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第83回:読む芸術作品。その名は『檸檬先生』

こんにちは、あみのです。最近図書館で借りて読んだ本で、雰囲気がとても好きな小説があったので紹介します。

今回の本は、珠川こおりさんの『檸檬先生』という作品です。タイトルを見たときから不思議と惹かれるものがあり、凄く読んでみたい!と思っていました。

今作は「共感覚」が大きなカギとなる「成長」の物語です。作中にはたくさんの色や音が登場し、読んでいるとひとつのアートを楽しんでいるような感覚が味わえます。また年上の人に対する「憧れ」や「尊敬」という感情の描き方にも注目してほしい作品です!

あらすじ(Amazonより)

私立小中一貫校に通う小学三年生の私は、音や数字に色が見えたりする「共感覚」を持ち、クラスメイトから蔑まれていた。ある日、唯一心安らげる場所である音楽室で中学三年生の少女と出会う。檸檬色に映る彼女もまた孤独な共感覚者であった。

感想

全体的に様々な「色」で満ちていた物語で、この物語を簡単に言うのであれば「読む芸術作品」だと思いました。「共感覚」を持ち、生きづらさを抱える「私」と「檸檬先生」の色彩豊かに描かれた交流が刺激的な1冊でした。

檸檬先生と一緒の時間、夏の海、雨の日のワンシーンetc…何気なく見える日常風景のひとつひとつに様々な「色」の名前が出てきて、主人公や檸檬先生が普段どのように世界を見ているのか、読み手にも彼らの世界がとても伝わりやすい描き方をしていると感じました。

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「私」はこれまで目に見える色に頼って生活していたところがあり、彼の少し変わった世界の見方が生きづらさの理由にもなっていました。そんなときに檸檬先生と出会い、「私」は正しい共感覚との付き合い方を学んでいきます。彼女が教えてくれたことは「私」にとっての生きやすさを手に入れる大切な手掛かりとなりました。

中でも私が印象に残ったのが、文化祭にて「私」が檸檬先生と一緒に制作した作品のプレゼンテーションをするシーンです。「共感覚」をテーマに制作した作品について自らの境遇も踏まえて一生懸命に説明をする主人公の姿からは、今作最大の成長を感じました。

このプレゼンテーションによって彼は完全にクラスでの居場所を取り戻すことに成功できたと思うし、クラスメイトたちとしてもこれまでは避けていた「私」のことを知り、仲良くなるきっかけになって良かったです。

檸檬先生との出会いは主人公にとって良い結果を残しますが、やがては彼女との別れのときがやってきます。彼女との別れのシーンは途轍もなく衝撃的なものではありましたが、あのとき檸檬先生が教えてくれたことと彼女が纏っていた「檸檬色」は、少しだけ大人になった主人公の心に充分に刻まれているのではないでしょうか。

小学生から見ると中学生だって充分「大人」に見えると思う。そんな感覚から生まれた主人公の「成長」と檸檬先生に対する「尊敬」の物語。ただ主人公が良い方向の成長をするだけでなく、ちょっと複雑な気持ちになってしまうような展開で締めるというのもまた今作の魅力なのでは思いました。

作者の珠川さんは私よりも年下の作家さんとのことなので、これから作品を通してどのような世界を読者に見せてくれるのかより楽しみになりました。

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