自分「死亡通知」

もう半年も住んでいる200万年後の世界が、明治154年とあまり変わらない風景なのは、裏に、何か特別な、しかし極簡単なカラクリがあるからだろうが、それが分かったところで、トクにトクになるわけでもないので、その問題の解明はナルヨウニナルで流して、街の洋食屋さんでカニクリーム饂飩を食べていたら、後ろの席の話し声が聞こえてきた。

【未知の声】:孤独死の自衛策として、もう、10年も前から実践していることがあって、何だと思う? 分からない? あのさ、ブログとか、そういうのに、予約投稿機能ってあるでしょ。アレを使うの。つまり、『私は、この文章が公開された3日前に、自分でも予期せぬ形で、この世を去りました。というのは、私が生きている間、私は毎日、この文章の予約投稿日を、一日だけ先に延ばす変更を続けていたからです。今度、私が死んでしまい、その先延ばし作業が停止してしまったため、遂に、この文章がここに公開されたのです。自室での孤独死の可能性もあります。私の遺体が腐乱して、近隣住民の皆様に迷惑をかける前に、適切な処置等をお願いします』みたいなことを書いて、そのあとに、実際の住所だの、管理者の連絡先だのも書き込んでおく。で、その予約投稿記事の公開日を3日後に設定しておくのさ。あとは、記事に書いた通り、生きている限りは常に、予約投稿日が『3日後』になるように毎日変更する……ああ、利用者が死んだら知らせる機能が実装されているSNSがあるのは知ってるよ。けど、そんな機能がなくても、予約投稿機能で簡単に代用できるって話だよ……いや、一週間後とか一ヶ月後にしちゃうと、まあ、自室で孤独死したときに、遺体の腐乱を防げないでしょ。夏場なら一週間後でもムシが湧くよ。3日後だって危ないと思ってるくらいだから、本当は2日後くらいがいいんだろうけど、2日後だと、死んでないのに、うっかり予約投稿日の変更を忘れちゃいそうで怖いから……そうそう、フフフ……そうだよ、孤独死そのものは防げないけど、その後の始末っていうか、迷惑のかけ具合が少しは減るでしょ……そうさ、孤独死の『問題』って、結局、孤独に死ぬことじゃなくて、遺体が放置されて腐っちゃうってことのほうだからさあ……まあね、もとから誰も読んでなかったら意味ないんだけど(笑)」

なるほど、いいことを聞いたゾ、と思ったら、饂飩のクリームがハネて、服についた。


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