人工自然

少し前から、200万年後にいる。
200万年後に働いている人間は一人もいない。
そもそも人間がほぼいない。
聞いたところでは13人。
村の人口ではなく、地球人口が13人。
多くはない。
随分前に実施された自発的繁殖放棄の「長年の成果」。
ダレカやドコカやナニカの旗振りがあったわけではない
全人類的になんとなくそうなったらしい。

なんとなくの理由は説明できるけど、長いよ
と、引率役のGuiniuGギニグ
「じゃあ、いいです」

それよりも。
GuiniuGは学生服(5つボタン)を着ている。
学食にはテーブルがあって、券売機もある。
合成樹脂の皿にはナポリタンが盛られている。
窓ガラスだって見える。
要するに、これらは生産者は誰なのだ?
働いている人間が一人もいないのなら…

「ああそれは人工自然の恵みだから」

GuiniuGは即答して、一個しかない赤い目玉を瞬いた。

人工自然。
これ以上ないほどの撞着語法どうちゃくごほう

「そうともいい切れない」とGuiniuG。「つまり」

「人間が必要とする多くのものは人間社会が生み出す。
「その場合の生産者は人間自身。
「しかし人間の生産者は対価を求めるし必要とする。
全ての生産者を人間以外に置き換えた社会。
それが人工自然
「社会ではなく自然と呼ぶのには理由がある。
「オランウータンは自然の恵みで生きている。
「他の野生動物もそう。
「彼らは自然に対して対価は支払っていない。
「自然は無償提供者。
「生産者を人間以外に置き換えた社会も同じ。
「人間は生産物への対価の支払いを求められないからだ。
「まさに、森の恵みと同じ。
「よって、人工社会ではなく、人工自然と呼ぶ。

要するに…

生命現象に依存しない存在たち(200万年前風に言えばロボットたち)で、人間の全社会活動を完全再現したら、人間たちの目の前に、様々な恵みを無償で提供してくれる(黙って持っていっても文句を言わない)、人工の自然、あるいは「自然 2.0」が出現した

ということ?

「さすが、飲み込みがいいね」

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