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あめじろう
2017年11月30日 20:54
木枯らしに葉を吹き飛ばされた木の枝は、骸骨の指先のように、か弱く空を突き刺している。窓を閉め切った家が立ち並ぶ住宅地に、ひっそりと佇む電信柱達。 電線の網に街が捕らえられ、言葉を失っていた。 夜の瞼が降りてきて、1日が閉じられようとしている。 押しつぶされた夕陽の果汁が、街の空に染み渡って行く。 街を覆う電線の網目を、夕陽が伝い、ぽとぽとと雫する。 動物達の背中を
2017年11月28日 20:12
体ひとつ分がすっぽりと包まれる、ゆりかごのようなボートだった。仰向けに横たわり、波に揺られていた私は、目を閉じ、穏やかな潮騒を聞いていた。どこか遠くで鳴いているイルカの声が、波の音に混じり、残響する。 左手の小指が、反応を示したかのように、ぴくりと動いた。ボートが風に揺れ傾くと、私の左腕が、海に落ちた。海水は、あたたかくなめらかだ。目を開けると、陽の光できらめく水面が眩し
2017年11月18日 20:39
大昔、このあたりは海だったと聞きました。現在は、樹木の生い茂る森が広がっております。 折り重なる枝の間からは、木漏れ日が滴り落ち、虫や動物達の体を潤しております。 風に揺れ、擦れる葉の音は、潮騒のように、きらめいております。澄み渡る大空に、樹木たちは枝を伸ばします。月日と共に少しずつ、空に近づいていくのです。大人になれば、強くなれるものだと思っていました。決して、そ
2017年11月15日 15:11
たぶん、ずっと待ち焦がれていたのだ。夕陽色の落ち葉で敷き詰めれ、木漏れ日が降り注ぐトンネル。 やわらかくあたたかな落ち葉を、踏みしめながら歩く事を、ずっと。人通りの少ない、平日の公園を、昼間から歩く優越感をポケットに入れたまま、ゆっくりと歩く。かさりかさりと足元で掠れあう落ち葉達は、私が確かに、この世に存在すると、代わりに証明してくれている。わずかひと月足らずだったというのに
2017年11月13日 08:25
ずっと黙ったまま歩くあなたの背中は、早足で、いつも置いてかれそうになります。 あなたの足から伸びる影を踏み「止まって」と声にならない声を放つと、ようやく振り向いてくれました。 「夕焼けゼリー作ったんだ」 今まさに、あなたの背後の街は、夕焼けに沈む瞬間で、ぷくぷくと泡立っていました。 「夕焼けゼリー?」 「オレンジとかグレープフルーツとか柑橘系のゼリーだよ」 面倒
2017年11月10日 10:32
朱色の葉の上で生まれた朝露は、朝焼けの波の音で目が覚めた。鳥のさえずりが、朝露の頬をぷるんと震わせる。風で葉が揺れ、グラスに注がれた。 樹木の枝を滴り、寝ぼけまなこの大地を潤していく朝焼けは、静かに、しかし圧倒的に、世界を飲み込んでいく。冷たい静寂の闇は、圧倒的な朝焼けの波に恐れをなし、次々と姿を消していった。目覚めたばかりのトンボが、朝焼けで羽を洗う。羽を通った光が砕け
2017年11月6日 21:09
校舎を出ると、鱗雲が散らばっている。 忘れな草色の透明な空に。自転車のペダルを踏んで、坂道を登る。あの鱗雲のひとつが欲しくて。桜並木の坂道を、立ち漕ぎして登っていく。地に眠る魂を吸い込み、鮮やかに燃え立つ桜並木。あの先に、鱗雲が浮かぶ、高い高い空がある。桜の枝からは、朱色、緋色、赤銅色の葉が降っては僕の背中を押した。太陽が、街の向こうに沈んでいく。空の淵が、橙
2017年11月4日 20:03
月明かりの光を跳ね返し、白く輝く横断歩道を渡る男。踵で弾ける、月明かり。 つま先を浸す、月明かり。正義を振りかざす陽の光は、男の皮膚には痛すぎたのだ。月明かりの中なら、うまく呼吸が出来る。鱗雲の間から見え隠れする、月明かり。嬉しさと悲しみの狭間で見え隠れする、月明かり。横断歩道を渡りきった男が向かうのは、待ち人のいない静まり返った部屋。カーテンを失った部屋は、月明
2017年11月3日 11:57
何の為に生まれたのだろう。なんて、大それた事を考える、僕はトンボです。僕は、大きな口を開け、空のスープをごくごく飲みながら飛びます。晴れの日の透き通った青い空は、しゅわしゅわと口の中で溶けて、うきうきした気分にさせてくれます。漂う雲は、甘くふわふわしていて、柔らかい口どけ。曇りの空は、ビターな香りが漂い、少しだけ大人の気分にさせてくれます。雨雲は、しっとり懐かしい香りがし、