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第142回:数々の出会いと別れはこれからに必要な「選択肢」なのかも(樋口修吉:ジェームス山の李蘭)

こんにちは、あみのです!(前回の読書感想文からちょっと時間があいてしまいました…)
今回の本は、樋口修吉著『ジェームス山の李蘭』(徳間文庫:トクマの特選!)です。

せかいいちだれよりきみをあいしてた。

ロマンティックなキャッチコピーとエモさのある帯に惹かれて、本屋で見るたびにずっと気になっていました。冒頭から意外なストーリーではありましたが、最近の恋愛小説とは違った魅力を放っていた作品でした。

また作中ではたくさんの「出会い」と「別れ」が描かれていました。このあたりは今の時期の雰囲気と特に合った箇所かと思います。新しい人に出会うこと、大切な人と別れることに抵抗がある人にもおすすめの1冊です。

あらすじ

異人館が立ち並ぶ神戸ジェームス山に、一人暮らす謎の中国人美女・李蘭。左腕を失った彼女の過去を知るものは誰もいない。横浜から流れ着いた訳あり青年・八坂葉介の想いが、次第に氷の心を溶かしていく。戦後次々に封切られた映画への熱い愛着で繋がれた二人は、李蘭の館で静かに愛を育む。が、悲運はなおも彼女を離さなかった‥‥‥。読む人全ての魂を鷲掴みにする一途な愛の軌跡。

カバーより

感想

今作は「葉介」という男性が過ごしてきた時間を通じて、李蘭をはじめとする様々な年齢・国の人との出会いと別れを追体験できる物語でした。

「李蘭」の名前がタイトルでも印象的な今作ですが、葉介が彼女と出会うのはわりと物語の終盤の方で、それまでは横浜を舞台に彼が過ごした長いようで短い時間が描かれます。

男同士で馬鹿馬鹿しいことをした思い出、生きるために女性たちの「欲望」と向き合ったこと。長く続いた関係もあれば、一瞬で終わった関係もありましたが、葉介が経験した出会いや別れのひとつひとつがこれからに役立つ「選択肢」になっていたと思います。

中でもいろんな女性の欲望を目にしたことで増やした選択肢は、李蘭という運命の人にたどり着くために欠かせなかったものではないのでしょうか。
女性の「闇」の部分も見てきたことによって、葉介は後に数々の選択肢の中から李蘭という「運命の人」を選び抜くことができたのだと思います。

葉介には横浜にいた頃にも気になっていた女性や、いい感じの関係になった女性が何人かいましたが、李蘭と共に過ごした時間からはこれまでに出会った女性たちとは違って、本物の「愛」を感じることができました。

また葉介と李蘭が出会ったタイミングや2人の年齢差を見てみると、「運命の人」にいつ出会うかとか、相手の年齢は一切関係ないということも実感した物語でもありました。

「ねえ、葉ちゃん。ハンガリアの諺に、『ピクニックは、ゆっくり景色をみないうちに終わってしまう』というのがあるのよ。つまり、人生なんて、あっという間に終わってしまうってことだけど、私、あなたといると、これから、まだまだ新しいピクニックに出かけられそうって感じよ」

p297

上記の李蘭の言葉からも、人生が終わるまで楽しみや希望はいくらでも見つけられることを感じられます。

とはいえ、葉介と李蘭の関係はとても悲しい結末で幕を閉じます。李蘭が火事に巻き込まれて亡くなった際、新聞記事にて彼女のことを「老女」と書いていたのを見た葉介の気持ちが私は凄く心に残っています。

「なにが、老女なもんか」

p304

他から見れば年齢的に李蘭は「老女」にはなりますが、葉介にとって彼女は永遠に愛した「ひとりの女性」。この一言に込められた怒りからも李蘭に対する「愛してる」の気持ちが感じられました。

***

今の私には一緒にいると楽しい仲間がいて、彼らと別れる時のことを想像すると切ない気持ちでいっぱいになってしまうことがあります。
いつか別れる時が訪れたら寂しくはなりますが、仲間と出会えたことが今後の人付き合いで役立つ「選択肢」のひとつだと考えてみたら、少しだけ前向きな気持ちになりました。

現代からすればやや気になる表現はあったものの、個人的には「出会い」や「別れ」に対するひとつの考えを学ぶことができたので、読んでみて良かったです。読むと素敵な人に出会いたくなる物語でした。

これまでに読んだ「トクマの特選!」シリーズから出ているミステリー作品も面白い作品ばかりでしたが、恋愛小説にカテゴライズされる今作も非常に心に残る良作だったので、恋愛系の傑作もこのレーベルからいろいろ出てほしいですね!

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