水辺のビッカと月の庭 二十九回 バスは夜の橋を渡る Ⅲ
影男は申し訳なさそうに言う。
「次の停留所で降りなくちゃいけないんです」
影男のフードが弱々しく光る。そのうす青い光を見てビッカは言う。
「そうか。事情がありそうだ」
ムンカは声の調子に切実さを感じる。
「どうして?」
「約束があって」
ビッカとムンカは影男を見つめる。
影男はきっぱりと言う。
「以前からの約束なんですよ。やっと果たせるかも知れない」
興奮しているのかフードが薄赤く光る。
「前も言いましたよね。整備員はブランコに乗ってはいけないって」
ビッカもムンカもうなずく