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オカバヤシハルオの冒険

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記事一覧

志願の仕組み

少し前から居る200万年後の世界のファミレスで、詩人のOtotoriと相席になった。飲み放題の珈琲を啜りながら、詩人Ototoriは囁いた。

「塩化ビニールの円盤に溝を掘ったもの、所謂アナログレコードだけが録音媒体だった時代のことだと思いたまえ」

「ここに一人の演奏家(ピアニスト)がいて、彼は、世界中の人々に自分の演奏を聞いてもらいたいと思っている。そして、もう一人の男がいる。彼はアナログレコ

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科学は宗教の「私生児」

少し前から居る200万年後の世界に国はない。かと言って、世界政府もない。その代わりにあるのが「エンマ・サブロー」だと、親切なGuiniuGが教えてくれた。

閻魔三郎?

GuiniuGは学生服のポケットから手帳を出して、「EMMΔ III」と刻印された表紙を見せてくれた。「エンマ・サブロー」は、自動翻訳の限界だろう。200万年は短くはない。

(以下、GuinuiGとの雑談メモ)

Guiniu

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無灯火

遅くなった帰りの寂しい道。
巡査のようなモノに呼び止められた。
自転車のライトがついてない。
無灯火で違反、というわけだ。
名前を訊かれた。
ついうっかりオカバヤシハルオと名乗ってしまった。
が、知らない名前。
家族にも知り合いにも憧れの有名人にもそんな名前はいない。
巡査のようなモノが手帳を構えた。
「どんなカンジですか?」
「それは、勿論、反省してますよ」
「そうじゃなくて名前の漢字です」

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四畳半

自宅の四畳半で目を覚ますと、足元に人が正座していた。
顔面は白い包帯でグルグル巻き。
にも関わらず、紙巻たばこを吹かしている。
その、もはや、何やら懐かしい副流煙の匂い。
そのせいで私はついうっかり目を覚ましたと言ってもいい。
黒襯衣に赤ネクタイ。
立ち上がれば、きっと長身。
私はその人を、密かにBと呼ぶことにした。

さて、どうやらここは「無灯火」の200万年後の四畳半。
Bが親切で教えてくれた

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人類最期の職業

Bは贔屓にしている個人タクシーを呼んだ。
運転手が百歳なのが贔屓の理由。
曰く、タクシー運転手としての抜群の経験値。
街の汎ゆる近道と抜け道を知り尽くしているのだ。

Bが告げた行き先は知る人ぞ知る高層マンション。
百歳ドライバーは了解の合図に鼻から変な音を出した。
滑らかに走り出す百歳タクシー。
3回ほどクルクル回ったらもう着いていた。

なるほど、抜群の経験値。

建物の「コ」の字に囲まれた住

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人工自然

少し前から、200万年後にいる。
200万年後に働いている人間は一人もいない。
そもそも人間がほぼいない。
聞いたところでは13人。
村の人口ではなく、地球人口が13人。
多くはない。
随分前に実施された自発的繁殖放棄の「長年の成果」。
ダレカやドコカやナニカの旗振りがあったわけではない。
全人類的になんとなくそうなったらしい。

「なんとなくの理由は説明できるけど、長いよ」
と、引率役のGuin

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地球の総人口の半数がいる診療所

オンボロロボットたちが「暮らす」街から、カエルの運転する路線バスに乗って、海沿いを20分ほど移動したら、Hollow Wharfという漁村に着いた。

本当に200万年後に居るのか心配になるほどの見覚えのある漁村の風景だが、「現在(200万年前)」ではないのは間違いない。目に入ってくる小道具がいろいろと古いのだ。公衆電話ボックス(ダイヤル式)とか、タバコの自動販売機とか、軒下のテーブル型ビデオゲー

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演説会場

「それで結局、ここは本当に200万年後なんですか?」
「200万年後でも、200万年前でも、今が明治122年であることにかわりはないわ」
「そうですか」
「そうよ」

「所謂、イジメの正体は変態性欲なのですな。家庭内暴力も、校内暴力も、これすべて、変態性欲です。この変態性欲が発現しやすいのが、思春期であります。つまり、初めてでよくわからない。だから、拗らせてしまう…」

「誰です?」
「大家よ」

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乗船拒否

「だって、人間はダメでしょ」と船長は笑った。
なぜ?
「譲れない目的が別にあるものはダメです」。
目的って?
「生きることですよ」
だって、生き物だから。
「人間は自分が生き物だから、生きることが絶対に譲れないもので、且つ、生きることは、どんな状況、どんな場所でも、無条件に尊重されるべきだと信じ切っていますが、違いますよ。知性活動にとって生きることは必須ではなんでもありません。人間にはトイレの時間

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本当に人間は13人だけなのか?

親切なGuiniuGがオンラインで教えてくれた。

「絵画の価値を貶めるつもりは毛頭ないのだけれど、生き物を研究して知性の謎を解き明かそうとするのは、これ、絵画を研究して芸術とはなんぞやという問いに答えようとするようなものでしょう。

「そう、間違いではないが、一面的。絵画が芸術の全てではないからです。つまり、アリの知性、カラスの知性、タコの知性…あらゆる生物種の知性を研究したところで、得られる答

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自分「死亡通知」

もう半年も住んでいる200万年後の世界が、明治154年とあまり変わらない風景なのは、裏に、何か特別な、しかし極簡単なカラクリがあるからだろうが、それが分かったところで、トクにトクになるわけでもないので、その問題の解明はナルヨウニナルで流して、街の洋食屋さんでカニクリーム饂飩を食べていたら、後ろの席の話し声が聞こえてきた。

【未知の声】:孤独死の自衛策として、もう、10年も前から実践していることが

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