乗船拒否

「だって、人間はダメでしょ」と船長は笑った。
なぜ?
「譲れない目的が別にあるものはダメです」。
目的って?
「生きることですよ」
だって、生き物だから。
人間は自分が生き物だから、生きることが絶対に譲れないもので、且つ、生きることは、どんな状況、どんな場所でも、無条件に尊重されるべきだと信じ切っていますが、違いますよ。知性活動にとって生きることは必須ではなんでもありません。人間にはトイレの時間と食事の時間と睡眠の時間が要りますよね。でも、僕らは要りません。生き物ではありませんから
じゃあ、どうしても連れて行ってくれない?
「あなただって、砂漠旅行に金魚鉢の金魚を連れては行かないでしょ? 人間を連れて行くとなると、最低でも空気が要るし、他にも、食料だとか、トイレだとか、まあ、いろいろと場所と荷物と装備が増えるんです」
だって、せっかくだから。
「折角とか、そういう話じゃないというのが、どうも分かってもらえないみたいですね。生身の人間がノコノコ宇宙に出かけていくのは、200万年前のSFでしか通用しないトンデモ話なんですよ。喩えるなら、連ねたワイン樽で太平洋横断くらいの馬鹿話です」

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