人類最期の職業

ビー贔屓ひいきにしている個人タクシーを呼んだ。
運転手が百歳なのが贔屓の理由。
曰く、タクシー運転手としての抜群の経験値。
街のあらゆる近道と抜け道を知り尽くしているのだ。

が告げた行き先は知る人ぞ知る高層マンション。
百歳ドライバーは了解の合図に鼻から変な音を出した。
滑らかに走り出す百歳タクシー。
3回ほどクルクル回ったらもう着いていた。

なるほど、抜群の経験値。

建物の「コ」の字に囲まれた住民用駐車場。
午前3時半。
ヘッドライトを消した車内で煙草をくゆらせて待つ
車の外で音がした。
の指示でヘッドライトが灯る。
光の中にうつ伏せに倒れたピンクのウサギの着ぐるみ
百歳ドライバーがまた鼻から変な音を出した。
「名所ですから」
多分そう言ったのだ。
ヘッドライトの中でウサギが起き上がった。
割れた青い瞳と長い前歯の笑顔がこちらを向く。
無言。
早足にヘッドライトの外に消えた。

私達百歳王を残し、ウサギを追った。

エレベータが昇る。
3人はたまたま乗り合わせた赤の他人。
ウサギのエレベータは最上階で止まった。
共用廊下を歩くウサギ。
手すりから長い耳を突き出し見下ろす。
視線の先はさっき自分が倒れていた場所だ。
躊躇ためらいなくグイっと乗り越え飛んだ。
そしてまた音がした

私達は待った。
エレベータが鳴って、ウサギは戻ってきた。
そして、さっきと同じ
はウサギの周回時間を測った。

ウサギは5回飛んだ。
そして、6周目に空中でに捕まった。
足首を掴まれたウサギは「一時停止」で振り向いた。
がポケットから光る輪っかを取り出す。
「ーーーーー!!」
着ぐるみの頭の中にくぐもって響く歓喜の叫び

は掴んでいた足首を離した。
ピンクのウサギの着ぐるみが空を昇っていく。
頭には光る輪っかが浮かんでいる。

特にノルマはないらしい。
ただし自動車の運転は禁止。

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