一年振りのことにもなる。  今回も繁忙期に急な手配を掛けたせいで車種を選択する余地などなく、巨大なミニバンで運ぶ空気の分まで料金を支払った気がしてならない。  ただ、前回と違ったのは実家最寄りの新幹線の停車駅までは鉄道を利用し、このレンタカーは現地の駅前で借りていたことにある。  おかげで車での移動距離はわずか五十キロほど、時間にして一時間半に留めることができた。  またしても急な帰省だったことも

          死んだ恋人に会いにいく 第17回

          死んだ恋人に会いにいく 第16回

          もし  どうやら少しだけ寝すぎてしまったようだ。  昨夜は天気予報を見ぬままに寝てしまったのだが、カーテンの隙間から射し込む光の強さと角度とが本日も晴天であること、それにすでに朝と言えないような時間帯であることまで教えてくれていた。 「咲希さん起きて。昼から仕事なんでしょ?」 「……あと五分だけ……お願い……」 「絶対に五分?」 「……ぜったい」  言質を取ることに成功した私は、その人質を用いて身支度を整えることにした。  彼女は約束通り、五分ちょうどでベッドから這い出て

          死んだ恋人に会いにいく 第16回

          死んだ恋人に会いにいく 第15話

          蠱惑  私はあまりアルコールは強くないほうだが、自称『強いほう』の彼女に比べたら幾分かは飲める体質だったようだ。  お好み焼き屋ですでに飲んでいたということもあったのだろう。  発泡酒の缶をたった一本空けただけの彼女は、傍目には週末の路地裏に横たわる泥酔者に近い状態に見えた。  それに伴い雑になった言動は、普段の人懐こくしっかり者の彼女からは想像だにできない、悪くいえば酒癖の悪い人間を体現したかのような、とにかくそんなふうであった。 「叶多くんはなんで彼女を作らないの?」

          死んだ恋人に会いにいく 第15話

          死んだ恋人に会いにいく 第14話

          困惑  五階建てマンションの最上階の、その角部屋に私の部屋はある。  会社から支給される住宅手当だけでは家賃のすべてを賄えはしなかったが、田舎育ちゆえ静かな環境に高い価値を感じていた私にとって、この物件は理想的な住処の条件に適合していた。  エレベーターホールでゴンドラが降りてくるのを待っている間にも、彼女はずっと私の腕にすがりつきながら、いとも楽しげに口を動かし続けていた。  互いの関係性を考えると幾分行き過ぎたスキンシップに思えたが、アルコールの作用がそうさせているだけ

          死んだ恋人に会いにいく 第14話

          死んだ恋人に会いにいく 第13話

          第二章 芝川咲希唐突  都会へ移り住んでから七年になる。  今の職場は一昨年から、出社が不要な業務に関してはリモートワークが導入されていた。  それに伴い大学時代から住み続けていたボロアパートを引き払い、ちょっと上等なこのマンションへと移ったのが今年の春のことだ。  職場のある都心部からは少し遠くなってしまったが、家賃は据え置きで占有床面積は一気に倍になったし、何より築年数が浅いおかげで隣室や上下階に気を使わずに生活できるようになった。  田舎から戻った私は以前と同じよう

          死んだ恋人に会いにいく 第13話