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高校時代の楽しみが蘇る青春ミステリー!(皆藤黒助:『環司先生の謎とき辞典』)

懐かしい気持ちになれた小説を読んだので紹介します!
今回紹介するのは、皆藤黒助さんの環司かんじ先生の謎とき辞典』(ポプラ文庫ピュアフル)というライト文芸作品です。

高校生の頃、この作家さんの『ようするに、怪異ではない。』(以下:「よう怪」シリーズ)というシリーズが大好きで、何度も繰り返し読んでいました。結局3巻までしか出ませんでしたが、当時はシリーズの新刊が出るのをいつも楽しみにしていました。

このシリーズはいわゆる「日常の謎」のジャンルにカテゴライズされる青春ミステリーで、妖怪はいるかいないかを謎解きで解明するといったストーリーでした。謎解きだけでなく、登場人物同士のコミカルなやりとりも楽しかった思い出のシリーズです。

「よう怪」シリーズの新刊が出なくなった後はしばらく読んでいなかった皆藤さんの作品ですが、ポプラ社から久々に日常の謎系の新刊が出るとのことだったのでこれはぜひ読みたい!と思い、発売して早速手にしてみました。

今作の感想

今作は「漢字」の知識で日常の謎を解決するという非常にユニークな設定でした。スマホやパソコンが普及し、字を書く機会が少なくなった今の世の中だからこそ、漢字に込められた先人の思いがより美しく感じる物語となっていました。小中学生の時に読んだら国語がもっと好きになりそうです。

主人公の千華は、小学生の頃に文通相手から突如手紙が届かなくなった経験によって、言葉が持つ力を信じなくなりました。

しかし、国語の授業での発表をきっかけにたまき先生(フルネームが「たまきつかさで、漢字好きだから「カンジ先生」と千華に呼ばれる)と頻繁に関わるようになり、「漢字オタク」である彼の知識を活かして、千華は先生と様々な日常の謎と向き合うことになります。
そしてカンジ先生との物語は、千華の文通相手との過去にも次第に繋がっていきます。

作中で出てくる謎は生徒の人間関係の悩みだったり、千華のトラウマの真相だったりと、どこか懐かしい匂いが漂うエピソードが多く、中高生の頃の純粋な気持ちに戻ったかのようでした。

今作でも印象的だったのは、やはり千華の文通のエピソードだと思います。小学生時代の千華にとって親友のような存在だった「あっくん」との文通が途切れてしまったのはとてもダメージの大きい出来事でしたが、物語の佳境にてあの時の真実が明かされていきます。

時を越えて千華に届いたあっくんからの手紙。意外な場所で見つかった手紙に書かれていた謝罪と感謝の言葉には千華が求めていた気持ちが込められていて、読んでいた私もとても嬉しくなりました。
小学生時代の千華はあっくんにたくさんの勇気をもらったけど、それは彼も同じ気持ちだったんですね。

手紙って時間をかけて書いて、じっくり届けるからこそ、本当の思いが相手にしっかりと伝わり、温かな気持ちにもなるのかなと思いました。

他にも千華と瑠璃子という同級生が、言葉の持つ力で絆を深めていく過程も心に刺さりました。小学生の頃からお互い憧れ同士だった2人が困難を乗り越え、時間をかけて「友達」になるまでの物語は最高にエモかったです。遠回りした分、千華と瑠璃子は素敵な友情が続いていくと予感しました。

本当に仲良くなりたい相手なら、苗字ではなく名前で呼ぶことって友達作りでとても大切なことなのだと思います。(学生なら尚更かも)やっぱり気になっていた相手に名前を覚えてもらえると嬉しくなりますね。

千華とカンジ先生は生徒と先生というより、年の離れた友達みたいな関係のように見えました。日常の謎や文通の件を通して2人の絆はより深まったと思います。大好きな先生や友達と過ごす千華のこれからの日常を想像すると、とてもわくわくした気持ちになりました。

今作は最近の流行りとはかけ離れた作品かもしれないけど、読む人によっては新鮮さや懐かしい気持ちに出会える1冊ではないかと思います。
魅力的な日常の謎とカンジ先生のユニークなキャラクターを楽しみながら、あの頃の純粋な読書体験を思い出してみませんか?

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