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いかれた僕のベイビー

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完結 恋を忘れたボーカリストと恋を知らない新人マネージャーのいかれたバンド×恋愛ストーリー
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#拗らせ

【小説】いかれた僕のベイビー #26

【小説】いかれた僕のベイビー #26

「……何ですか」

 事務所内の人があまり来ない一室で向井さんと二人きりになる。事務所内の人があまり来ない一室なんて、オレも向井さんも恐らくはここしか知らない。
 ここは、向井さんと潮音ちゃんがセックスしていた例の場所だ。
 なんでこんなとこにまたこの人と来ないといけないんだよ。

「そんな怖い顔すんなよ、おまえちょっと前までは俺の顔見るたび尻尾振り回してついてくるかわいい後輩だったのになぁ」

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【小説】いかれた僕のベイビー #25

【小説】いかれた僕のベイビー #25

「……そうか、まぁ、おまえにしては、早かったな」

 オレが話し終えるとまず杉浦はそうこぼした。

「何が?」

「自分の気持ち自覚するの」

「……おまえ、やっぱ気付いてたよな」

 前に杉浦と二人で飲んだ時、杉浦はオレに“気付けるといいな”と言って意味ありげに笑っていた。

「おまえが歌詞が書けない理由は、人を好きになる気持ちとか恋愛がわからないんじゃなくて、むしろわかり過ぎて過去を思い出さな

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【小説】いかれた僕のベイビー #24

【小説】いかれた僕のベイビー #24

「急に“もう会うのやめる”、なんて言うから最後だと思って、ダメもとで連絡してみて良かった。……何があった知らないけど、別に知りたくもないけど、何も考えなくていいから、いっぱい気持ち良くしてね、フジくん」

 ホテルの部屋に入るなりお互い服を脱ぎ捨て抱き合ってキスをして、そのままベッドへ。

「……今日ね、また約束破られたの、……だから、……はぁ、………フジくん、来てくれて、良かったぁ、……んっ……

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【小説】いかれた僕のベイビー #23

【小説】いかれた僕のベイビー #23

 大阪から無事に戻り、それからの日々はまた曲を作ってはレコーディングをし、次のライブのためのリハーサル、合間にMVの撮影や音楽雑誌の取材、インディーズとはいえ、ミュージシャンらしく慌ただしくも充実した毎日だった。
 あの日、大阪で潮音ちゃんの話は聞けなくて、その後も改めて話す機会はなかなか持てないけど、それまでオレと潮音ちゃんの間に流れていた微妙な空気はもう無くなっていた。
 互いにどんな事情を抱

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【小説】いかれた僕のベイビー #22

【小説】いかれた僕のベイビー #22

 それに、ここは大阪。
 きっと今もまだ、優菜は、この街のどこかで暮らしているはず…。
 大阪に来る度、ついそんな事ばかり考えてしまってオレはいつも眠れなくなる。

 とはいえこれは潮音ちゃんに必要以上に酒を飲ませたオレの責任だ。
 いまだ握り締めたままのチューハイの缶を回収し、眼鏡を外し、髪の毛をほどいて潮音ちゃんの体をシングルベッドの奥側へ横たえる。
 途中、身体に触れたら起きてくれるかな、と

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【小説】いかれた僕のベイビー #21

【小説】いかれた僕のベイビー #21

「……それでまぁ、その彼女との関係は一年くらい続いて、結局最後は彼女がオレに本気になったから終わったんだけど、その間にオレもそういう女の子の匂い嗅ぎつけるの得意になっちゃって、今に至ってる。…そんな感じかな?ごめんね、こんなくだらない話長々としちゃって…」

「……いえ、くだらなくなんか、無いです」

 潮音ちゃんはとっくに空になっていたビールの缶を両手で力強く握り締めながら、ずっと黙ってオレの話

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【小説】いかれた僕のベイビー #20

【小説】いかれた僕のベイビー #20

「フジくん?」

 バイト終わり、浮かない顔で駅前を一人歩いていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。
 振り返ると、一夜だけ共にした、あの時の彼女だった。

「久しぶりだね、元気にしてた?」

「……まぁ、そっちこそ、仕事、どう?」

 彼女はこの春大学を卒業して社会人になっていた。

「んー、普通かな。仕事なんてそんなもんだよ。……それより、また何かあった?あの時みたいな顔してる」

 ほん

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【小説】いかれた僕のベイビー #19

【小説】いかれた僕のベイビー #19

 そして、何度目かの弾き語りライブの終了後、店長に呼ばれた。
 店長の側には初めて見る顔が二人。
 一人は女の子でキリッとした顔立ちの割に人懐っこそうな笑顔が印象的だ。
 もう一人は男で、見るからに人の良さそうなほわっとした空気を纏っていた。

「……なんですか?」

「この前言ってたバンドのメンバーに、この二人どうかなって……」

 それが、アミちゃんと玉田との出会いだった。

 二人と出会って

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【小説】いかれた僕のベイビー #18

【小説】いかれた僕のベイビー #18

 彼女はオレとは別の大学に通う四年生、就職活動真っ最中でストレスが溜まっていたから飲みに付き合ってもらえて良かったと、最初は何気ない話を交わしていたが、酒が進むうちにお互いもう少し踏み込んだ話もするようになって、気が付くとオレは優菜と別れた事、そのせいで歌えなくなって歌詞も書けなくなって、バンドも解散してしまった事を彼女に話してしまっていた。
 そしてそんな彼女は彼女で、大学の准教授と付き合ってい

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【小説】いかれた僕のベイビー #17

【小説】いかれた僕のベイビー #17

 優菜に会えず、かと言って自分から連絡する勇気も無くて、さらにはその日の宿も決めずに行き当たりばったりで大阪まで来てしまったので、途方に暮れながら慣れない大阪の街を一人歩き回る。
 それでも、せっかくだからと気を持ち直し、ライブハウスが多く集まっていて年に何度かインディーズバンドを中心にサーキットイベントを行なっている有名な地域に行ってみることにした。
 今日のところはどんなバンドが出ているのかま

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【小説】いかれた僕のベイビー #12

【小説】いかれた僕のベイビー #12

 全国8ヶ所10公演の対バンツアー、オレたちが出るのは6ヶ所目、大阪公演の初日、ついにこの日がやってきた。
 同じ事務所の後輩バンドという接点はあるものの、インディーズデビューからまだ一年の若手を大阪の対バン相手にブッキングして貰えたのは、オレたちにとってはとんでもなく光栄な事だ。本当に感謝しないといけない。
 そんなバンドのリーダーでもある向井さんは、潮音ちゃんの事さえなければ、ミュージシャンと

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【小説】いかれた僕のベイビー #11

【小説】いかれた僕のベイビー #11

「……それは」

「今までその事について改めて話した事なかったけど、オレらはおまえの事情全部知ってるし擁護したい気持ちはある。だけど同時に、出来るものならやめさせたいって、みんな思ってるよ」

 そう、だったのか、……知らなかった。

「まぁ、でも今はそれは置いといて、そういう場面にたまたま遭遇して、その、マネージャーの潮音ちゃん?本人にも、アミちゃんたちにも誰にも何も言えずにモヤモヤするのは当た

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【小説】いかれた僕のベイビー #10

【小説】いかれた僕のベイビー #10

「用が無きゃ来ちゃいけなかった?」

 『いきなり来ちゃった彼女』感を出すの、やめろ。

「そういうわけじゃないけど、……おまえ彼女と同棲始めたばっかじゃなかった?」

「あぁ、まぁね」

「ならそんな彼女ほったらかしてていいわけ?」

「もちろんちゃんと言ってあるし、英理奈さんも遠慮しないで行って来てって言ってくれたよ」

 “英理奈さん”は杉浦の彼女で確かオレや杉浦より六歳年上。話すと長くなる

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【小説】いかれた僕のベイビー #9

【小説】いかれた僕のベイビー #9

「……なーんか、今日ずっと上の空だね、フジくん」

 オレの上に跨ったまま動きを止め、顔を覗き込んでくる。

「……え、あぁ、……ごめん」

「悩み事?あたしの話は今日もいっぱい聞いてもらったからたまにはあたしがフジくんの話聞いてあげるよー」

「……あー、そういうのいいから。それに別に悩み事とかじゃないし」

「ふーん?ま、別にいいけど。急に呼び出したのに来てくれただけマシだし。……でも、それな

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