(仮)トレンディ電子文 第45回:Various Artists「ルール フジテレビと遊びましょ~フジテレビ・ヒット曲集~」(2)
イギリスと言えばDisc2に収録されたCHAGE&ASKAは、この92年にロンドン録音のアルバムを発表するのだった。91年に続き92年もゴールドディスク大賞を受賞する彼らには、以降のアジア進出にも結び付くであろう「海外フレンドリー」なイメージがこの時すでに付加され始めていたように思う。再発された彼らの楽曲をBGMに白人女性がいかにもヨーロッパ的な建物から軽自動車で出発するCMも92年だったし、秋口にロンドン録音のドキュメンタリーを放送したのも他ならない「フジテレビ」だったのだ。この盤にも通底する程よい欧米とと接続感、それはやはり「トレンディ」と言える何かだと思う。Disc2には他にも当時イラクやソ連など刺激的かつワールドワイドなライブ活動を行っていた河内家菊水丸の3(のちに石野卓球がリミックスを作成)が収録されている。オールナイトフジの後番組「ヤマタノオロチ」のテーマ曲だったそうだが、グラウンド・ビート風のアレンジとオノマトペのフレーズが合わさった、所謂「無国籍」の雰囲気であり、海外情報との当時の接続の仕方が、かすかながら感じられるようだ。
しかしその先の楽曲はどちらかというとフジのお家芸的な「内輪っぽさ」に収斂する感じがある。「ものまね珍坊」テーマでモノマネ四天王の自己紹介ソング6は、本人たちのモノマネによる歌唱を誰もが期待するがそれは一切なく、音のペラいデジタル音頭に合わせて何故か荒井注が、それぞれのものまねレパートリーを朗々と紹介する。Disc1の関連曲ではしっかりハウスしていた「ダンス・ダンス・ダンス」関連の13も、バタくささが一切感じられないむしろ珍曲という仕上がりで、関口誠人作曲の「男と女のラブゲーム」仕様なメロディの合間にダウン・タウンとの卑猥な掛け合いや都々逸調のいなたいラップが挿入されるという(GEISHA GIRLSとの2年の差を痛感…トレンディ期終了後最も「意味」の変わったタレントはやはりダウン・タウンだろう)。またDisc2枚を通じて80年代からの登板となる秋元、ゴツグ、見岳、佐藤準仕事がかなり多く収録されているが、92年というのはサウンドもコンセプトも「軽さに意味の無い軽さ」という地点に嵌っているのだなということを、継続した仕事故にかダイレクトに感じさせる。わかりやすく言うと当盤における(大半の楽曲の)打ち込みには「デジタルの感触」はもはや希薄であり、もっと市井の共感覚を拾っているかのような、大雑把に言うならば「カラオケの感触」なのである。最もそれが顕著に表れているのは最終曲15だろう。ここで標榜されているのは当然「ひょうきん族」土8ムードなのだが、EPOと同じ清水信之仕事でありながら、ブラウン管のパーティーへ誘われる感覚があまり無い。それよりもシンガー平松の「等身大」がやはり強く前面に出ているように思え(そういえば平松は清水と結婚するのだ)、ここに同じトレンディ期でも80s→90sの段差が確かに存在する。そもそも新進気鋭のウッチャンナンチャンの看板番組で土8ムードを引き継ぐのは「早すぎた後ろ向き」のようでもあり、92年というのは「軽チャー」の変わり目の予感があるのだ。
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