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第131回:生きづらさから「逃げる」選択(松村涼哉:犯人は僕だけが知っている)

こんにちは、あみのです。
今回の本は、松村涼哉さんのライト文芸作品『犯人は僕だけが知っている』(メディアワークス文庫)です。ここ数年気になっている作家さんのひとりである松村涼哉さんの新刊です!

松村さんの作品では、社会の現状・課題がよく描かれています。今作も世の中の「冷たさ」を感じる内容となっていました。

でも今回の本は、読む人によっては「救い」になる物語かもしれません。作中で描かれる壮絶な事件から、生きづらい世の中をちょっとでも生きやすくするヒントを教えてくれる作品でもあると思います。

あらすじ

謎の連続失踪が殺人を呼ぶ。僕らは誰に殺される?
 過疎化する町にある高校の教室で、一人の生徒が消えた。最初は家出かと思われたが、失踪者は次々に増え、学校は騒然とする。だけど、僕だけは知っている。姿を消した三人が生きていることを。
 それぞれの事情から逃げてきた三人は、僕の部屋でつかの間の休息を得て日常に戻るはずだった。だが、四人目・・・の失踪者が死体で発見され、事態は急変する――僕らは誰かに狙われているのか?壊れかけた世界で始まる犯人探し。大きなうねりが、後戻りできない僕らをのみこんでゆく。

カバーより

感想

今作は町に住む高校生が次々と行方不明になるという不穏なシーンから始まります。

「行方不明になった」とされていた生徒たちは、それぞれ家族のことや自分自身のことで悩みを抱えていて、堀口という男子生徒のもとでゲーム制作の手伝いをしていました。
彼らにとって堀口と一緒にいることは、日々の辛さから解放される唯一の居場所でもありました。

今作は「生きづらさ」をゲームにおける「戦闘」にたとえていたところがとても印象的でした。

 好奇の視線に晒される、針のむしろのような生活に立ち向かう気もない。『戦う』だけが人生じゃない。
 狭い空間で犯人をめぐって争うより、もっと別の生き方がある。私の人生を苦しめる犯人が誰かなんて定めなくても、『逃げる』というコマンドが常にある。そこで己と向き合い続ければその日々は無駄にはならない。未来へ繋がる。

p280

人生では「戦う」の選択肢を選ぶ場面が多いと思います。でも無理に戦ってしまって、自分の体力を0になることが予想できる戦闘であれば「逃げる」の選択肢を選んだっていい。

行方不明になった生徒たちは、悩みでこれ以上苦しまないために「逃げる」選択肢を有効に使うことができていたと思います。

私も先日、無理に「戦う」の選択肢を選びすぎてしまい、自分を苦しめてしまったことがありました。苦しい気持ちの時に偶然この本を読み、とても心が救われました。

逃げることで他人には迷惑をかけてしまうかもしれないけど、1番大事なのは自分自身。これからは「逃げる」選択肢もあることを忘れないように自分のことを大切にしていきたいと思いました。

また今作はこれまでの松村さんの作品以上に胸がひりひりする物語だと個人的には感じました。その理由としては介護やSNSでのトラブルといった私たちのすぐそばに潜む課題も多く描かれていたからだと思います。

社会の現状から紐解かれていく殺人事件の真相。犯人が古林を殺してしまったのにはとても悲しい理由が隠されていましたが、一方で「これはいつか私の身に起きることかもしれない」とゾクッとした一面もこの事件にはありました。

ただ単に「ミステリー」として読めるだけではなく、物語を通して社会の現状・課題を学べるのがこの作家さんの最大の魅力だと思います。
特に虐待のことや介護を取り巻く現状は知らない話も多かったので、世の中を知る「きっかけ」が今作を読んで更に増えました。

今作では複数の世の中の課題が描かれていたので、これまでの松村さんの作品以上に読むのが辛いシーンもありました。

だけど「逃げる」ことの大切さを描いていた箇所からは、生きづらい世の中を生きやすくするヒントを得ることができ、読後は心が軽くなりました。
作品に込められたメッセージが多くの人の心に届いてほしい!と思えた1冊でした。

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★前作(監獄に生きる君たちへ)もnoteに感想を上げています。


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