すどう文博

去年は「イヤホン・ヘッドホン」にはまり、今年は写真が面白くなってしまいました。

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去年は「イヤホン・ヘッドホン」にはまり、今年は写真が面白くなってしまいました。

マガジン

  • 現代詩、ドタバタ小説

    詩らしくない詩 小説らしくない小説 流行らない小説

  • 中学受験のための歴史と地理

    現在難関校と言われる中学校では、一問一答のような出題は多くありません。歴史的できごとの理由を理解しようとする気持ちを持って学習しておかないと解けないような問題が多く出されています。

  • 「今昔物語集」より

    このマガジンには、今昔物語集をもとにして書いた物語を集めています。

最近の記事

水辺のビッカと月の庭 二十九回 バスは夜の橋を渡る Ⅲ

影男は申し訳なさそうに言う。 「次の停留所で降りなくちゃいけないんです」 影男のフードが弱々しく光る。そのうす青い光を見てビッカは言う。 「そうか。事情がありそうだ」 ムンカは声の調子に切実さを感じる。 「どうして?」 「約束があって」 ビッカとムンカは影男を見つめる。 影男はきっぱりと言う。 「以前からの約束なんですよ。やっと果たせるかも知れない」 興奮しているのかフードが薄赤く光る。 「前も言いましたよね。整備員はブランコに乗ってはいけないって」 ビッカもムンカもうなずく

    • 水辺のビッカと月の庭  二十八回 バスは夜の橋を渡る II 

      ビッカとムンカは窓ガラスにはりついて外を見る。 「暗いね。うっすらとしか見えないね」 「今は夜だぞ」 「もう、橋を渡っている最中ですよ」 影男が穏やかに言う。 「バス停もないですよ」とつけ加える。 「橋に一本の街灯もないなんて」ムンカは窓に顔をはりつけたまま言う。 「お月様はどこに行ったかな」ビッカも夜空を見上げて言う。 濃淡のある闇がカーテンのように揺れている。 「大きな川を渡ってるんだね。水の匂いがしてるよ」 「隣町って言ったくせに随分遠そうじゃない」 ビッカは不安そうだ

      • 水辺のビッカと月の庭 二十七回 バスは夜の橋を渡る I

        「後から来るって言ったけど、ビッカは信じてる?」 ムンカとビッカは停留所で、並んでバスを待っている。 話題は公園の整備員こと影男だ。一緒に行くと言ったのに姿を現さない。 「気が変わったんだ。きっと」ビッカが言う。 「今バスが来たらどうしよう」ムンカは気にする。 「乗るしかないさ」 「どこで降りるの」 「影男が教えてくれた目印がある」 「大きな木だって言ってたよね。どの程度なのかな。夜なのにわかるかな。バスから遠いと見えないこともありそうだよ」 ムンカは次々と心配の種を持ち出す

        • 水辺のビッカと月の庭 二十六回 背中合わせのトッシュ Ⅳ

          「公園に一人で追い出されたらどうなるかわかるかい?」 赤のトッシュが問う。ヒロムはかぶりを振る。 「すたすたと真っ直ぐ出口に向かえば出られる。うろうろきょろきょろすれば」 そこまで言ってぐっとヒロムをにらむ。 「公園を歩いているうちに木の葉がくっついて虫にされるか、砂場の鯉の餌になるかだよ」 ヒロムの表情は歪みみるみる青ざめる。 「そうだったんだ」 沈んだ声で言う。 『帰れなかった子はまだ公園にいる』 キルカの言ったことばを思い出す。ヒロムはゾッとする。座ってしまいそうになる

        水辺のビッカと月の庭 二十九回 バスは夜の橋を渡る Ⅲ

        マガジン

        • 現代詩、ドタバタ小説
          9本
        • 中学受験のための歴史と地理
          9本
        • 「今昔物語集」より
          9本

        記事

          水辺のビッカと月の庭 二十五回 背中合わせのトッシュ Ⅲ

          歌い終わって上機嫌の赤のトッシュは尋ねる。 「キルカは何をしていた?」 口頭試験のような口調だ。 『キルカさんはキルカしていました』 声に出す前に胸の内で言ってみる。言ってみると間抜けな答えだ。何をしているかちっともわからない。言い方を考える。『寝ていました』も印象がよくない。怠け者だと言ってるみたいに聞こえる。 「僕を公園の外まで送ってくれた」 「それが答えかい?」 赤のトッシュは不機嫌そうに言う。 ヒロムは小さくうなずく。 「でもそれは最後だろう」 ヒロムは自分の見た順に

          水辺のビッカと月の庭 二十五回 背中合わせのトッシュ Ⅲ

          水辺のビッカと月の庭 二十四回 背中合わせのトッシュ II

          『顔がひとつしかない』 ヒロムは心の中で繰り返す。当たり前のことなのに、なんだか情けない気持ちになる。 「おいボウズ、何か言ってみろ」 言いたい放題言われてもヒロムは声を出せない。 キルカは一人だけだった。でも今度は二人分を相手しなくてはいけない。 「トッシュさん、ぼくは」 ヒロムは二人に呼びかけようと声をかける。途中まで言うと、トッシュのからだが震えだした。声を揃えて叫ぶ。 「その呼び方はやめろ!」 金切り声になっている。 からだがひらりと九十度まわって横向きに止まった。赤

          水辺のビッカと月の庭 二十四回 背中合わせのトッシュ II

          写真と散文 「豊洲奇譚」 1回

          「何を撮っていますか」 若い男の声だった。背後からかけられた。 ふりむくといぶかしそうな表情で私を見ている。 青年の表情にはまだあどけなさが残っている。 豊洲のとあるオフィスビルの前のことだ。 私は少し返答に困ってしまう。 カメラのレンズはオフィスビルの壁にむけていた。 口で説明するよりは見てもらった方がと思い、私は指をさす。 豊洲のオフィスビルは、どのビルもガラスの壁面だ。 その壁面に、空があり、雲がうつろい、向かいのビルが映り、作業クレーンが鉄骨をはこぶ。 青年の瞳も虚

          写真と散文 「豊洲奇譚」 1回

          水辺のビッカと月の庭 二十三回  背中合わせのトッシュ Ⅰ

          「ここが出口だ」とキルカは言った。キルカの公園の明かりの薄れゆく場。 キルカが小屋に戻ると明かりは海辺の砂浜にしみこむように消えていく。 次に暗闇が大波のように押し寄せてくる。 暗闇に包まれると天と地さえも不分明になる。 動こうとするとからだが傾きふらついてしまう。 真っ直ぐ立っていられない。 血の気が下がっていく。 ヒロムは膝を抱えて座りこむ。 キルカは「迎えが来る」と言ったが、いつ来るとは言わなかった。 探しているとも言った。しかしキルカは「動くな待て」と言った。 本当に

          水辺のビッカと月の庭 二十三回  背中合わせのトッシュ Ⅰ

          写真と詩 三回

          これも、雑木林の中にあった公園の木 その陰を撮った写真で想を得たものです。 「目撃してしまった。 木々が地面に影をつくり 触手をのばすように影をのばしていく その先に、逃げ去るように走っていく電車。 冬の陽射しなのに、この力強い陰は」

          写真と詩 三回

          水辺のビッカと月の庭 二十二回  ここにいないヒロム Ⅲ

          影男の作業着までも膨らんだりしぼんだりする。じっと見ているムンカが尋ねる。 「気になることがありそうだね」 フードがムンカの正面にむく。 「不思議なところだ。ボクが知る限り一度だって落ちたことはない」 真剣に聞いているムンカが口を開く。 「公園でなくてどこか別の場所ってことだね」 「そうなるなぁ」 影男がつぶやくように言う。 「心当たりは?」 ビッカは強い口調で言う。影男は作業着の中のからだを震わせる。ムンカは尾っぽで影男の腰あたりをたたく。 「ヒロムと会ったとき、そそのかし

          水辺のビッカと月の庭 二十二回  ここにいないヒロム Ⅲ

          写真と詩 第二回

          写真はモノ、視線、空間そして過去の時間も想起させてくれる。 遅ればせながら気がつくと、視覚でとらえていた世界がかわる。 雑木林の中に公園があった。木漏れ日で地面が明るい 土の匂いを嗅ぎたくてふらりと入る 見上げると冬の青い空に木々の枝が伸びやかだ 木々の枝ぶりにカメラを向ける 少しずつずらしてレンズごしに見る 逆光にかかったときに 太陽にかざした指のように見え 枝枝が毛細血管になった そうか、同じだ、ぼくと。 その日からぼくは木になる 急ぎ足では歩まない

          写真と詩 第二回

          水辺のビッカと月の庭 二十一回   ここにいないヒロム Ⅱ

          二十一回 ここにいないヒロム Ⅱ ビッカの赤い目玉はグルグル回りだし、ムンカの尻尾はパタパタと空を叩く。 次に向いあって顔を見あわす。 「ヒロムの話しとくい違っているよ」 不愉快そうにムンカが言う。ビッカもますます困った表情になる。️ 影男は右手を振りながら、 「あの子は好きなブランコは大事にするけれど、そうじゃないのは」 と言って焼け残りのブランコを見る。 ビッカとムンカは呆然とする。 「あんたらヒロム思いだね。嘘なら良いけど、残念ながら今言った通りだよ」 影男は言う。ムン

          水辺のビッカと月の庭 二十一回   ここにいないヒロム Ⅱ

          写真と散文 一回

          この歳になって(ということはいい歳食ってる)写真が面白いと、大いに面白いと。 目にするものが、何かを気づかせてくれる。 発見があって楽しい。 「モノ」と「視線」と「空間」と。 勤めにでるのに、ぼくは自転車に乗る。 日ごろ置くのは、とあるビルの手前の駐輪場。 定めた位置にとめられた自転車が、仕事終わりのぼくを待つ。 とまどいはいきなり訪れる。 鏡がぼくの自転車と駐輪場を移動させていた。 呆然としてぼくはビルを見上げる。 ガラスの壁面に世界が丸ごとうつり変わっていく

          写真と散文 一回

          水辺のビッカと月の庭 二十回 ここにいないヒロム Ⅰ

          「ムンカ、もう止そう。指が傷だらけになってしまうぞ」 ムンカは必死になって黒い地面を掘っている。見かねたビッカが止める。 「ヒロムが地にのまれてしまったんだよ」 手を止めたムンカは不満そうな表情でビッカを見る。 「もちろん心配だよ。でも地面を掘ったところで見つかりはしないよ」 ムンカは自分が掘ったあとを見る。非力なムンカの力ではくぼみにもなってない。 「ではどうするの。ヒロムはどこかへ行っちゃたよ、これで終わりにするの?」 ビッカの表情にも苦渋が浮かぶ。 「そんなこと思ってな

          水辺のビッカと月の庭 二十回 ここにいないヒロム Ⅰ

          水辺のビッカと月の庭 十九 キルカの公園

          キルカは再び壁の前に立つ。短い両手を一箇所に手を差し伸べた。 「ここがヒロムの出口だ」 壁だと見えていたところが扉になった。 「隠し扉みたいだ」 「三つあるそのうちの一つだ」 キルカは扉を開ける。小屋の光が左右に開いた間から前庭を真っ直ぐ一筋にさした。 「さあキルカの公園だ」 ヒロムの肩に手をやりかるく押しだす。扉を離れて歩を進めて行く。 ヒロムは辺りを見回す。小屋からの光が吸い取られるように弱くなっていく。 「でもここは公園らしくないね」 ヒロムは感想を述べる。 後ろ手に扉

          水辺のビッカと月の庭 十九 キルカの公園

          水辺のビッカと月の庭 十八 キルカの眠り Ⅳ

          「どうだ痺れは無くなっただろう」 摩擦をうけていた手も足も痺れはかすかに残っている。 ヒロムはうなずきながら言う。 「でもからだ全体がだるい」 「これから家に帰ってもらう」 ヒロムの表情は明るくなる。 キルカは動かしていた目玉をピタリと止める。 「それが当然だと思われると困る」 ピシャリと言う。ヒロムに不安の表情が浮かぶ。 「キルカは落ちた子に二つの権利を持っている。聞きたいか?」 返事にためらうヒロムを無視してキルカは続ける。 「一つ目は、落ちた子を家に帰す権利だ。そうすれ

          水辺のビッカと月の庭 十八 キルカの眠り Ⅳ