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ナミダ列車(青春小説感想文)

一ノ瀬亜子さんの「ナミダ列車」という青春小説を読みました。

ロードノベルテイストの青春小説というあらすじに魅了され、手にしてみました。栃木県を舞台に描かれるロマン満載の電車旅に胸キュンする作品です。

どんなお話?

待っていたよ。今日をずっと待っていた。ーーどうか、俺を思い出して。
学校をサボってローカル線に乗車する早乙女いろはは、ひとりでのんびり電車旅をするはずが、対面式の座席の真向かいに座った自称ハルナという謎の男性に声を掛けられ、戸惑いを隠せない。そして、なぜか、いろはの隣に腰を下ろす乗客たちは皆、涙を流して降車してゆくーー。終点までの1時間5分のあいだに、愛と想いが奇跡を呼ぶリアルファンタジー。

版元サイトより

感想

電車での小旅行中にいろはが出会う「ハルナ」や、意味深な乗客たちは何者なのか?旅行気分を味わいながら、ミステリアスな物語に浸れました。時間に関する描写が多かったのでSFっぽい展開になるのかな?と思いましたが、実際は陽太(ハルナ)の一途な愛を感じる物語でした。

*ここから先は同一人物のため、ハルナを陽太と表記します

ぼんやりとした作風から次第に見えてくる、いろはの中にあったたくさんの「好き」。それは趣味の絵であったり、幼なじみで初恋の相手の陽太との思い出だったりと、彼女が一生大切にしたい思いでした。

いろはが数年前に失っていた大切な記憶たちを、陽太ハルナや世代の異なる乗客たちとのやりとりを通して取り戻していく様子は圧巻でした。人はいつからでもやり直すことができると実感しました。

今作の印象的なエピソードとして、陽太が大好きだった陸上をなぜか突然諦めてしまい、いろはが彼を応援するための絵を描いて賞をもらうという箇所がありました。

好きなことに夢中になる陽太が好きだったいろはにとって、彼が陸上を諦めたのは衝撃的な出来事でした。その背景には陽太が難病を患っていた事実があり、いろはが数年分の記憶を失っていたのにも彼の秘密を知ったショックも関係していました。

突如記憶を失ってしまったいろはと、難病で大好きな陸上を諦めた陽太。それぞれが抱える宿命はまるで正反対のように描かれていて、いろははどちらかというとネガティブに、陽太はいろはとの未来を信じてポジティブに描かれていると感じました。陽太のポジティブな性格はやがて、彼の宿命を変えるまでにもなります。

今作を読んで感じたのは、前向きな気持ちを持つことの強さです。

陽太の前向きな思いは自らの難病を乗り越えただけでなく、いろはの記憶を取り戻したいと願う人々にも影響を与え、いろはにとっても今後を生きていくための大きな希望にもなりました。陽太の優しさがあってこそ、電車内での壮大なサプライズは成功したのだと思います。ひとりの前向きな気持ちによって、周囲の人にも影響を与えていくところが今作最大の感動でした。

いろはの視点だけだと記憶喪失の設定が唐突すぎるなど正直なところ、読後にもやっとする点がありましたが、一方で陽太の立場から今作を振り返ってみると、少女漫画のような魅力があって、これはこれでいい作品だったなぁと思わせてくれました。

今回の本


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