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(仮)トレンディ電子文 第36回:87年の「現代都会語事典」をいま眺める(2)

【浮いてる】番組のトーンに合わない人間を浮いてると言う。わかりやすくいうと、お葬式に白い上着で行ってしまったような状態のこと
これも80年代発祥とは誰も気づかないくらいに定着。この一文だとわかりづらいが、「番組」ということは元々ギョーカイ用語だったということか。

【ウーロン茶】半発酵させた中国茶。日本でのブームは80年代に入ってから。ファッション業界人が飲み始め、マスコミ業界、学生と一気に広がっていった
こちらもギョーカイ発祥。ウーロン茶がトレンディだった頃の空気はほんのりと覚えている。90年代サントリーのCMがスタイリッシュ(反・麦茶的)だったのも、お茶の間は自然に了解していたのだ。

【植島啓司】宗教学者。80年に「女が男になる病気」を出版。宗教学の異才として注目を浴びた。85年の「分裂病者のダンスパーティ」も、ポルノ的考察が交錯して、活力ある魅力にあふれている。女性に人気。関連→中沢新一
現在は『ゼロから分かる!歩いて知る 神社と神さま』などを書いているこの方、当時はニューアカで括れる存在だったのですか(京都造形大繋がりというのがあるのか…?)。昔「女が男に~」をクィア批評系の作品と勘違いして読み痛い目を見た。

【ウォッシュ・アンド・ウエアスタイル】洗髪後のブローという面倒くさい作業なしでも簡単に形づくれるヘアスタイル。デザインカットとパーマによって自然らしさを出すのでブローやセットという手間がいらない。不精な都市生活者向き
何だろう、今でいう「濡れ髪セット」みたいなこと?現在ヘアスタイルの用語はほぼ男/女両方対象なのが当たり前だが、当時上のような言葉は当たり前のように女性のみ適用。

【ウッソー】感嘆詞。「エー」「ウソー」「ホントー」の3点セットが女性のあいづちとして広く流布していたが、それの短縮形
短縮して「ウッソー」だけ残った……「ホントー」?補足として「その発展形として短く"ウト"と発音する用法もある」とあるが、さすがに聞いたことがない。

【エイズ】後天性免疫不全症候群。1981年アメリカで初めて報告されて以来、異常発生し、原因・治療法不明の"現代のペスト"と言われる奇病。ホモの患者が多いことから、ホモの病気のイメージが強かったが、異性間セックスでも感染することが分かった。なぜか日本では対岸の火事的楽観的風潮だったが、87年1月には神戸で初の女性死者が出て、他人事ではなくなってきた
充分に他人事な記述である。

【エイリアン】新人類のこと。あるいは新人類の前期症状をさす代名詞で、会社の新人をET社員と呼ぶ
要するに「言葉が通じない」をキャッチ―に表現した言い方だろう。韓国でいうところの「사차원」か。日本でいまコレに該当する言葉(Z世代は話が通じない的な)って意外と無い。

【エキゾチック・ジャパン】1970年代のはじめに、国鉄が行った"ディスカバー・ジャパン"のキャンペーンのあとを受けて、84年から行われたキャンペーンのキャッチフレーズ。五木寛之の"いま日本はどきどきするほど刺激的だ"のコピーがついていた
CMソングだった郷ひろみに関する記述が皆無なのに驚かされる(楽曲の定番化はおそらく97年のダディ離婚以降)。それにしても五木のコピーは凡庸だ。

【エスニック料理】中東、アジアなどの民族料理。近年注目されているのは、ベトナム、カンボジア、タイ、インド、アラブ料理など。今までの日本人の味覚にはなかった極端な辛さと香辛料が特徴
「これらの料理が受ける背景は激辛ブームと共通する、味覚の冒険意識と特権的なおしゃれ意識がある。彼らはエスニック料理のよさがわからないなんて都会人じゃない、とばかりに、汗をふきふき食べるのである」と注釈は続く。それもそのはず、86年の東京は「タイ料理とインドネシア料理の店が各3軒、ベトナム料理が4軒、カンボジア料理が2軒、フィリピン料理が1軒」のみだったのだ。

【エスパドリーユ】夏のリゾート用の靴。靴底は麻やジュートで編まれ、甲はキャンパス地でできているもの。鮮やかな色が多い
出た!「パティオ」(中庭)などと並び滅んだ"地中海系トレンディ用語"のひとつ。フィクションでこの言葉が出てくる作品に未だ出会えず。

【Xデー】何か重大なことが起きるその日。たとえば革命でいえば蜂起が予定される日。今日の日本でいえば天皇崩御の日
この本は87年刊なのですが、すでにこの使われ方が想定されていたのですね…

【NG】番組の収録中の失敗のこと。タレントのトチリを集めたNG集は、つくりものでないタレントの姿と番組の裏側が見られるので人気がある
露木茂がニュースルームで爆笑する姿が映ってしまったハプニングに端を発した「FNS番組対抗NG大賞」の開始が86年。ナンシー関はこの概念を蛇蝎のごとく嫌っていたと記憶するが、NG番組は今なお継続中。

(つづく)

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