どんな趣味でも、強力な「個性」になる(似鳥鶏:『夏休みの空欄探し』)
今回紹介する本は、似鳥鶏さんの『夏休みの空欄探し』という作品です。
今作では、謎解きに熱中する高校生たちの夏休みが描かれます。
似鳥さんの作品で恋愛を描いた作品はこれまでにもいくつかありましたが、今作はその中でも特に恋愛色が強めな内容かと思います。
「こんな青春を過ごしたかった!」がいっぱい詰まった最高のミステリー作品です!
ストーリー
感想
主人公・頼伸には、「役に立たない知識」を集めるという趣味があります。頼伸にとって幅広いジャンルの知識を収集することは娯楽ではありますが、その一方で趣味を理解してくれる人が少ないことで消極的になっていたところもありました。
私も学生時代に読書やアートに関心があったものの、同年代でそれらの話ができる人は少なかったので、頼伸が自分の趣味に対して「役に立たない」と悩んでいた気持ちは非常によくわかりました。
同級生の清春と自分を比べてしまうことも多い頼伸ですが、七輝と雨音という姉妹と知り合い、意気投合したことで彼の運命は大きく変わっていきます。七輝たちの暗号解読に協力していく中で恋をしたり、自分に自信を持ち始めたりする頼伸の姿は、まさに「青春」そのものでした。
頼伸は自分の持っている知識が「役に立たない」と思い込んでいたけど、暗号解読では大いに役立っていたし、七輝と仲良くなれたのも趣味の存在が大きかったのかな~とも思いました。どんな趣味でも役に立たないことはないことを感じさせられます。
一方で、頼伸とは対照的に描かれていた清春も印象深いキャラクターでした。清春は「人に合わせるための努力」が好きな人間で、いろいろな人と関わるために流行に詳しかったり英会話を身につけていたりしていた一面がありました。
清春がどんな人物か詳しく知る前は私も頼伸と同様に、「流行とか一時期のものなのに、どうして詳しくなる必要があるのか」とちょっと疑問に思う点がありました。
でも人に合わせるための話題やスキルを身につけることが清春にとっての「趣味」であり、それはきっと頼伸が幅広いジャンルの知識を収集しているのとそんなに変わらないのだろうなと思いました。
自分の興味をただただ追求する頼伸の姿も、人と関わるために自分を磨く清春の姿も、普段の立場はおいといてそれぞれの「個性」として描かれていたところがこの小説の素敵なところだと感心しました。
今作はミステリーであり、王道な「恋愛小説」でもありました。
七輝がなぜ暗号解読に必死になっていたのか。その理由を知ると、これまで頼伸たちが辿ってきた夏休みの違和感に気付くことができました。
作品のオチとなる箇所なので詳細は伏せますが、青春小説ではよくありがちな設定でも、ミステリーとして描いているとまた感じ方が変わるなと思いました。
今作は、学校で輝くだけが「青春」ではないことを教えてくれました。学生時代にこの作品が出ていて読んでいれば、自分の中の何かも少しは変わったのかな…と思った1冊でした。
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