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(仮)トレンディ電子文 第37回:87年の「現代都会語事典」をいま眺める(3)

【エリア】東京・六本木にあるディスコ。客の選り好みは「マハラジャ」以上で「あの芸能人の○○でさえスニーカーをはいていたために断られた」的な噂がたくさんあり、それゆえに女子大生、OLの憧れディスコとなっている
「六本木ディスコ照明落下事故」のトゥーリアとは別の店。このリンクにある通り運営はパチンコ会社の日拓。当時のドラマや映画の中のディスコ・シーンはほぼ8割(体感)ここを使っているのではというくらい、映像には残っている。

【エレクトリック・コテージ】「第三の波」でA・トフラーが予言したエレクトリック住宅。会社とのコミュニケーション・システムがしっかりと確立していれば、わざわざ通勤地獄のなかを出社しなくても、在宅勤務が可能となる
みごと的中。「農業革命」「産業革命」の次の「第三の波」が情報革命だという本。現在は各予言の正誤判定中というところか。

【オカジュウ】東京の自由が丘のこと。雑誌の「マリ・クレール」と提携したマリ・クレール通りがあり、新宿より渋谷が好きというタイプの若者が集まる
類語としてサンチャ、ニコタマが挙げられているが何故か当語だけ死滅。

【おかわりレディ】入社して3、4年で、結婚などを理由に会社を辞めていくOLのこと。テレビ番組"オールナイトフジ"に出演していた「おかわりシスターズ」をもじった言葉
どう検索しても全く引っかからない…おかわりシスターズと入れ替わりにデビューしたのがおニャン子クラブ。

【おきて破りの】古舘伊知郎がプロレス放送で、相手レスラーの必殺技を逆利用した場面で用いたことから広まった言葉
古舘関連では他にも予想外の出来事が起こったときの「おーっとー」や、元祖あだ名付け名人としての側面(「内田裕也=歌うカダフィ大佐」「アン・ルイス=芸能界のひとりディズニー」)などがこの本には取り上げられている。山田邦子や松本人志と並んで新語クリエイターなのだった。

【お嬢さま】この古くからある言葉を流行語にしたのは、日本テレビ系の番組「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」。毎週、日本各地のお嬢さまを紹介したところからブームとなった
上記発端は間違いで、84年ごろから女性誌を中心に"上品、山の手"などがファッションの人気キーワードになっていた。女性誌で半ば冗談だった概念が男性誌でマジになって広まったという構図。トレンディ期は"バブル"としてイケイケ側面で振り返られることが多いので、コンサバな「お嬢さま」ブームは不当に忘れ去られている。

【おたく族】友達を呼ぶときに「おまえ」「きみ」などというかわりに「おたく」という古いいいかたが流行しており、これは10代にまで及んでいる。「おたく」は「御宅」であり、自宅に閉じこもって、マイコン、アニメ、カメラ、読書など、マニア性の強い趣味にのめり込んでいる少年たちのことをいう
87年という狭間ならではの、宮崎勤も中森明夫も出てこない「おたく」解釈。「御宅=家=引きこもり」というのも意外と独自か。

【おちこむ】元気がない。気がめいる。→気持ちがモロッコ
現在はこの用法で使われることが殆どだが、この辞書でも6番目(引用も景山民夫)に挙げられているということは新しい表現なのだろうか。「気持ちがモロッコ」なる類語は「笑っていいとも!」出演時の石原真理子の発言で、気持ちが落ち込み地面を通り抜けて地球の裏側のモロッコまで沈むという意味。

【オッシャレーッ】「オシャレ」をオーバーに表現したもの


「美味しんぼ」でしか現在確認することができない(そんなことはない)この表現。それなりに人口に膾炙していたのね。

【オニザン】鬼の残業の略。厳しい残業のこと
うっすらと記憶にあるトレンディ死語…いまでも使えそうな気もするが、廃れてしまったのはやはりキャッチーに残業を扱いすぎているということか。

【お熱】好きになる。恋する。のぼせる。死語寸前の田舎語
「死語寸前の田舎語」状態を今なおキープしているのは面白い。

【おん社】広告代理店用語。クライアントのことをこう呼ぶ。A社のことをA社と呼び捨てにすることは相手に対して失礼にあたるが、A社様と呼ぶのは変であるから、「おん社」という古語が陽の目を見るに至った
これもすっかり定着した語。6~70年代は「貴社」がメインで、この言い方はかなり古風で鹿爪らしく聞こえたらしい。90年の映画「就職戦線異状なし」では「御社」をこれ見よがしに使う学生が描かれる。

 …ア行だけでもこれだけ発見がありたいへんに面白いが、この先も「かるメシ」「グリグリちゃん」「甲田益也子」などめくるめくトレンディ期語が登場。しかし「都会」という括りでこそ浮かび上がる時代性というのも、トレンディ期ならではではないか。"都会"がある程度の「共感」でアクセス可能となった時代だったからこそ、一冊の本として商品化できたのだという気もする。


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