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第39回:「切ない」だけでなく、思わず過去を重ねてしまった青春小説

おはようございます!あみのです。今回の本は、国仲シンジさんのライト文芸作品『僕といた夏を、君が忘れないように。』(メディアワークス文庫)です。今作も今年の電撃小説大賞受賞作のひとつになります。メディアワークス文庫の方の受賞作は今年初ですね。

とても純粋な感情であふれた物語で、ちょっと現実に疲れているときに読むと、気持ちがリフレッシュできる1冊だと思います!

あと完全に余談ですが、作者のプロフィールがかなり独特で、国仲シンジさんがどのような人物なのかかなり気になりましたね。

あらすじ(カバーより)

あの夏、奇跡が起こる蒼い島で君と。
 僕の世界はニセモノだった。あの夏、どこまでも蒼い島で、君を描くまでは――。
 美大受験をひかえ、沖縄の志嘉良島へと旅に出た僕。どこか感情が抜け落ちた絵しか描けない、そんな自分の殻を破るための創作旅行だった。
「私、伊是名風乃! 君は?」
 月夜を見上げて歌う君と出会い、どうしようもなく好きだと気付いたとき、僕は風乃を待つ悲しい運命を知った。
 どうか僕といた夏を君が忘れないように、君がくれたはじめての夏を、このキャンバスに描こう。

感想

夏が来たらもっと読みたくなる、とても爽やかかつ切ない青春のお話でした。沖縄が舞台の青春小説も個人的には初めてだったような気がします。自然豊かな島の風景や独自の文化も刺激的で、沖縄に関心が持てる作品でもありました。

主人公の海斗は、自分のことを「普通よりは絵が上手い」人間であることを自覚しており、幼い頃からたくさんの賞を取ってきました。私も絵を描くことが好きなので(海斗ほどガチではないけど)、自分の才能に自信が持てる彼がうらやましく見えました。

だけど、海斗は過去のトラウマが原因で「他人に自分が描いた絵を見せること」を避けていました。その背景にあったものが、海斗と同じく絵を描くことが好きな人々による「羨望」の感情でした。

海斗のトラウマの理由を知ったとき、自分の中学時代の記憶が蘇ってきました。なぜかというと、私には他人の絵の才能が理由で、当時所属していた美術部を辞めてしまった経験があるからです。

プロ並みに絵が上手な同級生の才能を見たとき、「これは本当に私と同い年が描いた物なのか」と衝撃と悔しい気持ちがただただ止まらなくなりました。(あの同級生の女の子は、今でも絵を描いているのだろうか?)

なので海斗の才能をうらやみ、絵画教室を辞めてしまった同年代の人たちの気持ちは凄くわかりました。

もちろん、青春小説としての魅力もたっぷりと詰まっていました。海斗は島で風乃という同年代の少女に出会います。

都会に憧れる仲間が多い中、風乃は自然豊かな島のことを誰よりも愛する純粋な性格でした。彼女の純粋で明るい性格は、私もすっかりファンになりました。

島での生活によって都会人である海斗との絆を深めていく風乃ですが、彼女には命にかかわるある宿命が待ち受けていました。海斗が風乃をイメージして描いた「人魚」の絵が、物語に更なる波乱を起こします。

「好きなこと」との向き合い方を変えてくれた彼女を島のルールから救い出すために命を懸ける海斗の奮闘には、読んでいてとてもハラハラしました。かなりの覚悟のいることではありましたが、海斗の活躍は島に大きな革命を起こしたのではないかと思います。

世間の期待のためでなく、大切にしたいひとりのために作品を作りたいという感情が心に刺さる良作でした。

今年も電撃大賞で、素敵な青春の物語と出会うことができました。ほかにもいろいろと青春系の受賞作がメディアワークス文庫で出るそうなので、今後発売される作品たちもとても楽しみですね。

*今作の特設サイト

*そのほかのおすすめ受賞作の感想文たち


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