母が、くも膜下出血で倒れました。[上] #1
起業家という道を経て、今は二作目の出版を目指して執筆活動に明け暮れる橋本なずなです。
——— 1/16 Tue PM9:30
淀屋橋とお初天神の街を繋ぐ御堂筋歩道橋の上。
北新地から走り出す数々のタクシーを、頬杖を付きながら見送っていた。
濡れた瞳で視界が霞んで、タクシーのヘッドライトがイルミネーションの様に綺麗だ。
その過ぎ行く中に飛び込んだら、私も光になれるだろうか。
そんなことを考えていた。
「 もしもし? 」
『 もしもし?どうしたん?もう帰って来るー? 』
「 ん-…なんかさぁ 」
家で帰りを待つ母に、私は纏まらない言の葉を抱えて電話を掛けた。
「 病んでるんかもしれん、私 」
『 えぇっ、なに、、どうしたん? 』
心の芯まで震わせたような、母の非力な声色。
母の心配を杞憂だと片付ける筋合いが私には無い。
私は三つの精神疾患を持っていて、二度の自殺未遂を起こしている。
「 うーん、分からんねんそれが。何かがつらいわけじゃないし、嫌なことがあるわけでもないし… 」
「 今日の昼間なんか “生きづらくなくなった” 的なnote書いたんやで。それはそれで嘘やないんやで 」
「 でもな。生きづらさがなくなって、この世界に反感も、違和感も、何にもなくなったらな 」
「 そのまま世界に溶けちゃった 」
へへへっ、って笑いながら、私の視界はなおも潤んで映っている。
涙が溢れる程に笑いがこみ上げて来て、淀屋橋の駅に向かい歩く私を、人々は好奇な眼差しで見つめていた。
「 なんか、飛び込みたくなっちゃったんよ 」
「 今は地上におるから安心して。でも何かあった時に、と思ってとりあえず電話した 」
『 そう… か 』
薄々気付いていた。数日前から何をしても満たされないことを。
小説を書き終えて放心状態だったのは確かだけれど、魂までも吸い取られた感じ。
生気が無くて、無心。奇妙なくらいにフラットだ。
美味しいご飯を食べても、友人とお喋りしても、お酒を飲んでも、セックスをしても。
刹那的な悦びしか得られなかった。
作品づくりに命を燃やし過ぎた結果だ。
一つを書き上げるのにこれほどになるのなら、私はこれからあと何度、死にたい夜を過ごすのだろう。
『 帰って来れそう?迎えに行こか? 』
「 うーん、帰る気分じゃない。お母さんとおるんが嫌とかやないよ 」
私は帰りたくなくて、でも、誰かに会いたいわけでも、飲みに行きたいわけでもなかった。
私は母との電話を切ると、再び御堂筋の通りを歩き出した。
——— 10分、20分と歩いたところで、私は疲れて地面に座り込んだ。
ビルの玄関口で足を伸ばして、立派なコンクリートの柱を見つめていた。
一人、また一人と、私の周りを避けて行く。
これがニューヨークだったら、誰かは声を掛けて来るだろうな。
危ない人かもしれないし、親切な人かもしれないし。
日本は治安が良いけれど、人と人の繋がりも希薄だよなぁ、なんて考える。
30分くらい経った頃で、私のお尻と手足は限界に達した。
2.8℃の空の下、憂鬱な気持ちよりも先に、指の先まで凍えた身体が悲鳴を上げた。
まだ帰る気分にはならなかったが、とりあえず足を動かそうと起き上がる。
再びあてもなく歩いていると、一つの看板が目に留まった。
【 淀屋橋ホテル ~四季温泉~ 】
あぁ。帰る気にも、何かを飲み食いする気にもなれないけれど、この冷えた身体を温めることなら悪くないな。
時計の針は23時を回ろうとしている。
電車だってまだ通っているし、淀屋橋なんてよく行く街だ。
何の非日常感もない土地のホテルに泊まるなど馬鹿みたいだけれど、今の私にできる選択はそれしか無かった。
——— ふぅ。
大浴場の温泉から部屋に戻って、髪も乾かさずにベッドに倒れ込む。
死にたい気持ちは、一日の汚れとともには落ちてくれなかった。
だからと言って自ら命を断つ労力は残っていない。
けれど、明日の朝、目覚める自信はもっと無い。
強盗とか来ちゃうかなぁ、そんで殺されちゃうのかなぁ。
そんなことを考えながら私はスマホを内カメにして、おもむろに言葉を紡ぎはじめた。
「 今、淀屋橋のホテルに居ます。一人です 」
「 今日、歩道橋から飛び降りたいって衝動に駆られました 」
「 今は自分を殺すほどの労力は無いんやけど、明日の朝、変わらず一日の幕が開けている自信もありません 」
「 どうやって死ぬんかはわからへん 」
「 でも、もしも、私がここで遺体となって見つかったら。これを誰かが見たら。私の言葉を届けてください 」
それから私は母に電話で言ったようなことを、カメラに向かって話をした。
生きづらくはないことを、世界に溶けてしまいそうだということを。
そして、次に目が覚めたら「 お母さんに会いたい 」と。
お父さんにも、お兄ちゃんにも会いたい。最後にみんなで集まりたい、と。
ピコンッ ———
カメラの録画を終えて、私はゆっくりと目を瞑った。
( [中] につづく )
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