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内向きの威光

はじめまして。東京大学文学部哲学科4年の佐伯康太と申します。

たに、はなに次ぐ三人目のメンバーです。わけあって函館に来るのが遅れましたが、1週間ほど前に横浜の実家を発ち、やっと函館入りすることができました。
念願の函館旧市街!そんな浮かれ気分も、だいぶ漂白されてきたかなという今日この頃です。

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あらためてですが、note「もうひとつの函館」は、三者三様の視点で函館旧市街を捉えようと試みています。たには在住者、はなは移住者ですが、僕は観光者あるいは旅行者です。
観光とは言いましたが、今回は、いわゆる有名スポットをめぐるのとは異なる観光をしてみようと思っています。地域の繋がりに入っていき、「暮らすように旅する」なかで、どんな景色が見えてくるのか。そんなことを念頭に置きながら、1か月半ほど、ここ函館旧市街に滞在することにします。
そして、その景色の移り変わりを、「もうひとつの函館」では発信していくつもりです。僕の投稿は毎週月曜日です。1週間の始まりですね!気合い入れていきます。


さて。今日は、函館と観光を大きく考えてみます。
でも、そもそも観光ってなんでしたっけ。
こんなとき、語源はしばしば思考のきっかけをくれます。

「観光」は、中国の儒教の経典である四書五経の一冊『易経』にある次の一文に由来すると言われているそうです。

「觀國之光、利用賓于王」(國の光を觀(み)る、もって王に賓するに利(よろ)し)

國の光とは、その国の優れたところです。
明治4年、日本を近代国家へ成長させるべく、岩倉使節団が欧米諸国の政治・経済・文化の優れたところを視察に行きました。その報告書『特命全権大使 米欧回覧実記』の表紙には、岩倉具視による「観光」の揮毫が寄せられていたそう。
国の光とは、その国の優れたところ、すなわち威光であり、その威光を見て学ぶことが観光である、と言えそうです。

では、次に、威光ってなんでしたっけ。
こんなとき、広辞苑は答えをくれます。

「人に畏敬されるような、犯し難い威厳。威勢」

他にもいくつかの辞書で意味を調べてみると、「権威に基づき」だとか、人に「普通には出来ないようなことを強行させる」だとか、なんだか穏やかならない文言が並んでます。

自分を権威づけて、相手にそれを見せつける。それが威光なのだとしたら、その光は、外へ照りつける光です。われわれの国は軍事力ではひけを取らないぞ!われわれの街は歴史では、自然では、料理では、魅力に溢れているぞ!と、大手を振り大声を張り上げ、他の誰かへ主張する。それが、観光における威光の光り方な気がします。外向きなのです。

4年前、函館が外へ放つ威光を存分に浴びました。大学のクラスメイトとコテコテの函館観光をしたときのことです。五稜郭、ラッキーピエロ、朝市をめぐり、当然のように旧市街も歩きました。まさに観光ど真ん中、ストライク三振バッターアウト。歴史と美食をビンビンに感じました。それはそれは楽しく、学生生活の良き思い出の一幕です。

でも。この冬、観光者の肩書きを背負い、暮らすような旅を模索しながら、函館旧市街で1週間の時を過ごしてみると、4年前に僕らを楽しませてくれた、あの外向きに照りつける威光とは異質な光を感じます。

その感覚は、いくつかの小さなお店を訪問し、店主やオーナーの方とお話をさせていただく中で、次第に育ってきました。それらの出来事のひとつを、いくらか細かく話させてください。


それは、アンティーク雑貨屋の「1107物語」さんを訪れたときのこと。
その日は、見上げ続けていると吸い込まれてしまうかのような、快晴。特に何もすることが無かった僕は、散歩に出かけました。23歳の若造には不釣り合いな、優雅で高尚な昼下がりです。
二十間坂を上り、突き当たったところで右を向くと、小さな看板を見つけました。茶色の板に白文字で「Antique 1107物語 レトロ雑貨」。アンティークに浪漫を感じる人間として、自然と体はお店の方へ。

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しかし、困ったことに、入り口が見当たりません。
看板に近づいていくと、建物と建物の隙間でしかないような、細い路地が脇に伸びており、その奥にターコイズブルーの扉を見つけます。
扉につけられたガラスの後ろで灯るテーブルランプが、温もりと妖気を同時に放っています。僕は、誘われるように路地を進み、できるだけそっと扉を開けました。

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しかし、またもや困ったことに、そこはまだ店内ではありませんでした。
上がりかまち、スリッパ、白いスライド扉が立ちはだかっています。扉についた窓はすりガラスで、中をうかがうことはできません。他人の家に間違えて入ってしまったかと一瞬肝を冷やしたところで、「どうぞ~」の声がかかり、靴を履き替え、おそるおそる扉を開けました。

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こぢんまりした店内には、和洋問わずアンティーク雑貨が所狭しと並べられていました。和装の人形、昭和な小物、洋食器などが、壁沿いの棚や中央で島になったガラスケースにディスプレイされています。和雑貨も多いからか、白色の明かりに照らされているからか、アンティーク屋にありがちな、重厚で格式高い感じはあまりしません。むしろ、おばあちゃんちの納戸に入ってみたときのようなにおいが鼻腔を満たし、どこか懐かしさを覚えてしまいます。

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店の奥に世界中の切手を集めた缶を見つけ、英国王室好きの僕は、若かりしエリザベス2世が描かれている切手を3枚100円で購入しました。その会計の際、オーナーのアベさんといろんな話をさせてもらうことができました。

アベさんは、20歳の頃にひとりでヨーロッパや中東を旅行したような生粋の旅人でした。以来ヨーロッパだけでも何十回も行っているのだとか。
アンティークがもともと好きだった彼女は、旅を通して収集するようにもなり、それらこだわりの宝物を売っているのが、1107物語なのです。(リサイクルショップのような役割も果たしているため、地域の方から買い取った古い品々も売られています)

こだわりは、アンティーク雑貨だけではありません。この店の、お世辞にも入りやすいとは言えない立地にも、アベさんの想いは現れていました。
「この店は、わざと奥まったところにつくったさ」
昔は道路に面して営んでいたこともあるらしい。だけど、団体で押し掛ける観光客と、どうにも馬が合いませんでした。集団のノリに身を任せて来店し、雑貨を気遣いなく乱暴に触る無粋さに、疲れてしまいました。
本当にアンティーク雑貨に興味があり大切に出来るひとりひとりが、自分の感性に身を任せて立ち寄ってくれる方が嬉しい、とアベさんは言います。
「団体よりも、個人に立ち寄ってほしい。ひとりの自由な行動を、大切にしたい」その想いが、細い路地奥という立地に現れていました。


そこにあったのは、いままでの観光で僕が出会ってきた威光、つまり外向きに照りつける威光とは違う光でした。
アベさんによる、雑貨のコレクションと店舗の立地。それは、自分自身に胸を張ろうとしている、つまり自分自身への威厳を保とうとしているようでした。そこで輝くものもまた威光と呼んでいいのなら、それは内向きの威光でした。

皆さん見てください!見る価値のあるものがありますよ!、という外向きの威光を浴びるか。
私は私に胸を張れる、という内向きの威光を、その明かりが微かに外へ漏れ出していることから察知し、その光源へ身を寄せるか。

僕は、函館旧市街で、もっと、内向きの威光を観てみたい。

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ライター情報はこちら!
https://note.com/another_hkdt/n/nab69fbc73ee5

⭐︎お店情報⭐︎
1107物語

営業時間:10:00 ~ 17:30
定休日:水曜日
住所:函館市元町17-13
アクセス:市電十字街駅より徒歩7分
TEL:0138-26-1104

SMALL TOWN HOSTEL Hakodate
私たちが情報を発信する函館旧市街(西部地区)の中心地で、ローカルの案内役を務める宿泊施設”スモールタウンホステル”のご予約はこちらから
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