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第34回:ダークな青春も時にはいいかも

おはようございます!あみのです。個人的に好きな青春小説に出会えたので、紹介します。

今回の本は、瀬尾順さんのライト文芸作品『死に至る恋は嘘から始まる』(新潮文庫nex)です。タイトルの響きと表紙のヒロインの姿にひとめぼれし、手にしました。

この物語を簡単にいうと「切ないを超越した恋物語」だと思います。今作には2人の「命がけの恋愛」を経験する高校生が登場します。

そもそも恋愛に「命がけ」という言葉がなぜ結びつくのか?この意味深な言葉に疑問を持たれたら、ぜひ今作を手にして感情の答えを味わって頂きたいです。

あらすじ(カバーからの引用)

人を好きになるって、命がけなんだよ――。
高二の夏、教室で息を潜める宮下永遠の前に、目立ちすぎる転校生が現れた。長瀬刹那——人形のような整った容姿に高慢な態度、色めき立つクラスメイトを無視して、永遠に歩み寄り、首筋に噛みつき、囁いた。「君はすごくおいしそうな匂いがする」自称・人魚で傍若無人な刹那と、心を閉ざし続ける永遠。正反対の嘘で武装した二人が運命的に出会い、命がけの恋の物語がはじまる――。

感想

主人公の永遠は、亡くなった初恋相手のことを忘れられないまま、クラゲのように無気力な毎日を過ごしています。そしてまわりの人間関係にも打ち解けず、近いうちに死ぬことを考えていました。

そんなとき永遠は、刹那という不思議な雰囲気を放つ少女に出会います。赤茶色の髪、オッドアイといった強烈なビジュアル、そして自称「人魚」の彼女のことをまわりは「中二病」と揶揄します。

なぜか刹那に気に入られてしまった永遠は、彼女の不気味な言動に不信感を抱きます。しかし永遠の死への執着を知った刹那に彼は、彼女の欲望に沿ったひとつの提案をします。

「一週間だけ僕の彼女になってほしい」
「その後、僕を食い殺してくれ」

それは、刹那に偽りの恋人を演じてもらうことでした。

過去の恋が忘れられないと同時に、「人魚」を名乗る刹那の嘘に関心を持つ永遠と、永遠の生きづらさの正体が知りたい刹那。嘘や過去に振り回されて生きる人々のミステリアスな物語に私の心はぐっとつかまれました。

永遠の生きづらさの正体を探っていくうちに、彼が生きる気力を失った原因でもある美帆(永遠の初恋の人)の死にまつわる謎が明るみとなります。

永遠や陽キャの同級生と楽しい青春を過ごしていたはずの美帆はなぜ死に至ってしまったのか?刹那が知らない永遠の姿や、美帆の身に起きた胸が痛む出来事からは、現実の課題について考えさせられた部分もありました。

「人を好きになるって、命がけなんだよ」という印象的な言葉は刹那が放ったものではありますが、この言葉は永遠が自分を犠牲にしてでも美帆を守ろうとした過去にもつながっていたと思います。

また、今作を読んでいて特につらくなったのが、永遠の家庭環境の話です。ところどころで永遠の家での居心地の悪さは伝わっていましたが、彼の家族の異常な愛が描かれたシーンで私は戦慄しました…。

異常な愛で好きな人を苦しめる永遠の家族に対して、本物の「愛」を向ける刹那の凄まじい感情がとても印象に残っています。このシーンを読んでいたとき、刃物で心臓を攻められているような痛みを感じました。他人の人生を狂わせる感情の与え方は、もはや「愛」とは呼ばないような気がします。

あと今作を読み終えたとき、刹那は永遠のことを手放す選択で本当に良かったのか?また、彼女に取り残された永遠の命はどうなってしまったのか?登場人物たちの選択に対して、もやもやとした感情がどんどん溜まっていきました。

恋物語にハッピーエンドを求めている人には向かない物語かもしれません。だけど、個人的には読み手をもやもやさせて終わる恋物語もたまにはありだと思うし、今作にはこのエンディングがもっともふさわしかったのではないでしょうか。

とにかく、こんなにも痛々しいとかもやもやすると感じた青春小説は久しぶりに読みました。読んでいてつらくなってしまうシーンや言葉も少なくはないですが、私はきっとこの物語を再び手にすると思います。

時間をおいて再読したら、今回は気がつかなかった永遠と刹那の感情をつかむことができそうですし、ラストに関しても感じ方が変わるかもしれません。いつかはわからないけど、再読する時が楽しみです。

たくさんの「噓」であふれていた恋の物語。物語だけでなく、作中の表現やキャラクターも魅力的な作品で、この物語に出会うことができて良かったです。

ちなみに刹那のことが苦手にも関わらず、「親友の彼女だから」という理由で刹那を助けてくれた水野は凄くいい人だったと思います。あと作中にて永遠と小川姉妹が訪れた名古屋港水族館、現状が落ち着いてきたら小学生ぶりに行きたいですね。

今回の感想も読んで頂きありがとうございます。機会があれば同じ作家さんの別作品も読んでみたいです。

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