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グレープフルーツムーン

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完結 【小説】グレープフルーツムーン#1〜14最終話 大学生バンドマンとレコード女子(?)のお話です。
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#音楽

【小説】グレープフルーツムーン#1

【小説】グレープフルーツムーン#1

 トリを飾ったバンドがアンコールを終え、ステージからはけて行った。
 今日の対バンイベントの主催で、オレたちのバンドが出演出来るよう直接声を掛けてくれてた大切な相手なので労いと改めてお礼を言うためにオレは彼らを追いかけた。
 最後にステージを降りて行ったボーカルの松本さんにすぐ追いつく。

「松本さん、お疲れ様です…」

 …しまった、声をかけてから気が付いた。狭い通路の途中でオレの呼びかけに振り

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【小説】グレープフルーツムーン#2

【小説】グレープフルーツムーン#2

 金曜日の夜、条件は悪く無かったが客の入りはまばらだった。キャパシティ200人程の決して大きくはないライブハウスで出演は6バンド。努力はしているつもりだがなかなか客が増えない。それでもオレたちの演奏を聴こうとわざわざ足を運んでくれた人達と、初めて聴いてくれる人達に最高の音楽を届けるために今日もステージに立つ。
 各自セッティングを終え、一瞬の静寂の後、愛用のギブソンレスポールを掻き鳴らしオレは歌い

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【小説】グレープフルーツムーン#3

【小説】グレープフルーツムーン#3

 英理奈さんのケータイ番号を無事ゲットしたものの、散々悩んで時間をかけたにも関わらず、結局その日ライブに来てくれたお礼と次のライブの告知というありきたりなメールしか送れなかった。英理奈さんからの返信もそれはそれは事務的な内容だった。
 その後も彼氏のいる年上の女性に気軽にメールを送るのを躊躇い、一日に何度もメール画面を開いてみては閉じて、やがてあれこれ考えるのもめんどくさくなって、結局最初のメール

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【小説】グレープフルーツムーン#4

【小説】グレープフルーツムーン#4

 英理奈さんとの待ち合わせ場所へ向かう道中、オレは急に不安になってきた。もしかしてオレの知らない間にうちのバンドメンバーが彼女の番号を聞いていて待ち合わせ場所に行ったら全員いるドッキリとか、普通に彼女の友達も一緒にとか、最悪彼氏が一緒なのではと嫌な想像をあれこれ巡らせていたが、待ち合わせ場所では英理奈さんが一人でオレが来るのを待ってくれていた。

「すみません、遅くなって」

 オレに気付くと手に

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【小説】グレープフルーツムーン#5

【小説】グレープフルーツムーン#5

 とは言え、やっぱり冷静に考えると絶好のチャンスをオレは逃したかもしれない。

 次のスタジオ練習後に英理奈さんとの事をバンドのメンバーにしつこく聞かれたのでしぶしぶ話すと想像していた以上に呆れられた。
 挙句スマホを強引に奪われ勝手にメールを作成される。 

【この前はありがとうございました。週末また一緒にどうですか?】

 いや、オレ今週末はバイトだし…。
 10分後くらいに返信が来た。

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【小説】グレープフルーツムーン#6

【小説】グレープフルーツムーン#6

 居酒屋を出ると雨が降っていた。
 すぐ隣で雨の降る様子を見て英理奈さんが顔を顰めたその一瞬をオレは見逃さなかった。

「…どうかした?」
「大丈夫、何でもない、ちょっと雨が苦手なだけ、傘持ってる?」
「あぁ、うん」

 雨が苦手な理由が気にはなったが何となく聞ける雰囲気ではない。

「用意良いね」

 彼女もバッグから折り畳み傘を出して開いた。…しまった、傘が無いふりでもすれば彼女の傘に入れても

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【小説】グレープフルーツムーン#7

【小説】グレープフルーツムーン#7

 すっかり明るくなった彼女の部屋のベッドで目を覚ます。英理奈さんはまだオレの腕の中で丸くなって眠っていた。初めて見た彼女の寝顔は普段より少しだけあどけなく見える。
 しばし可愛い寝顔を存分に眺めてから起こさないように慎重に腕を抜きスマホに手を伸ばす。そういえば昨日彼女と合流してから電源をオフにしたままだった。オンにして時間を確認する。
 9時25分だった。

「やばっ!」

 思いのほか大きい声が

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【小説】グレープフルーツムーン#8

【小説】グレープフルーツムーン#8

 思っていたより少しだけはやく彼女のマンションにたどり着けた。
 覚えていた部屋番号のインターフォンを鳴らし着いたことを伝えオートロックを解除してもらいマンション内へと入って行く。エレベーターが降りてくる少しの時間さえもどかしい。
 彼女の部屋のインターフォンを鳴らすとすぐにドアが開いた。

「…いらっしゃい」

 会いたかった英理奈さんが目の前にいる。

「はい、傘」

 靴を脱いで部屋に上がろ

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【小説】グレープフルーツムーン#9

【小説】グレープフルーツムーン#9

 それからしばらくは穏やかな日々だった。とはいえ、彼女は仕事、オレは大学にバイトにバンド。ゆっくり会える時間はほとんど無かった。少しだけ変わったのはそれまでは週末の予定の合う日を選んで会っていたが、曜日は関係なしに、たとえ平日の夜遅い時間でも、どんなにわずかな時間しか無くても、オレが会いたいと言えば部屋に入れてくれた。出来ればこのまま居座ってやろうと思っていたが、さすがにそれは叶わず、合鍵も頑なに

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【小説】グレープフルーツムーン#10

【小説】グレープフルーツムーン#10

 初めて出るライブハウスのステージに少し緊張気味だったが、結論から言うと最高に気持ち良かった。キャパシティは約350人でインディーズからメジャーのアーティストまで使用する人気のハコだ。プロ仕様なので音の抜けも良く照明も凝っている。主催のバンドは特にこのエリアでは人気のバンドで残りの2バンドもオレたちよりキャリアが長く固定客もしっかり付いている。今回はオレたちも必死でチケットを売った。大学の友人から

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【小説】グレープフルーツムーン#11

【小説】グレープフルーツムーン#11

 彼女の部屋のインターフォンを鳴らす。3回鳴らしても応答はない。電話にも出ない。まだ帰っていないのか、居留守か、どちらかはわからないが、とりあえず今はオレに会いたくないという事なのか。ギターケースとエフェクターケースを両手に抱えてオレは駅へと引き返す。
 今しがた電車が到着したらしい、大勢の人が改札を潜り抜けそれぞれの目的の方向へ散っていく。その中に彼女の姿がないか目を凝らしていたが、見つける事は

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【小説】グレープフルーツムーン#12

【小説】グレープフルーツムーン#12

 ベッドの上でオレに背を向けて横たわったまま、まだ荒い呼吸をしている彼女の髪を撫でる。

「……ごめん」

 細くて白い両手首が少し赤くなっていた。

「……大丈夫…、お水取ってくるね」
「いいよ、オレが行く」

 起き上がろうとした英理奈さんを制し、乱雑に脱ぎ捨てられていた下着だけを身につけ、慣れた手付きで冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを取り出して手渡す。

「……ありがと」 

 

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【小説】グレープフルーツムーン#13

【小説】グレープフルーツムーン#13

 明け方近くになって、オレの腕に抱かれたまま眠っていた英理奈さんが目を覚ます。

「大丈夫?」
「私、寝てた…?」
「うん」
「……ごめん」
「いや、もともと無理させたのオレだし…」

 オレの腕の中から抜け出し、ベッドの上で膝を抱えて座る。

「ずっと、起きてたの?」
「……うん」

 寝顔を見つめながら、ただひたすら英理奈さんの告白を思い返していた。

「……ほとんど話したと思うけど、他に何か

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【小説】グレープフルーツムーン#14 最終話

【小説】グレープフルーツムーン#14 最終話

 あの日からまだ10日程しか経っていないというのに、随分長い間来ていなかったように感じる。
 英理奈さんはまだここに居てくれた。彼女の住むマンションを見上げながら、湊のアパートを飛び出してからの事を思い返す。

 雨の中を歩きながら英理奈さんに電話をかけた。コールが繰り返される度、鼓動が激しくなり喉が締めつけられるような息苦しさを感じる。やっぱりもう遅かったか、…諦めかけた時、英理奈さんは電話に出

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