地球の総人口の半数がいる診療所

オンボロロボットたちが「暮らす」街から、カエルの運転する路線バスに乗って、海沿いを20分ほど移動したら、Hollow Wharfという漁村に着いた。

本当に200万年後に居るのか心配になるほどの見覚えのある漁村の風景だが、「現在(200万年前)」ではないのは間違いない。目に入ってくる小道具がいろいろと古いのだ。公衆電話ボックス(ダイヤル式)とか、タバコの自動販売機とか、軒下のテーブル型ビデオゲーム筐体とか(白黒画面を覗いてみると、ドット絵の戦艦大和的なものが宇宙空間で自機に燃料を補給している)。

「1プレイ:50円」と書いてある

そんなことより。

「学校」で聞いたところでは、「今」の地球の総人口は13人のはずなのに、Hollow Wharf村の診療所の待合室だけで既に5人いる(全員年寄り)。診療所には医者と受付係もいるので、このままでは、地球の総人口の半数がこの漁村の平屋の診療所に集結していることになる。

色々と騙されているのかも知れない。その一方で、知らないはずのことも色々と知っている。それも含めて、色々と騙されているのかもしれないが、これが語り手の全能性というものか、とも思う。

受付の女性は医者のひとり娘だが、子供の時の事故で舌が後ろ半分しかない。つまり、受付係なのに、何を言ってるのか、よく分からない(慣れると分かるらしい)。親知らずを抜いた直後は(麻酔のせいで)みんなそうなるが、この女性は、ずっとそうなのだ。こぼさないようによだれをすすりながら一生懸命に話してくれるが、やっぱり分からない。で、顔を見合わせて、二人でハハハと笑ったら、諦めて、紙に書いてくれた。

「今日はどうしましたか?」

なんだ、そんなことを言ってたのか。

体温計を脇に挟んで待合室のベンチに座っていると、隣の老人(あとで聞いたら58歳だった。「昔」の人は老けて見えたのだ)が話しかけてきた。

「人はみんな死ぬでしょう。寿命というものがあるでしょう。人間の寿命を80年だとすると、60歳になってときには、あと20年ってことでしょう。そしたら、今20歳で、これから0歳まで時間を遡っていくんだ、と想像するのですよ。そうするとですね、最後の3年くらいは、もう、人間としてマトモな活動はできそうもないな、と分かるでしょう。だって、3歳児と2歳児と1歳児ですから。いや。そもそも、最後の7年くらいは、もう、ユメウツツでしょう。自分の7歳くらいまでのことを思い出してごらんなさい。ユメウツツだったでしょ? 何がなんだかわからないまま、とにかく、生きてたんですから。すると、覚悟とか準備とか心づもりとかがね、ちょっと、具体的になりやあしませんか」

順番が来た老人(58歳)は話しっぱなしで診察室に消えてしまって、残された方は今ごろベンチが硬すぎることに気づいた。尻骨の存在を知る硬さ

思い出して体温計を出したら、38度5分もあって、ギョッとした。


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