早瀬

hayase yun

早瀬

hayase yun

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なにもいわないでいいよ

静かな朝だった。 カーテンの隙間から溢れんばかりに漏れ出る控えめだけど眩しい光、ベッドの傍らに脱ぎ捨てられた自分の足の形を記憶したままのスリッパ、半分だけ微かに膨らんだ、消失の惑星。 全部いつも通りの朝だった。だけど今日で終わるとわかっていた。 ひなちゃんのお家で消しゴムを盗ってしまった日から多分ずっと間違ってきたんだろう。 お腹が減っていた。 飲みかけの紙パックのりんごジュースと少ししけたバゲットを頬張る。ペットボトルが捨てられなくなって、洋服が畳めなくなって、それらが部

    • 結び目

      手を繋いでいると鼓動と体温と汗と一緒に思考まで暴かれてしまいそうで、怖い 自分を覆っている薄い水膜のような聖域をあなたの手が侵してこちらに触れてくる その時ぼくらの水膜はうまれてはじめて一つになる でも 手を離しても水膜が破れることはない ▷ 最初から  ( アダムとイヴがいた頃から ) 僕らは独りだと信じたいから 触れられて、拡張 針を通して、縫合 脊髄反射の一瞬、 たったそれだけで薬指はあなたを忘れて呪いになる 小指から出た糸は行き場をなくして自分の首を絞め続け

      • 安らか な詩

        真空パックに詰められた白い無機物 自分だけの脳内限定のいつのまにかのカトラリー しゅく…ゅく… と 圧縮されていくおでこと目線 抱擁が溶けた灰色のカーテン やさしい遮光で消滅していく 欠けた穴ぼこのチーズ、あとフォンデュ フィルムを乾かして指でなぞる 仮りた幻想の電源ボタンのスイッチ 水中と臍の緒のつながりを考えて、 悍ましくなった… えぇ、いいえ…とスクロール式の祈り 溺れて死んだら魚になりたい

        • 無辜

          永延と刺してくる閃光が痛くて、でもそれは紛れもない生で、いつかの星の点滅になっていて、息溜めと寿命を吐き出すためだけの呼吸で、いつかの死、新しい胎児への憧れ、人はみんな浮遊している、足を地につけないまま、胎児のままだと君は言った、急上昇する心拍数でどうにかしそうな爪先と私だけの失楽園がブルーだった、それだけを覚えていた

        なにもいわないでいいよ

          fuel cell

          認識阻害の雨と言葉の結び目 弾けそうな透明な窓 すべての学習をおぼえてる 孤独に陶酔した猛毒の痕 ほんとうに、ただそれだけでよかった

          fuel cell

          聖域

          インターネットで浪費されていく作家の鏡写し ずっと足りない赤の他人 息継ぎができなくなってそのまま浮き続けてしまう 浮いたまま、沈むこともできなくて、偶像崇拝を遂行する プレイリストから流れてくる音楽は記憶を一緒に執着させてくる くるしくて懐かしくて淋しくて心地よい ねこを見つけると嬉しくなってそれだけ。 光よりも早く純水よりも綺麗なフィルターで脳内を出力していたい 静かで透明なタイルの上にいつも光が差し込んでいて、 きっとそれは、自分の心臓の部分(心臓ではないのだ)

          生きるということ

          何を実像とし、何を架空と定義するかは人それぞれだが 私は触れられるもの、見えるもの つまりこちら側を実像と定義する 自分で実像を定義しているのに定義したことで 見えないのに感じられるもの 触れられて見えているのに感じられないものに直面した時に面食らう そういうものに出会ってしまった時の最善解も対処法を私は知らない 見えない上に触れられないのに感じるものに出会ったとき、 今まで通りの体の感覚は無くなっていく 自分の意思で自分の思うままに動かせる体が解れた糸みたいに 蒸発

          生きるということ

          空間

          点滅し続ける人為的な発光する月 ミーハーな意思を得て歩き回る流行で確立する都市と夜 誰かが触れたら容易く解れてしまいそうなほど 何かしらに自分を分類しておかないと留目ておけない電子のかたまり 白くなっていく吐息に気を取られ 自分の存在が吐息以上に薄いことに気付けない愚鈍 現実をフィクションに変換した輝きが象採って 一瞬で無価値な別れ話 このまま宇宙空間と通信 残されてるのは失楽園だけなのに

          厭値

          無関心なネイルと繊維のように解けていくDNA 致死量の空白と脊髄反射で保たれている脳味噌 未完成なUFOが永遠に無垢 インターネットが生産し続けるすこやかなクッキー 真っ白で天井の高い予備校でのエスキース、 無価値な月ばかり 正しいだけの表現ほど退屈な無意味さ 意識と定着の睡眠という行為 厭世主義な夢日記の踏まれたブックマーカー 都会の冷たさと穢汚い空気を包み込んで醒める 既に季節が死んでいた

          反射

          可聴限界を超えた雑音と仮眠の過眠 致死量の孤独と幸せが相殺して失望が嘔吐した おやすみもさよならも何もない最果てが 秘密基地で重力に逆らった 虹彩レンズが受け止めきれず反射して、金平糖 安全ピンが垂直に刺さる前頭葉がきらきらと白光した 白昼夢みたいな知らない記憶に残る場所で、また自転車のタイヤが空ぶった 超越した生命線が、皮肉るように私を刺した、 もう、つまらない

          記憶

          あの頃は飽和していた通学路も今は感慨深くて 糸を辿れば辿るほど記憶が走馬灯みたいに溢れていく 廃れたものが真っ白な未熟に上書きされていくのはなんだか退屈 不確かで誤っていても私には栞、愛でていたいから 錆びて自我を無くした鉄塊がただ静に座っている 周りのただの無機質な倉庫からの乾いた空気を含む夜は いつも以上に息がしやすい いつの間にか投函された生ぬるい現実が火照った身を醒まして行った 火照るほどの繊維もないのに 電車のガラスから見える真っ青な安全地帯、は、 虚無い

          空白

          スマホの初期化は記憶のリセット パスワードで咎められていた感懐も容易く保退かれていく 真っさらになったスマホはただの正しい板 ちいさい折りたたみ傘でも2人で濡れたら栞になるね 手放された透明なボトルは傍観しているだけだったけど フリータイムのカラオケも醒めることを知らない なんでも留めておこうとする空白 言葉は元に戻ってくれるのに 茹で上がっていない身体はそのままなのは無知 不合理な数式が蔓延っても気付けないほど夢見がち 正常な呼吸をするために異常を蝕んでった

          拡散

          指紋だらけのフィルター越しみたいに■■が不安定な存在になった 私の中で ピアスを開けるような感覚で 簡単に心にだって穴が開くのにそれを知らない 布切れのように断片的なもので創っていく明日はたのしい けど 代償として蒸発していくのは写真 概念と思考を砕いて粒子にして空へ放ったら 消毒された日常が帰ってきて惨め 空間と時間を結合して誰かの異国になる

          必死

          遅刻したOLの鞄で多忙に反復横跳びをするベイマックス 自転車のダイヤル式ロックが知恵の輪になって欲しい ごめんなさいが言えなくて自由落下していく不敬虔 透明な壁越しにみる煙のような反射におじいちゃんとコーラがいて嬉しい 新しい服のムーミンのワッペンが今日を彩ってくれた 自ら不安定なジェンガみたいに不安定にしていくのは己 嘘見たいな夢は儚くて淋しい さよならの温度もしらないけど

          散布

          書き綴っておきたい言葉を押しのけるように 明日の朝ごはんの献立が侵入してくる 流れてくる全ての思考と詞をダムのように堰き止められたらいいのに 水粘土でかぴかぴになって本のページのように捲れた 手のひら 季節外れな風鈴がりんりんとわたしを慰めてくれた 壊された過去も再生産して構築したら きっと また 新しく輝く 幾何学模様に安心するのは余計 思考回路がショートして人生からログアウトして 複製したありふれたアイデンティティなんか拡散しないで

          融解

          後悔が言葉として綴られていく 詩 無駄な抵抗 記録として懺悔するのは煙たくてよい ないはずの境界に指を入れ込んで あの時見た夢を探し続けてる 果てしなく続く思考が螺旋を描いて戻ってきた 冬の先取り 溶けていく文脈が綺麗な嘘へと変身していく 中身のないすかすかな人間未満の脳みそなんて なんの価値も持たない ゴミ箱行き 誰のせいでもないのに