無灯火

遅くなった帰りの寂しい道。
巡査のようなモノに呼び止められた。
自転車のライトがついてない。
無灯火むとうかで違反、というわけだ。
名前を訊かれた。
ついうっかりオカバヤシハルオと名乗ってしまった。
が、知らない名前。
家族にも知り合いにも憧れの有名人にもそんな名前はいない。
巡査のようなモノが手帳を構えた。
「どんなカンジですか?」
「それは、勿論もちろん、反省してますよ」
「そうじゃなくて名前の漢字です」
「ああ。岡山の林に春のいとぐちです」
私はまた、いい加減うそを答えた。
「いとぐち?」
「いとへんに、悪者わるものものです」
「いとへんに、悪者の……ああ、一緒のしょね」
「そのしょです」
生憎あいにく、自転車のライトは壊れていた。
「どうしたらいいですか?」
「押して歩いてください」
遠いですよ
「仕方ありません。無灯火は事故のモトですから」
「事故ですか?」
昨日も一人死んでます」
「無灯火で?」
「無灯火で」
「交通事故?」
転落です
「どこで?」
「その少し先の…」

そんなことより。

オカバヤシハルオとは何者なのか?
自分で言っといて。
このときの私は知るよしもなかった



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