四畳半
自宅の四畳半で目を覚ますと、足元に人が正座していた。
顔面は白い包帯でグルグル巻き。
にも関わらず、紙巻たばこを吹かしている。
その、もはや、何やら懐かしい副流煙の匂い。
そのせいで私はついうっかり目を覚ましたと言ってもいい。
黒襯衣に赤ネクタイ。
立ち上がれば、きっと長身。
私はその人を、密かにBと呼ぶことにした。
さて、どうやらここは「無灯火」の200万年後の四畳半。
Bが親切で教えてくれた。
ありがたい。
本来は隠しておくことらしい。
ありがたい。
しかしどうだろう。
5年後や10年後や50年後なら慌てふためきもする。
200万年後では、もはや、逆に、20時間後と区別がつかない。
「なるほど、そうですか」
私は、最も妥当だと思える返事をした。
そんなことよりも。
私は、私の右手を探していた。
さっきからどうしても見つからないのだ。
朝起きてメガネが見つからないように見つからない。
Bが私の「異変」に気付いて、紙袋を持ち上げて見せた。
「岡林春緒の右手」と油性ペンで手書きされている。
あんなところに入っているなら見つからなくて当然。
私はようやくホッとした。
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