青空野光

アマチュア小説家。青春恋愛やヒューマンドラマといったジャンル小説を執筆しています。

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はじめまして! 青空野光(あおぞらのひかり)と申します。 note創作大賞2024に以下の二篇の長編小説で参加しています。 いずれも自信作ですので、ぜひお読みいただければと存じます。 どうぞよろしくお願いします。 海の青より、空の青 (恋愛小説部門) 一人暮らしの祖母が体調を崩した。 高校二年の夏休みを翌日に控えていた夏生は祖母の身辺の手伝いをするため、遠方にある母方の故郷の町へと足を運んだ。 幸いにも祖母は軽い夏風邪だったようで、夏生が訪れたその日には既に庭仕事に精を出

    • 死んだ恋人に会いにいく 最終話

      エピローグ私たちは会いにいく  床に硬いものが落ちる音で目が覚める。  どうやらソファーで居眠りをしてしまっていたようだった。  今朝はいつもの休日より一時間も早起きしたというのに、こんなことならベッドで休んでいたほうがどれほど有意義だったことか。  床から拾い上げたスマホの画面に目をやると、ちょうど出発を予定していた時間になったところだった。  盆休みの初日にあたる今日は、高速道路では大混雑の発生が予想されている。  急ぐ旅ではないにせよ、のんびりしていれば渋滞のピークの

      • 死んだ恋人に会いにいく 第49話

        未来  水守家には門限というものがないそうだ。  それはひとえに模範的な少女時代を送った長女の功績だという。  その妹も余程のことがない限り、日没までに家の戸をくぐることを自らの決め事として守っていたというのだから、揃いも揃って殊勝な姉妹だとしか言いようがない。  ただ本日に限っては、すでに日の入りから数十分が経過していた。  顔の横からスマホを離してこちらを向いた彼女は、「またお母さんにウソついちゃいました」と言い、桃色の小さな舌をペロッと出してみせた。 「私はいま隣町の

        • 死んだ恋人に会いにいく 第48話

          震え 「さっきの人って元カノさんですか?」  少女は助手席から身を乗り出すようにして、唐突にそんなようなことを尋ねてきたのだった。 「なんでそう思ったの?」 「オンナのカンです。少なくともただのお友達には見えませんでした」  その当たらずといえども遠からずといった精度の『女の勘』とやらに、ステアリングを握る手のひらがわずかに汗ばむのを感じた。  確かに私と彼女は一晩……二晩だけとはいえ、一線を越えて男女の関係になったことがあったのだが。 「残念だけどそういうのではないよ。高

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        マガジン

        • 長編小説『海の青より、空の青』
          55本
        • 長編小説『死んだ恋人に会いにいく』
          50本

        記事

          死んだ恋人に会いにいく 第47話

          第七章 終わりから始まりへ再会 「お正月はご家族と過ごされるんですか?」  帰りの道中でそう聞かれ、そういえば両親が機上の人であったことを思い出す。 「いや。うちの親、旅行に行ってるから」 「え、またですか? 仲がいいんですね」 「今度は沖縄だって」  母などは水牛車に乗るのだと意気込んでいた。  実は私も以前、仕事で竹富島に行った時に水牛車は体験済みであった。  正直なことを言えば、あれは少し離れたところから見ていたほうが夢があるなと、少しだけ残念に思った記憶がある。  

          死んだ恋人に会いにいく 第47話

          死んだ恋人に会いにいく 第46話

          墓参  ことし最後の太陽が東の山の天辺から真っ赤な顔をゆっくりと出した、大体その頃。  父と母を隣町にある駅まで送り届けると、その姿が無人の改札の奥に消えていくのを見送った。  そのままガラ空きのファストフード店で朝食を取りながら、持ち帰っていた簡単な仕事に手を付ける。  そうこうしているうちに、彼女と約束した時間までおおよそ三十分と、ちょうどいい頃合いになっていた。  道すがらで必要になるものを買い揃え、時間ぴったりに待ち合わせ場所に到着する。  少ししてやってきた彼女を

          死んだ恋人に会いにいく 第46話

          死んだ恋人に会いにいく 第45話

          親子  助手席で寝息を立てる少女の、上等な白磁のような頬をそっと撫でる。  続けざまにその柔らかな膨らみを指で摘むと、力任せにむんずと引っ張った。 「着いたよ。茉千華ちゃん起きて」  着いたといっても彼女の家にではなく、そのすぐ近くにある道路の余地に車を止めていた。 「……おはようございます。あとちょっと痛いです」  搗きたての餅のようにプニプニとよく伸びる頬から手を離す。 「寝ぼけ顔で帰ったらお母さんに変に思われるよ」 「だったらもう少し早く起こしてください」  それは大

          死んだ恋人に会いにいく 第45話

          死んだ恋人に会いにいく 第44話

          恋人  ファミレスから出た車は元来た方角には戻らず、名ばかりの高速道路を自転車に毛が生えた程度の速度で、さらに西へ西へと向かい進んでいた。 「赤ちゃんって……あんなにもかわいいんですね」  川島さんと別れてからまだ三十分と少ししか経っていなかったが、彼女はそのようなことをすでに五回は繰り返し口にしていた。 「よかったら今度ゆっくり遊びに来てください、って。川島さん、たぶん本気で言ってくれてたんだと思うよ」  そうでなければこちらから聞いてもいないのに、別れ際になってわざわざ

          死んだ恋人に会いにいく 第44話

          死んだ恋人に会いにいく 第43話

          終止  よく『渋滞に巻き込まれた』という表現が用いられるが、あれは『渋滞に参加している』が正しいのではないだろうか?  そして私たちは今まさに、その渋滞に参加していた。 「意外と近くだったから日が暮れる前には着けると思うよ」 「無理を言ってすいません」  通常であれば叶えることの難しかった彼女の願いだったが、旅行代理店勤務の私にはいくつもの裏技が存在していた。  今もそのうちのひとつを用いて、超繁忙期のレンタカー屋で車を一台入手したのだった。 「全然。それより次のサービスエ

          死んだ恋人に会いにいく 第43話

          死んだ恋人に会いにいく 第42話

          真相  これがすべての答えだと彼女に手渡されたのは、書類を入れるのに使うような角2サイズの茶封筒だった。  高畑の名と住所が書かれたそのオモテ面には、配達日を指定する赤枠のシールが貼付されている。  その日付は八月十八日で、消印の年号は去年のものであった。  それはつまり、水守さんが亡くなった日の一週間後に高畑の元へ届けられたことを意味していた。 「中身をみてください」  茶封筒の中には二枚の紙のような物が入っており、まずはそのうちの一枚を手に取り目を落とす。  白と黒の二

          死んだ恋人に会いにいく 第42話

          死んだ恋人に会いにいく 第41話

          第六章 死んだ恋人答え  目覚めと同時に自身の置かれた状況を鑑みた結果、昨夜あれほど大人とは何かを自問したことの無意味さに我ながら呆れ果てる。  だがそれは後の祭りであり身から出た錆でしかなかった。  マジックショーの縄抜けよろしく彼女の腕から抜け出すと、気配を殺したままに寝室をあとにする。  朝食の準備をするために覗き見た冷蔵庫の中には、調理をせずに食べられるようなものを見つけることができなかった。  いつものように自分ひとりだけなら、パントリーのカップ麺で腹を満たせばい

          死んだ恋人に会いにいく 第41話

          死んだ恋人に会いにいく 第40話

          女神  今日に限って入浴に普段の倍近くの時間を掛けてしまった。  そのほとんどは湯船の中から天井を見上げていただけだったはずなのに、入浴前よりも今のほうが疲れているというのだから世話がない。 「遅くなってごめん」 「いえ。それじゃお風呂お借りします」  洗面所へと向かう彼女の後ろ姿を見送ると、納戸を客室へと変容させるための作業に取り掛かる。  四十分ほど経った頃、ブローした髪を手櫛で整えながら彼女が洗面所から出てきた。  パジャマ代わりに着たタイトなTシャツとショートパン

          死んだ恋人に会いにいく 第40話

          死んだ恋人に会いにいく 第39話

          不治  駅前のファミレスに寄り夕食を済ませ、自室に戻ってきた頃には二十時を少しだけ回っていた。 「散らかっててごめん。ソファーにでも座ってて」 「おじゃまします」  彼女に聞きたいこと山ほどあったが、再会してから今に至るまでの間で聞き出せたのは二つだけだった。  一つは母親の容態であり、こちらに関しては話に聞く限りもう心配ないようだ。  よくよく聞いてみると、もともと本人が希望しての入院だったようで、八月の末に仮退院で様子見をした結果、その後たったの二日で退院し、九月の半ば

          死んだ恋人に会いにいく 第39話

          死んだ恋人に会いにいく 第38話

          強襲  仕事納めとなる十二月二十九日の今日は、弊社の全従業員が一堂に会するという、年にたった一度か二度あるだけの特別な日でもあった。  もともと小所帯の職場ではあったのだが、テレワークが常態化したことにより新人などは初めて見るような顔もおり、なかには社員同士で名刺の交換をしている者までいた。  本来それはあまり褒められる行為ではないのだが、新しい時代に変わりつつある今ならではの光景なのかもしれない。  年末年始も休みなく働いてくれる他部署の仲間たちのためにも、普段以上に抜

          死んだ恋人に会いにいく 第38話

          死んだ恋人に会いにいく 第37話

          孤独  今年の夏は例年に比べて終わるのが早かった。  それは逆に秋の訪れが早かったと、そう言い換えることもできる。  そしてやはりというべきだろうか、冬までもが足並みを揃えて駆け足でやってきたのだった。  誰も頼んでなどいないのに。  当地にも昨夜から白いものが降り続けており、テレビのニュースでは引っ切り無しに、『ダイヤの乱れ』だの『飛行機が欠航』だのといったような内容を報じていた。  本来であれば今日は私も出社日だったのだが、今朝早くに会社から在宅ワークへの変更を言い渡

          死んだ恋人に会いにいく 第37話

          死んだ恋人に会いにいく 第36話

          第五章 中原叶多記憶 『おまたせ、叶多』  パパおそい! 『かなたん、おしっこは?』  ママもはやくはやく!  これは私が三歳か四歳の頃の記憶とされているものだ。  年の瀬のその日、私たち家族はどこかの動物園に行ったのだという。  あとになって伯父と伯母からそう教えられたため、この記憶はそのさらにのちに作り出されたものなのかもしれない。  当時の年齢から考えた場合、その可能性のほうが高いだろう。  きょうのよるごはんハンバーグがいい! 『じゃあ、かなたんが好きないつもの

          死んだ恋人に会いにいく 第36話