人とのつながりが「奇跡」を生む(村瀬健:『神様の絆創膏』)
2023年1冊目の読書感想文!今回の本は、村瀬健さんのライト文芸作品『神様の絆創膏』です。一昨年読んだ前作『西由比ヶ浜駅の神様』が凄く良かったので、新作も引き続き読んでみました。
個人的には、前作の2話目(親子の絆の物語。上記感想文でも触れています。)が特に心に残っていたので、このエピソードのあるシーンを深掘りしたような今作の内容には強く惹かれましたね。
前作同様、各エピソードで登場する人物の年齢は様々なので、幅広い世代の読者が共感し、感動できる物語ではないかと思います!
あらすじ
感想
今作は病院の近くにある神社が舞台の物語というのもあり、作中では病や傷を抱える人々が多く登場しました。
彼らの病や傷の中には、医療では解決できないものもある。解決できない病や傷を乗り越えるヒントは、日和神社での温かな「出会い」が教えてくれます。日和神社の宮司・松野さんの心温まる言葉の数々は、登場人物だけでなく私の心も安らかな気持ちにさせてくれました。
優しいエピソードの数々の中で私は、高校生の明人の物語が印象に残りました。毎日の高校生活が精神的にきつくなり、学校を休むようになってしまった明人は、偶然見つけた日和神社で松野さんと出会います。
明人は学校を休んでしまう自分に消極的な感情を抱いていたけど、松野さんは「学校を休む」ことを肯定しただけでなく、休んでいる間に何か興味のあることに挑戦してみたらどうかと提案しました。松野さんのアドバイスによって明人はもともと興味のあった音楽の世界に挑戦し、東堂さんという同じ趣味の仲間にも出会えました。
東堂さんもとても印象に残る人物で、彼の「心は、死んでからが勝負だよ」という言葉はまさに名言。切ない事情を抱えながらも、楽しく大好きなピアノを演奏する東堂さんの存在は、明人の死んだ心を救ったと思います。
中でも病で視力が奪われつつある東堂さんのために、ハーモニカだけでなくピアノも練習し始めたことは、明人の心をぐっと成長させた出来事でもあったと思います。その結果、高校にも再び通うようになり、明人も自分に自信が持てるようになりました。
「休む」っていい印象を持たれないこともあるかと思います。だけど、生きづらい毎日に疲れた時は、好きなことに向き合って楽しいと思える時間を増やしていくことも大切だと明人のエピソードから学びました。私もお休みの日には好きなこと・興味のあることに積極的にチャレンジする機会を増やし、明人のように変わりたいと思いました。
また、『西由比ヶ浜駅〜』の中で「生きる答えを教えてくれるのは、いつだって人間だ。」という印象的な言葉がありましたが、今作はその言葉を更に深く描いたような内容だと思いました。
作中で日和神社を訪れた人々は、その後それぞれが抱えている病や傷を少しずつ乗り越えていきました。最悪人生に影響してしまうかもしれない病や傷を乗り越えられたことは、「奇跡」と呼べると思う。でもその「奇跡」を起こせたのは、松野さんをはじめ、身近な人との出会いや言葉があったからこそなのかなと感じられたエピソードが多数ありました。
例えば明人が心の傷から立ち直れたのは、松野さんや東堂さんとの出会いがあったからではないでしょうか。もちろんこの2人以外にも、明人の奇跡に関わっている人は多数いると思います。
他のエピソードでも元カレや家族、小学生時代の恩師の存在が奇跡を生み出していく様子が作中では描かれていました。また3話目で大怪我を機に、新たな女優としての生き方を選択したちはるの物語が、別のエピソードで俳優志望の男性の未来を救っていた瞬間には心が熱くなりました。
遠く離れた存在だと思っていても心はつながっている。こうして見てみると、世の中って広いようで案外狭いものなのかなとも感じられた今作でした。
生きづらさで溢れる日々を生き抜くためのヒントをこの物語は教えてくれます。読了後は今ある人間関係が愛おしく感じ、これからの出会いを大切にしていきたい気持ちでいっぱいになる良作でした!
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