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【小説】やがて失われてしまうとしても

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猫と小学生(不登校児)の友情の話。 一部は自身の実話をベースにしています。
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記事一覧

やがて失われてしまうとしても【連載小説】#1

序 祈りを捧げる。
 灯篭を川に流し、お母さんと一緒に手を合わせた。

 お盆に現世に戻ってきていた先祖の魂が死者の国に戻る儀式。
 僕はおじいちゃんの灯篭を流した。

 せせらぎに委ね、ゆっくりと流れていく灯篭。
 それぞれの放つ暖かな光が辺りを包み込む。

「この灯篭も流していただけませんか」
 川辺で佇んでいると、ふと見知らぬおばあさんに声を掛けられた。

 灯篭を手渡され、お母さんの顔を見

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やがて失われてしまうとしても【連載小説】#2

弐 梅雨明け。
 7月に入り、蝉の鳴き声が聞こえ始める。
 窓から見上げると澄んだ青空が広がっている。

 休み始めてから数日後、一度先生が訪ねてきた。
 僕は顔を合わせたくなかったので部屋に籠っていた。
 今学期は夏休みも近いので休むこととなったらしい。

 学校に行かなくなったが、僕の生活はあまり変わらなかった。

 朝はいつも通りに起きる。
 勉強はしておきなさいと言われたので、受験用の問題

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やがて失われてしまうとしても【連載小説】#3

参 世間も夏休みに入る。
 最終日、先生が夏休みの宿題と一学期の通知表を持ってきてくれたらしい。
 僕は会いたくなかったので部屋に閉じこもっていた。

「みんな心配してくれているみたいよ」
 お母さんよりそう伝えられる。

 みんな?
 みんなって誰だろう。
 みんなは何を心配してくれているんだろう。

 でも、こんなことをお母さんに言っても仕方がない。
 「そう」と素っ気なく回答し、部屋に戻る。

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やがて失われてしまうとしても【連載小説】#4

肆(前半)
「おお、ユウちゃん大きくなったのお」
 
 おばあちゃんの兄弟、それぞれの子供、孫、総勢30名を超える親戚一同の集い。
 既に迎え火は終えており、先祖の魂と共に、大人は昼から居間で大宴会。
 孫世代は方々に担ぎ出されて冷や汗をかく。

 さすがに酔っぱらったおじさん達の相手ばかりもしていられない。
 年の近い従兄弟達を誘い、近所の公園に避難する。

「ユウ君、最近の東京ってどうなの?」

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やがて失われてしまうとしても【連載小説】#5


「二学期になったら学校どうしようか」

 リビングで朝顔の観察日記をまとめていると、不意にお母さんが問いかける。
 確かに僕は何のために宿題をしているのだろう。

 8月も残り1週間。
 うやむやにしていた問題が突然目の前に立ちはだかる。

「実はね、アツシ君のご両親から連絡があって」
 お母さんは僕の様子を窺いながら話を進める。

 夏休みが終わる前にどこかで会えないか。
 そう提案されたら

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やがて失われてしまうとしても【連載小説】#6


 ある日の夜、お母さんが写真をアルバムにまとめていた。

 花火大会の時の写真。
 灯篭流しの時の写真。
 僕とジジが写っているものもあった。

「これはジジのところに飾ってあげて」
 そう言い、お母さんは写真立てと一緒に僕にジジの写真を手渡した。

「遺影みたいで嫌だな……」
 僕はまだジジがいなくなってしまったことを受け止め難かった。

「お母さんはもう悲しくないの?」
 口にして、声が音

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