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第176回:知らない世界は「物語」が教えてくれる(村山早紀:『100年後も読み継がれる 児童文学の書き方』)

こんにちは、あみのです。
今回は、村山早紀さんの『100年後も読み継がれる 児童文学の書き方』という本を紹介します。

子ども向けの物語が書きたい人のための指南書にはなりますが、村山さんの幼少期の読書体験の話やどんな思いで作品を書いているのかもわかる内容なので、村山さんの作品が好きな人にもぜひ手にしてほしい1冊です。

感想

登場人物と一緒に冒険したり、時には物語を通じて世の中を知ったりと村山さんは小さい頃から本に親しみ、読書からいろんなことを学んできました。本が教えてくれた大切なことたちは、いつしか「児童文学作家になりたい」という夢に変わっていきます。

では、子どもたちに物語の楽しさを教えるにはどうしたらいいか?そのひとつとして村山さんは、見聞を深めることの重要性を述べていました。
今子どもたちに人気の作品をおさえることだけでなく、幅広いジャンルの作品に触れる、身近な人の話を聞くこともいい作品を書くには必要だと考えていました。

私がこの本で特に興味を持ったのが、『トロイメライ』という短編をどのような思いで書いたのかについて触れていた部分です。実際の作品を全文載せ、伏線がどこにあるのかとか登場人物のセリフに込めた物語のテーマを解説していました。

『トロイメライ』は人間とロボットが共に暮らす近未来を舞台に、「平和」の大切さを描いた物語となっています。
この作品は私も以前読んだことがあり、戦争が原因でこれまでは家族だったロボットとお別れすることになってしまうシーンにはとても悲しい気持ちになりました。この本では、印象的なシーンがどのようにして生まれたのかにも触れていました。

小さい頃から家族の戦時中の体験談を聞いていた村山さん。中でも動物好きの母から聞いた「供出」の話はとても印象に残っており、『トロイメライ』の別れのシーンは母の体験談がモチーフとなっているそうです。見聞を深めることの重要性は、ここでも活かされていました。

防寒着を作るのに必要な毛皮が欲しいという理由で、母が可愛がっていた犬が「戦争にとられて」しまう。そして村山さんの母にとって大事な友達が、理不尽な目的で殺されてしまう。かつての日本で起きていたこの事実には、私もとても胸が痛くなりました。

「戦争というものは、ひとがいちばん大切にしているものを取り上げてしまう」(P164より引用)、本当にそうだと思います。

今を生きている人々は、戦争を経験していない人がほとんどだと思います。村山さんの母のように戦争の体験談を話せる人も年々少なくなっています。だからこそ「物語」が戦争の残酷さ、平和の意味を伝えるものとして必要になるのではないでしょうか。

物語は読者が作品に触れて楽しい、優しい気持ちになるだけではない。人類が忘れてはならない歴史を読者に伝える役目もあることをこの本を読んで強く感じました。

戦争をテーマにした物語って、読むと悲しくなるためこれまで避けていたところがありましたが、今を生きているからにはそういった作品にも時には触れるべきだと思いました。戦争に関するニュースが日々流れる今だからこそ、物語を通して改めて戦争と平和について考えてみたいですね。

私はこの本を物語を書くための指南書というよりは、村山さんのエッセイのような感覚で読みました。今の自分に必要なこともいろいろと学べたと思います。これからも本を読むことはもちろん、幅広いことを経験して見聞を深めていきたいと思えた非常に濃い内容の1冊でした!

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