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「竜胆-」Vol.13【祇園の夏、Ver.4】

プロの作家に文章指南を受けている。前回までの流れは下記、

文章練習の千本ノックです。

前回の全編をまた改良し、次回の提出のぶんを、ここに載せております。

今回のじぶんの課題。

⑴先生の例文に引けをとらぬようなわかりやすい文章を心がける。

⑵書き癖の排除。

⑶ストーリーの前半部分(男がドアを開けるまで)余分な形容をそぐ(プレーン状態に)。

⑷⑶とはいえ、細部(もの、ディテール)を細密に描ければ丁寧にかく。

今回、書いて、気づいた、感じたこと。

❶どこまでもじぶん(筆者のワガママ)を殺して、文脈に忠実にかいていくと見えてくる世界がある(例:女の打ち水を足に浴びれば当然、観光客は立ちどまる。とか)。

❷背景で省けるものが見えてくる。(例:ガイドブックを手にした「若いふたり」は文脈上、「カップル」や「女二人組」である必要はない)

❸語尾の、「現在形」と「過去形」を意識して使っただけだったが、じぶんの文章が「数百倍上達した感」がある。

「竜胆-」Vol.13【祇園の夏、Ver.4】


例1)もう夏だった。蝉の音がうるさい。
蝉の声は、地中からいっせいに湧き出したのだ。違いない。
それほどに蝉の音は耳障りに感じた。
(文)プロ

例2)耳に、蝉の声が一斉に飛びこんできて男は目覚めた。夏がきていた。
(文)蒼ヰ瀬名

真夏の太陽が焼けた路地に照って、朝の驟雨で湧いたミミズがひからびている。
路地で打ち水をする女は会釈をした。若いふたりは立ちどまった。ふたりのサンダルにかかった水はみるみると蒸発した。ガイドブックを手にしたふたりは女の店ののれんを一瞥しとおりすぎた。女は額の汗をぬぐってからだをのばした。

真夏の青空をみあげた。雲ひとつない。

桶を置き女は、甕をのぞきこむ。波うつ水面にのれんとじぶんの顔がゆらめいている。藻にメダカが隠れているのがみえる。女は顔をあげた。

女の店がある路地を南にくだった竹林に、ふるい木造のアパートがある。そこに、きのう祇園祭で偶然であってそのまま抱かれた男のへやがみえる。

男の部屋の窓がはんぶんあいていた。女は目をほそめしゃがんだ位置から男のへやをみた。

路地に立つ電柱で男の部屋はちょうど隠れてみえなかったが女は、傾いででっぱった二階の男のかどべやに小さく手をふってみた。

全裸の男は窓から後じさった。男は女に手を振りかえそうとしていた。男はおもわず笑った。じぶんへの照れ笑いだった。

男は夜どおし女と交わって疲れて果てていた。昨日の祇園祭でであったふたりはそのままくっつきそのままこういう関係になった。昨日はあの女とどこであったか。男はおもいだせない。

女と交わったままの姿で男は布団に仰向けになった。男は天井のしみをみつめた。しばらく天井をみつめていた。唇の端がくすぐったい。笑いつづけているじぶんがおかしかった。

汗と精液で光った布団の角が黒茶いろだった。畳にも、女の月の血があった。部屋から、かけ布団がなくなっていた。

女と交わりすぎた。女と深く交わりすぎて、背骨につながる尾骨が砕けるように痛む。根っこがまだ痺れている。

男は腕時計をみる。三時を回っていた。服を着て部屋をでた。

男がアパートの階段を降りると、木の手すりに針金で括られただけの郵便受けのなかに、封のない手紙が入っていた。女の、まる文字だった。男は読まずにポケットにねじこむ。それから竹林の翳にある外便所で小便をし、手は洗わずにズボンで拭いた。

プラスティックを踏んだような感覚があって男はシューズをあげる。陽にあたらぬ緑の湿った土いちめんに、蝉の抜け殻が転がっていた。

路地から男が住むアパートの門に、黒い艶のある小犬がしっぽをふって走ってきた。それを男は力のかぎり蹴りあげた。小犬は便器のパイプにはげしく腹をぶつけ白い泡を吹いてぐったりした。首輪がついていた。

路地にでると電柱に迷い犬の貼り紙があった。男は一歩さがって便所をみた。

男は携帯をだして電柱の貼り紙に電話をした。

五分もたたないうちに小さな女の子を連れた母親がやってきた。親子は男にふかぶかと頭をさげた。

男はしゃがんで抱いていた艶のある黒い小犬を少女にかえした。小犬の腹をさすると小犬がキャン、と吠えた。心配そうな顔をする親子に男はちかくの動物病院を教えてやった。母親はことわる男を無視してポケットに札を一枚ねじこんだ。親子は黒い小犬を抱いて去っていった。電柱の貼り紙に男は唾を吐いた。

男はアパートの塀にもたれかかりポケットから手紙をとりだし、よんだ。
「昨夜は(朝までかな。笑)、とても楽しかったです。よる、あなたのへやの窓からランタンがみえた店、それが私の店です。布団を汚してしまいました。ごちそうします。一度、お立ち寄りください。まどか。」

路地にでた男は歩きだした。

夏の古都の盆地のねばり気が、男の肌にねばついた。

夏休みがはじまったばかりの子どもらが路地ではしゃいでいた。門の前でベビーカーを片手にビニールプールを膨らませている父親がいた。ふたりの男の子がありえない勢いの水鉄砲で撃ち合いをしている。ほかの子らは水ふうせんを投げあっていた。

あっ、男の後ろから声がきこえた。

男は飛んできた水ふうせんを、ひざを柔軟につかって、しゃがみ込むようにうまくキャッチした。

男はあごで空をさす。

子どもらはポカンとしていた。

男は、水ふうせんを頭に乗せる。

子どもはまた首をかしげた。

男は空を指さす。子どもらもまた空へ顔をあげた。

子どもらがみあげている真夏の青い空にむかって男は、水ふうせんをほうり投げた。

五、六人のなかで年長のひとりが、男の意味がわかったといったように目を輝かせ、水ふうせんの着地点を目指して走った。

あんぐりと口をひらき上空をみながら、ふらふらと、路地をさまよう。

水ふうせんは青い空をどこまでも浮上していった。それから一番高いところでとどまって、やぶれそうなほどうすい膜のなかに、太陽をつつみこんだ。それからゆっくりと下降をはじめた。

ふらふらと、着地点で待ちかまえている年長の子どもの頭のうえで、水ふうせんはいきおいよく、べちゃっ、と弾けた。男の子らは目を輝かせて、ぼくにも投げてと男のところに集まってきた。

こんどのはもっと面白いぞ。そういって男はピッチャーのように振りかぶって中腰でまちかまえる脳天めがけて水ふうせんを容赦なくなげた。

ベチャ。みんな腹をかかえて笑った。男は路地に唾を吐いてまた手紙の店へとあるきはじめた。

男の背中に痛みが冷たくはじけた。(文)プロ

バチン。男の背で水ふうせんが破裂した。(文)蒼ヰ瀬名

背中がぬれた。子どもが走ってにげていった。背中ではじけた水が生温かい女の愛液のようになって男の股をぬらした。下腹部が隆起した。男は昨晩の交わりをおもいだした。昨晩の交わりで女はアザになっているかもしれない。男はおもった。

この店だ。昨日、男の部屋から女が指さした銅製のランタンだ。男はポケットに手紙を仕舞った。

のれんをくぐって男はドアの前にたった。


ガラス越しに、白いエプロンが動いていた。ドアの向こうは夏のまぶしさに白く飛んで、暗い室内ははっきりとは見えない。(文)プロ

ガラス越しに、腰にサロンを巻きつけた影が、狭いカウンターのなかで食器を洗っている。(文)蒼ヰ瀬名


男は、あの影は、きのう祇園祭であった女に違いないと思った。


ドアの横から太い蛇腹のダクトがつきだしていて、コーヒーを煎った薫りと焙煎された豆の白い滓が雪のように吹きでてきている。

男はのれんをくぐった。

ドアを押した。カラン。ベルが鳴った。

男は目を細めた。まだ目が店内の暗さに馴れていなかった。

次第に、男の視界が広がった。

男はレジの前に立っていた。ドアを開けた右手に業務用の焙煎機があった。いらっしゃいませ。女の声が聴こえた。
レジがあるだけのスペースを一歩ぬけると、そこはカウンターの止まり木が四席だけの小さな珈琲店だった。四隅に間接照明があるだけの雰囲気のある店だ。男の知らないクラシックが流れていた。


カウンターの背後の段に、カップが並んでいる。厚手の民芸調のカップに清水焼、そこに薄い白磁の高級そうなカップも混じっている。
カップの種類が確かめられるほどに、室内の暗さに目が慣れた男は、もう一度、白いエプロンを巻いた女を見た。(文)プロ

カウンターの背後の棚に、ごつごつした素焼きの、縁がうすい青磁器の、取っ手のないマグ、小さい赤いエスプレッソカップなどが棚に並んでいた。ようやく男の目は店内の暗さに目が馴れてきた。もう一度男は、サロンを腰に巻いた女をみた。(文)蒼ヰ瀬名


女は客席、四席のカウンターの手前に立って食器を洗っていた。
満席だった。女は顔をあげた。
男が帰ろうとすると、一番奥の、洒落た京友禅をきた老人が、わたしいま帰りますからどうぞ、といって男に席をゆずった。

男は礼をいって奥の席に黙って座った。
ランチ営業が終わるのか、五分も経たぬうちにほかの三人の客もかえっていった。男は腕時計を見た。三時半を過ぎていた。

女は、壁にかかっていたロールカーテンの紐をするするとひっぱると、西に傾き始めた真夏の陽射しが店内に入り込んできた。

店内が路地に顔をだすと、男に水ふうせんをぶつけた子どもたちが集まってきた。

子どもたちは店のなかの男と女を囃したてた。

女は男にメニューを渡す。

おれはここに飲みにきたんじゃない。男は勢いよくメニューを閉じ、女に突っ返した。(文)蒼ヰ瀬名

元文)一番大きなカップの写った写真を指さした。
(文)蒼ヰ瀬名
例1)「何でも良い」と答えた。
(文)プロ
例2)メニューの真ん中を、ぶっきらぼうに指さした。
(文)プロ


女はコーヒーを淹れた。女はなにか他に好きな音楽はあるか。男に聞いた。男は笑った。
男はカウンターのうえに郵便受けに入っていた手紙を広げ、これはどういう意味だ。と訊いた。

+描写と読者の理解を明確に+
元文)女はかけ布団が血で汚れたから洗いたかっただけだといった。
+描写と読者の理解を明確に+
注記
前の、男が路地を歩いてくるくだりで手紙を読む「加筆」で処理をしたので、ここで再度どういう文脈回収をしていいか、わからない。前記の「加筆」で文脈が変わり、それにともないここでの女の吐くセリフが変わる。もしするとすれば、「女」が「男」をなにも気がつかない天然女キャラ(あるいは知らないふり)になるのではないか?

ついでに男と女の交わりの描写(昨晩のアリバイ)を回収。
例1)女は三和土に忍ばせておいた布団を抱えてみせた。布団の角にくろく茶色い女の血がついていた。男は女の腕につよくかまれた痕をみた。女じしんの歯型だった。
(文)蒼ヰ瀬名
例2)女は手紙のとおりよ。と笑ってみせた。笑った女の右頬に青アザがあった。男も笑った。
(文)蒼ヰ瀬名
例3)女は唾を嚥下させ黙った。女の鎖骨がアザで青かった。男のじぶんの拳がじんと痛んだ。
(文)蒼ヰ瀬名

店のガラスの前に男に水ふうせんをぶつけた子どもたちがやってきた。

子どもたちはこんどはガラスに向かって水ふうせんを投げ始めた。水ふうせんのなかに赤や青や黄や茶色の液体が入れてあって、店のガラスはドロドロしたカラフルな液体で汚れた。男は鼻を鳴らして笑う。外で何かが破裂する音がして女は店をでた。

子どもたちが逃げていった。

のれんのしたにある甕が割れていた。路地のうえで藻に絡まったメダカがぴちゃぴちゃ跳ねていた。女は手ですくった数匹のメダカをコーヒーカップに移した。
メダカ。そのままじゃ死んじまうな。

男はケラケラと笑った。女は顔をひきつらせ笑った。

赤や青や黄色や茶色にまみれたガラスの向こうに黒い犬を抱えた親子がとおる。

男はメダカの入ったカップをもって外へでた。

カウンターのなかで女はドロドロしたカラフルな液体で汚れたガラスの内側から、路地でしゃがんだ男が女の子に話しかけている姿をみていた。

昨日会った男の優しい笑みだった。

男はメダカの入ったコーヒーカップを少女に渡し、母親に頭をさげた。母親がまた一枚の札を男のポケットにねじこもうとしたが男は拒んだ。


店にもどった男はレジの横にささったボールペンを持ってきて、女が男の郵便受けに入れた手紙の裏に、男が今日やったこと、そのすべてをかいた。


男は金も払わずに、店をでていった。

女は、男の手紙を読んだ。最後に、

「また抱きたい。」

かいてあった。



2022/01/11/Tue_4:42_Vol.13

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