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美しくない世界と戦う力をくれる物語(冬野岬:毒をもって僕らは)

冬野岬さんの『毒をもって僕らは』という作品を読みました。

生きづらさと戦う青春小説が私は大好きなので、ポプラ社のサイトで表紙とあらすじを見て発売前から凄く読みたかった1冊です。

★★★

今作は入学早々に学校での居場所をなくし、更には尿路結石と診断されお先真っ暗となってしまった主人公・道歩が、病院で知り合った綿野という少女との交流を通じて、生きる希望と世界の美しさを見出していく物語となっていました。

道歩も綿野も本や映像の世界で描かれるようなキラキラした青春に憧れているところがありました。私も理想と現実のギャップに苦しんだり、活躍している同年代の人と比べてしまったりすることがよくあるので、2人の気持ちには非常に共感しながら今作を読んでいました。

今作を読んでいると中学時代の黒歴史に今でも悩まされている道歩や、難病によって理想の高校生活を送れないことを悔やむ綿野の姿に注目しがちになりますが、一方で作中でいわゆる「陽キャ」ポジションとして登場する矢野や斎藤にも家族とのいざこざといった心の傷があることが徐々に明かされていきます。

矢野や斎藤が抱えていた苦悩を知ると、誰にでも人前では見せない悩みがあるということを実感しました。作中でも触れていましたが、本や映像で描かれるような青春なんて現実には存在しないのかもしれませんね。

世界の醜さが知りたい綿野に、道歩がつまらない高校生活の話をするところから始まる今作。道歩が教えてくれた高校の現実、同級生の現実は、綿野を立派な「青春」の一部とさせてくれたと思います。綿野が道歩とその仲間たちと食事をしたり、お祭りを満喫したりする姿からはきらめきを感じられました。

綿野との別れを経験し、彼女が遺した思いを胸に、道歩にはどうなるかわからないこれからを一生懸命に生き抜いてほしいと願いたくなる読後感でした。

読む人によっては心の中にずっと隠していた黒い感情を思い出してしまう1冊になるかもしれません。道歩たちのようになかなか癒えない心の傷があっても、生きづらくて美しくない世の中と戦う勇気がじわじわともらえる物語でした!

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