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第67回:雨音をBGMに大好きな作家さんの新作の感想を書きます

こんにちは、あみのです。今回は私が高校生の頃から大好きな作家さんの新刊の感想です!

今回の本は、太田紫織さんのライト文芸作品『涙雨の季節に蒐集家は、』(角川文庫)。久々に太田さん「らしさ」を感じるあらすじに惹かれ、発売前から楽しみにしていました。

『櫻子さんの足元には死体が埋まっている』シリーズの良さを引き継ぎつつ、危うさと奇妙さを感じるこれまでの作品では見たことのないキャラクターも楽しめる、作者の新たな「面白さ」を発見できた1冊。雨が多い今の時期に特におすすめなミステリー×成長の物語です。

あらすじ(カバーより)

雨宮青音は、大学を休学し、故郷の札幌で自分探し中。そんなとき、旭川に住む伯父の訃報が届く。そこは幼い頃、悪魔のような美貌の人物の殺人らしき現場を見たトラウマの街だった。葬送の際、遺品整理士だという望春と出会い、青音は驚く。それはまさに記憶の中の人物だった。翌日の晩、伯父の家で侵入者に襲われた青音は、その人に救われ、奇妙な提案を持ちかけられて‥‥‥。遺品整理士見習いと涙コレクターが贈る、新感覚謎解き物語!

感想

『櫻子さん』シリーズとはまた違った視点から人間の「生死」を描いた作品。今作は「遺品整理」がテーマとなっていて、遺品整理に関する基礎知識やあるあるネタがとても興味深かったです。

今作には村雨姉弟という物語にミステリアスな雰囲気を醸し出す人物が登場します。青音(あおと)を遺品整理の世界へと導く遺品整理士の望春(みはる)さんは青音の「憧れ」の対象として、読んでいてドキドキするようなキャラクターでした。

また今作で最も謎が多いキャラクターだったのが、望春さんの双子の弟である紫苑さんです。青音が流す「涙」に強い関心を抱き、時々「優しさ」なのか「悪」なのかわからない一面も見せる彼は、かなり観察しがいのあるキャラクターだと思いました。

「姉さんは可愛いし、僕は美しい」という紫苑さんの言葉は、この姉弟の印象における「光」と「闇」を指しているように私は感じました。「光」が望春さんの「優しさ」とか「憧れ」であれば、「闇」が紫苑さんの「奇妙さ」になると思います。

様々な動物の「骨」を収集することが趣味の櫻子さんも、初めて太田さんの作品に触れた時にはかなり衝撃を受けたキャラクターだったことを今でもよく覚えています。

櫻子さんに関しては、シリーズを読めば読むほど彼女の優しい人柄を感じられたのですが、今作の村雨姉弟(特に紫苑さん)に関しては、読めば読むほど謎さが増していき、櫻子さんとは真逆の印象を放ったキャラクターだと思いました。

また、遺品整理から見えてくる故人の思いを紐解くといったストーリーもキャラクター同様、今作の大きな魅力でした。

物語の序盤にて青音は、亡き伯父の遺品整理を望春さんとすることになります。ゴミ屋敷と化した伯父の自宅を片付けていく中で見えてきたのは、悲しくて酷すぎる伯父の死の真実でした。

もしかしたら「ある出来事」がなければ、伯父は今でも生きていたのかもしれない。僅かな人生の分かれ道によって、死へ進んでしまった伯父のことを思うと、私も青音と同じく「悔しい」という気持ちしかなかったです。

「ゴミ屋敷」と聞くと私たちはネガティブな反応をすると思います。作中でも伯父の死を巡る事件が公にされたとき、ゴミ屋敷で暮らしていた伯父に対して厳しい意見が殺到しました。

事件の真相を知っているからこそ、読み手は世間の声がただただ聞いてて辛いと思えるのですが、もしこれが現実での出来事だとして真相なんて全く知らないとしたら、きっと同じような意見を私も向けてしまうと思います。「真実」というものは、残念ながらなかなか人々には届かないのが現実なのかなと思いました。

伯父の事件の他にも、身近な人の死を経験した人がたくさん登場します。大好きな人を失ったときの悲しみはとてつもなく大きなものですが、望春さんたちの遺品整理によって遺品に隠された思いを紐解き、人々が少しずつ前を向いて生きていこうとする様子には希望が感じられました。

「死」という要素を「悲しい」だけでなく、ひとつの「生命」が動いていた「記録」のように描かれていたところは、『櫻子さん』シリーズとも通じるものがありました。

***

太田さんが描く新たな「生と死」の物語。「カドブン」に掲載されていたインタビュー記事も今後の展開が気になる内容でした。記事によると『櫻子さん』シリーズともリンクした謎とかも書いてみたいそうで、よりシリーズに期待が高まります。

人の死を描いた作品というと重くなりがちなイメージがありますが、太田さんの作品では舞台である北海道に関する小ネタもよく挟んでいて、今作でも炸裂していました。重いテーマに時折ローカルネタが混じることで、物語に明るさを演出しているところが太田さんならではの個性だと思います。

ちょっと既刊と比較したような感想文にはなってしまいましたが、太田さんの作品をまだ読んだことがない人でも全然問題なく楽しめます。表紙の男に惹かれたとか些細な理由でもいいので、ぜひ読んでみてください笑。(著者関係なく、表紙の紫苑さんのビジュアルには凄く惹かれました)

最後に、今回も私の読書感想文を読んで頂きありがとうございます(*^^*)
好きな作家さんの作品を皆さんに共有できたことが嬉しいです。

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