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(仮)トレンディ電子文 第44回:Various Artists「ルール フジテレビと遊びましょ~フジテレビ・ヒット曲集~」

 フジテレビが調子に乗っていた時期、と言われて真っ先に思い出すのは田村正和主演の刑事ドラマでアメリカ在住の役どころだった鈴木保奈美に向かい「ガチャピン・ムック」がまだ活躍している云々という話を聞かせる醜悪な内輪受けシーンなのだが、このCDはそこから遡ること4年、さんま車庫入れ事件に象徴される河田町全盛期の空気をそのままパッケージングしたような92年のオムニバスだ。収録されている楽曲はすべて当時放送されていた番組のタイアップがついており(リリース元はすべてポニー・キャニオン)、

    • 長い友との始まりに、

       日本の長いキャリアのミュージシャンが40歳くらいに書いた歌詞を、自分も近い年齢になった故に深く感じ入ることが最近よくある。麻原彰晃の公判で弁護士が引用していた事ばかり思い出す中島みゆきの「誕生」(40歳)は、しかし普遍的な死生観というよりは「誰かを失うたびに誰かを守りたい私になる」生成変化の過程で、歌詞中には生き死にと恋とがちょうど中間という感じに(要するに、今の自分とほぼ同量)混ざり合っている。ASKAの「can do now」(38歳)という曲には「これで全てが時間通り

      • (仮)トレンディ電子文 第43回:明菜シャツと86年

         昨年以降中森明菜の活動が活発化し、様々なコンテンツがアップされている。HPもそうなのだが前フアンクラブ「FAITHWAY」の時には全く期待できなかったスタイリッシュさ(その前フアンクラブ時代に売られていたグッズでとにかく印象に残っているのが「オリジナルロゴ(A/Nとイニシャルをあしらった素っ気ないもの)」をただベタベタと使ったもので、まあ本人の実働が難しかった故の応急処置なのだろうが、しかしキーホルダーとかならまだしもこのロゴをルイ・ヴィトンよろしく散りばめたバスローブを見

        • (仮)トレンディ電子文 第42回:美川憲一の魅力(2)

           トレンディ期の美川が清水靖晃らをアレンジャーに迎えたポップス/エスノ盤「Golden Paradise」を以前ブログで取り上げた。この盤は再評価も局所的にあるようで、昨年同盤収録曲とシングル曲のハウス・ミックスをカップリングしたクラブ仕様(?)のEPも発売された。美川は「非演歌・歌謡曲」のアルバムを実はもう2枚、翌92年にリリースしている。まず①。「ファン待望のシャンソン・アルバム」と帯には明記されている。淡谷のり子の薫陶を受け、のちに岩谷時子に捧げるアルバムや「生きる」と

        (仮)トレンディ電子文 第44回:Various Artists「ルール フジテレビと遊びましょ~フジテレビ・ヒット曲集~」

          (仮)トレンディ電子文 第41回:美川憲一の魅力(1)

           トレンディ期このかた、TVの中のクィア(と言っていいかどうか微妙なのは承知の上で)タレントとして30年以上常にイメージを変えることなく活躍し続けている美川憲一。Youtubeチャンネル、ブログなど近年のコンテンツにおいても、やけにクールというか戦略的にトレンディ期から全く温度感の変わらない、笑われ上等なザッツ美川憲一を維持し続けている。グレーゾーンに頼らずアイデンティティに胸を張る若いクィア・タレントが増えた現状との何とも言えない距離(レインボープライド出演には驚いたが、美

          (仮)トレンディ電子文 第41回:美川憲一の魅力(1)

          (仮)トレンディ電子文 第40回:ダウン・タウンとわたし

           90年代がほぼ丸々10代だった(そして首都圏に住んでいた)自分にとってダウン・タウンは先ず「バラエティ・ショー中のオルタナティヴ」として現れたのだった。「ごっつええ~」を見る習慣がなく初期「ガキの使い~」は深夜のため当然リアルタイムでの視聴が叶わないとなると、いちばん身近に彼らが現れるのはお昼の「いいとも」と、季節ごとかそれ以上頻繁に作られた日テレのクイズ特番(人気番組の出演者がそれぞれの番組チームでクイズを競った。この形式の番組はいまも存在するのだろうか)で、後者において

          (仮)トレンディ電子文 第40回:ダウン・タウンとわたし

          (仮)トレンディ電子文 第39回:映画「ブラック・レイン」

           89年のハリウッド大作「ブラック・レイン」。アクション映画というのはまあほとんど観ないのだけど、「午前10時の映画祭」(と言っても9時上映だった)で珍しくかかるという事で劇場に足を運んだ。物語自体は自分が思う当時の"アメリカ的"の範疇を出ない、マッチョなキャラクターのポリスメンたちがその魅力を衒いなく画面に映す白人映画だが、撮影はトレンディ期ど真ん中の1988年大阪、更に日本人マフィア(ヤクザ)役として松田優作を筆頭とした「ユーヤさん系」アウトロー陣が、潜入の手助けをするバ

          (仮)トレンディ電子文 第39回:映画「ブラック・レイン」

          (仮)トレンディ電子文 第38回:90年の美しい雨が降っている

           小泉今日子(以下KYON²)が90年代にスポットを当てたツアー「KYOKO KOIZUMI CLUB PARTY 90's」を開催し全国を回っている。この時期は当然「トレンディ期」とも半分重なるわけでこれは事件です、といそいそと参加した。  モモ、午後の紅茶、そして「Thank you for the rumor.」Tシャツ…と90年代、殊に初頭の彼女はキャリアハイと言ってよい(この3つで伝わるか?)状態だったのだけど、イメージの中心に決定的にあるのはやはり音楽作品、中で

          (仮)トレンディ電子文 第38回:90年の美しい雨が降っている

          わたしのアントンくん顛末記

          10月4日 週末の休日出勤のことで非常にメンタルが落ちていた午後、予定の1日遅れで「RIIZE 対面サイン会」当選の案内がメールで届く。そもそも3日に当落通知予定であったことも忙しくて失念しており、Twitterのトレンド検索で思い出したのだ。通知を観た刹那どういうわけか「これですべてを投げ出せる」と思った。仕事中の不安や心配、配慮のはるか上空から、おそらく生涯刻み付けられる出来事が、まったく仕事と関係なくピカピカ輝きやってきた。「天啓として受け入れ、この日の訪れを阻むものは

          わたしのアントンくん顛末記

          (仮)トレンディ電子文 第37回:87年の「現代都会語事典」をいま眺める(3)

          【エリア】東京・六本木にあるディスコ。客の選り好みは「マハラジャ」以上で「あの芸能人の○○でさえスニーカーをはいていたために断られた」的な噂がたくさんあり、それゆえに女子大生、OLの憧れディスコとなっている 「六本木ディスコ照明落下事故」のトゥーリアとは別の店。このリンクにある通り運営はパチンコ会社の日拓。当時のドラマや映画の中のディスコ・シーンはほぼ8割(体感)ここを使っているのではというくらい、映像には残っている。 【エレクトリック・コテージ】「第三の波」でA・トフラー

          (仮)トレンディ電子文 第37回:87年の「現代都会語事典」をいま眺める(3)

          (仮)トレンディ電子文 第36回:87年の「現代都会語事典」をいま眺める(2)

          【浮いてる】番組のトーンに合わない人間を浮いてると言う。わかりやすくいうと、お葬式に白い上着で行ってしまったような状態のこと これも80年代発祥とは誰も気づかないくらいに定着。この一文だとわかりづらいが、「番組」ということは元々ギョーカイ用語だったということか。 【ウーロン茶】半発酵させた中国茶。日本でのブームは80年代に入ってから。ファッション業界人が飲み始め、マスコミ業界、学生と一気に広がっていった こちらもギョーカイ発祥。ウーロン茶がトレンディだった頃の空気はほんのり

          (仮)トレンディ電子文 第36回:87年の「現代都会語事典」をいま眺める(2)

          (仮)トレンディ電子文 第35回:87年の「現代都会語事典」をいま眺める(1)

           「言葉は都会に生まれ、都会に死す」…現在はすっかり粋人的な扱いだが、元々は宝島の連載“チューサン階級の友”などで「昭和軽薄体」のオリジネイターであった嵐山光三郎が、トレンディ期真っ只中の87年に(当時の)世俗・流行の言葉2000語を辞書スタイルで編纂したのがこの「現代都会語事典」でR。角川文庫の「知的新人類のための現代用語集」などとも同時期だが、パートごとの著者のエゴが前面に出ていた「知的~」とは違い、ここでの嵐山は作家性とは距離を置き、極めてフラットな立場から同時代の風俗

          (仮)トレンディ電子文 第35回:87年の「現代都会語事典」をいま眺める(1)

          (仮)トレンディ電子文 第34回:加瀬邦彦&ザ・ワイルド・ワンズ'91「One More Love」

           1991年発表。トレンディ期GS関係のトピックと言えば何と言っても88年以降断続的に続く「タイガース・メモリアル・クラブバンド」の活動だろう。タイガースの面々以外にもアイ高野に岡本信にマモル・マヌーに鈴木ヒロミツに力也に…とショーケン以外の殆どが集まった、平たく言えば「同窓会コンサート」および企画アルバムだったわけだが、ワイルドワンズの面々も(チャッピー含め)当然参加していた。この名義で2枚出されたアルバムは本当にシンプルな再録音で「トレンディ」の見地からはあまり聴きどころ

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          (仮)トレンディ電子文 第33回:トレンディ期のアン・ルイス

           アン・ルイスが引退宣言を正式に行ったのは2013年なのでもう丸10年が経つのだった。最後のシングルは病床の桑名正博、愛息美勇士との変則ジョイント・シングルであり、00年代もセルフカヴァー+新曲の構成作などでほとんど活動休止していたという印象が強い。しかし、少なくとも(ライブ活動が無くなった)95年以降に出された3作(96年「LA ADELITA」から03年「Girls Night Out」まで)のオリジナル盤は、日本の商業作品という軛からどんどん自由になり、何となく予算の少

          (仮)トレンディ電子文 第33回:トレンディ期のアン・ルイス

          (仮)トレンディ電子文 第32回:映画「午前4時にパリの夜は明ける」

           シャルロット・ゲーンズブール…眩しいデジタル音飾と父セルジュのむせかえるようなロマンが絶妙な割合で混合されたデビュー・アルバム「Charlotte for Ever」、マッカラーズ「結婚式のメンバー」をうっすら下敷きにした夏の青春と階級映画「なまいきシャルロット」とトレンディ期フランスのイメージを、自分に決定的にもたらした偉大なる存在であり、更に現在の(音楽とヴィジュアル双方で)地味と迫力を兼ね備えた「最良の小林麻美」的スタイル…毛量含め…で現在進行形で憧れを抱かせてくれる

          (仮)トレンディ電子文 第32回:映画「午前4時にパリの夜は明ける」

          20230409

           昨年末より不意に抱えてしまった激務仕事のピークとちょうど一週間ズレていたのが幸いだったものの、今週は何をしていても辛いので朝に急遽代休の連絡を入れたり、布団をかぶってめそめそ泣いていたりしていた。自分のためだけにサブスクで200曲、非サブスクで50曲のプレイリストを作成、勤務中はそれだけを聴いていた。色々な思い出と楽曲がぶつかり、記憶が蘇ってくる。  90年代の日本のポップスの歌詞中、gut期のあれこれほど「自分の傍に立って」聴こえるものは無かったのだ。それは当然、思春期