すどう文博

去年は「イヤホン・ヘッドホン」にはまり、今年は写真が面白くなってしまいました。

すどう文博

去年は「イヤホン・ヘッドホン」にはまり、今年は写真が面白くなってしまいました。

マガジン

  • 水辺のビッカと月の庭

    親水公園のビッカと湧水のムンカは、沼で浮かんでいた少年ヒロムを助けます。どこからかやってきた少年を連れ戻すお話です。

  • 現代詩、ドタバタ小説

    詩らしくない詩 小説らしくない小説 流行らない小説

  • 「今昔物語集」より

    このマガジンには、今昔物語集をもとにして書いた物語を集めています。

最近の記事

『水辺のビッカと月の庭』  第6話(終)

背中合わせのトッシュ  キルカはここが出口だと言いいました。キルカの園からは出られましたが、どこへいく出口とは分かりません。一人残されたヒロムはただ待っていることだけができることです。待つこと、それも多田ひたすら待つことには慣れていません。耐えられない思いに押しつぶされそうです。  そこはキルカの園の光が途絶えた所でした。ヒロムは押しやられて、からだは暗闇の壁の中に塗り込められたようです。暗くてからだの水平が保てそうにありません。ヒロムは腰を下ろしました。次々と脳裏に浮かん

    • 『水辺のビッカと月の庭』  第5話

      ここにいないヒロム  「ムンカ、もう止そう。指が傷だらけになってしまうぞ」 ムンカは必死になって黒い地面を掘っています。見かねたビッカが止めました。土で汚れた指に血が滲んでいます。 「ヒロムが地に飲まれてしまったんだよ、ビッカ」  手を止めたムンカは薄情者とでも言いたげな表情でビッカを見ました。 「もちろん心配だよ。でも地面を掘ったところで見つかりはしないよ」 ムンカは自分が掘ったあとを見る。非力なムンカの力ではくぼみにもなってない。 「これからどうするの? ヒロムはどこか

      • 『水辺のビッカと月の庭』  第4話

        キルカの眠り  ヒロムは急いでドームに駆けよりました。気になると後先を考えないですぐ行動にうつしてしまうことがあります。背伸びして円形の窓から中をそっと覗きこみました。土のベッドの上には黄緑色したパジャマがきれいにたたまれています。背もたれの大きな椅子は向こう側を向いていて見えません。にぶい金色の光はそこから発していました。椅子は小刻みに揺れています。座っているものがいることがわかります。そのうちに椅子がクルリと回転しました。現れたそれの顔にヒロムの視線が注がれます。ムンカ

        • 『水辺のビッカと月の庭』  第3話

          月夜に帰る 「あいつ影も形もなくなっちゃたね」 びっくりした様子でムンカが言います。 「本当に居たのかな」 ビッカは不思議そうな面持ちで言います。 「あの整備員、いつもあんな調子なの?」 ムンカはつまらなさそうに歩きはじめたヒロムに尋ねます。 「ブランコを揺らしていると、あの男が姿を現すんだ」 ビッカとムンカはなるほどとうなずきます。 「いつの間にか、後ろとか前とかに姿を見せるんだ」 「それってなんか気味悪い」 ムンカは尾を震わせながら言います。 「初めは一言もしゃべらなか

        『水辺のビッカと月の庭』  第6話(終)

        マガジン

        • 水辺のビッカと月の庭
          6本
        • 現代詩、ドタバタ小説
          8本
        • 「今昔物語集」より
          9本

        記事

          『水辺のビッカと月の庭』  第2話

          帰ってきたヒロム  「ねえビッカ、起きてよ、着いたよ」 ムンカにからだを揺すられてビッカは目を覚ました。  ムンカの声がはしゃいでいます。ビッカはおかしなもの言いが気になります。だれもどこかに向かっていたわけではありません。屋根の上でお月様をみて眠っていただけです。それなのに「着いたよ」とは、納得がいきません。ビッカは頭をゆっくり回して落ち着こうとします。ムンカはもどかしくてせき立てるように言いました。 「大変だよ。おかしいんだ」 「そうだよね」 ビッカはムンカの様子を見な

          『水辺のビッカと月の庭』  第2話

          『水辺のビッカと月の庭』 第1話

          〔あらすじ〕 洪水後の親水公園に生き残ったカエルのビッカと流されてきたイモリのムンカはヒロムという少年を助けて送り返そうとします。ヒロムは揺らすことができればどこへでも行けるというブランコに挑んで失敗し落とされたというのです。親水公園にのぼる青白い月の明かりに照らされた三人は、命の不十分な幽けき世界にまぎれこみます。自分の世界に戻ったとおもったヒロムは、公園のブランコの管理者であるキルカに攫われてしまいます。ビッカとムンカは手がかりを求めて行き先をさがしますが、わかったこと

          『水辺のビッカと月の庭』 第1話

          写真と散文 「豊洲奇譚」 1回

          「何を撮っていますか」 若い男の声だった。背後からかけられた。 ふりむくといぶかしそうな表情で私を見ている。 青年の表情にはまだあどけなさが残っている。 豊洲のとあるオフィスビルの前のことだ。 私は少し返答に困ってしまう。 カメラのレンズはオフィスビルの壁にむけていた。 口で説明するよりは見てもらった方がと思い、私は指をさす。 豊洲のオフィスビルは、どのビルもガラスの壁面だ。 その壁面に、空があり、雲がうつろい、向かいのビルが映り、作業クレーンが鉄骨をはこぶ。 青年の瞳も虚

          写真と散文 「豊洲奇譚」 1回

          写真と詩 三回

          これも、雑木林の中にあった公園の木 その陰を撮った写真で想を得たものです。 「目撃してしまった。 木々が地面に影をつくり 触手をのばすように影をのばしていく その先に、逃げ去るように走っていく電車。 冬の陽射しなのに、この力強い陰は」

          写真と詩 三回

          写真と詩 第二回

          写真はモノ、視線、空間そして過去の時間も想起させてくれる。 遅ればせながら気がつくと、視覚でとらえていた世界がかわる。 雑木林の中に公園があった。木漏れ日で地面が明るい 土の匂いを嗅ぎたくてふらりと入る 見上げると冬の青い空に木々の枝が伸びやかだ 木々の枝ぶりにカメラを向ける 少しずつずらしてレンズごしに見る 逆光にかかったときに 太陽にかざした指のように見え 枝枝が毛細血管になった そうか、同じだ、ぼくと。 その日からぼくは木になる 急ぎ足では歩まない

          写真と詩 第二回

          写真と散文 一回

          この歳になって(ということはいい歳食ってる)写真が面白いと、大いに面白いと。 目にするものが、何かを気づかせてくれる。 発見があって楽しい。 「モノ」と「視線」と「空間」と。 勤めにでるのに、ぼくは自転車に乗る。 日ごろ置くのは、とあるビルの手前の駐輪場。 定めた位置にとめられた自転車が、仕事終わりのぼくを待つ。 とまどいはいきなり訪れる。 鏡がぼくの自転車と駐輪場を移動させていた。 呆然としてぼくはビルを見上げる。 ガラスの壁面に世界が丸ごとうつり変わっていく

          写真と散文 一回

          読書日記 サリンジャー (1)

          「ナインストリー」 文字通り九つの短編が収められています。野崎孝訳の新潮文庫で今も手に入ります。 最初の「バナナフィッシュにうってつけの日」は一九四八年一月の「ニューヨーカー誌」に、最後の「テディ」は一九五一年の一月の発表です。 二作品とも結末は主人公の「死」で終わります。 「バナナフィッシュにうってつけの日」は前半と後半に分かれます。 前半はフロリダに夫と旅行しているミュリエルとニューヨークにいる母が登場し、長距離電話でシーモアについて話をしている場面。後半は夫のシーモア

          読書日記 サリンジャー (1)

          読書日記 V. ナボコフ

          「フィアルタの春」 帝政ロシアの亡命貴族であったナボコフは蝶の収集家でもあった。言葉、その音感、思い出と彼の収集癖の対象とならないものは無い。「ナボコフの1ダース」「ロリータ」の二作品は手に入りやすいと思われる。  「フィアルタの春」は、語り手の「ぼく」が1930年代の保養地のフィアルタを訪れ「ニーナ」と最後の邂逅と思い出を語る。 「ぼく」は仕事の合間に息抜きの休暇をとってフィアルタを訪れる。 「フィアルタの春はどんよりと曇っている。」と文章は始まる。光・色彩、香り、音

          読書日記 V. ナボコフ

          読書日記 キプリング

          「ミセス・バサースト」 岩波文庫 橋本槇矩訳 キプリングは言わずと知れた「ジャングルブック」の作者だ。改めて読んだときには文体に驚いた覚えがある。暗譜している楽曲を演奏しているような文章だった。 彼はインドのボンベイで生まれ、イギリス本国の寄宿舎学校で教育を受けている。当時はスエズ運河はなかったので、インドとイギリスの行き来にはアフリカ大陸南端の希望峰を回る航路をとる。ケープタウンには彼の家が用意されていた。写真はケープタウンから南下した所に在るサイモン湾で、ここには海軍

          読書日記 キプリング

          読書日記 ジャック・ロンドン

          「生命の掟」 国書刊行会 井上謙治翻訳 貧しい生まれのジャックロンドンはまずジャーナリストとして世に出た小説家だ。活動的で多方面で仕事をしていた。今日本語で読めるのは「野生の叫び声」くらいだろうか。 「生命の掟」は、短編小説の典型を示している。時と場所と人物の三つは固定され、一幕の劇のような構成で書いている。 時は主人公が最期を迎える一点に集中している。過去の出来事は主人公の回想で記述される。 場所は、ユーコン川が出てくることから北米アラスカ方面になる。風景の描写はほとん

          読書日記 ジャック・ロンドン

          読書日記 ボルヘス

          「ロセンド・フアレスの物語」 アルゼンチンの無法者のひとりであるフアレス自身が酒場で会った作家の「わたし」に語りだす。告白の形式で、作家が記述する。  フアレスは、自分にまつわる話が色々と出回っているようだが、その中には誇張や尾鰭のついたものが多い。肉屋殺しの件は知られているが、あんたを知っているから自分から話しておこうと話し始めた。 生まれたのはマルドナード川の近く町だった。お針子をしていた母の名前はクレメンティーナ・フアレス。堅気の女だった。だが、父の名前は知らない。

          読書日記 ボルヘス

          ケッペンの気候区分 観天望気

          初めて大人の地図帳を手にしたのは16歳の春で 世界の海流と大気の流れの模式図を かた田舎の空の下で見ていた。 太陽に炙られている赤道地帯では 海流は自転と反対方向に流れていき、 ぼくの田舎では風と雲は西から吹き寄せてくる。 幼かったころ家には明治生まれの祖母が居て 西の空を見て観天望気 「来週は遠足があるよ」 ぼくが言うと くずれそうにないね、きっぱりと 暖かく湿った季節風の吹きよせる温帯地方で 通学路のトンネルの中ぼくは雨止みをまつ 西の空はいつも教えてくれる 畝の

          ケッペンの気候区分 観天望気