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孤独

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孤独にまつわる、悲哀、切望、暖かさを、赤裸々にしたためます。
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吐露

吐露

生き続けるかもしれないし、死ぬかもしれないし、それは今に始まったことではないのに。大昔からそうだと思うんだ。すぐに人は動揺してしまう。そりゃあ、死ぬのが怖くない人はいないと思うけれど。僕は過去に本当に死んでしまうかもしれないと思ったことが二度あった。一つは事故。一つは病気。幼少期の時に坂道を駆け下りた自転車が止まらなくて、交差点で大型トラックに轢かれかけた。交差点に飛び出る瞬間、何かすごい力に引き

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牡丹雪がふる街で

牡丹雪がふる街で

雪が降ると、辺り音が止む。

僕が世界から取り残されたような静寂。

氷の結晶が落下していくとき、周りの空気を巻き込んで、

冷気のカーテンが僕らの生活音を遮断する。

深々と降る、雪。

東京に大雪が降った、3月29日の朝。

それは静かだった。

自粛を要請され、それぞれの家で、それぞれの場で、生活をしている。

別に当たり前のこと

生活をするということ、それ自体。

確かに目に見えない危険

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春は揺れている

春は揺れている

春。

芽吹きの季節。

若い緑が顔を出し、桜が咲き誇り、暖かな陽ざしに包まれて、
なんだか心地が良くなってしまう、春。

僕は春が苦手だ。

なぜだか浮ついてしまう春に、居場所を見失ってしまう。

流れて、移っていくには穏やかすぎて、
愛を語るには陽気が過ぎて。

別れと出会いの季節だと、使い古されてきた言葉たち。

いつだって別れも出会いもあるけれど、
特別視されてしまう、春。

僕は、期待し

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「好き」は一方通行

ある日、親友は僕に告げた。

「もう少し、『好き』って何かを考えなよ」

え。

好き、って好きでしかないじゃない?

説明しようとすれば、いくらだって言葉が弾む。

僕は人間が好きだ。

僕とは全く持って違う人間が。

何を考え、何を嗜好し、何を言葉にするのか。

言葉にできない微細な表情の変化も。

言葉になる前のとっさの行動も。

僕とは何一つ異なる。

その違いに、どうしようもなく打ちのめ

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新宿駅の匂い

新宿駅の匂い

人には忘れられない匂いがあるとしたら、
貴方は、どんな匂いを思い返すだろうか。

僕にとってのそれは、14歳の冬の新宿駅の匂い。

初めて好きになったアーティストの初めてのライブ参戦。

山と空に囲まれた小さな村に生まれ育った。

冬の澄んだ空気は鼻の奥を突き刺してくる。

近いようで遠い東京。

初めて乗り継いだ電車。

ひとりってこんなに心細かったっけ

一駅、二駅、過ぎてゆく毎に増える人。

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